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第37話 バルス
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「なんかごめん、不携帯で……」
私がそういうと、ショウはその場で脱力したかのようにしゃがみこむ。
お面で視界が悪かったからすぐに気がつかなかったけれど、ショウは汗だくだった。
「ちょっと、何……汗だくじゃん。もしかして、駅からここまで走ってきたの?」
巾着からハンカチを取り出して、しゃがみこんでショウの頬にハンカチを押し付ける。
「で、だからハルキとなんで祭りに一緒に行かなかったんだよ」
ショウはストレートに聞いてきた。
「えっ? 今それどうしても聞くの? 言わないとだめ?」
私はふざけた口調でショウの質問をごまかす。
「聞くよ。ハルキは俺が紹介したんだから。何か嫌なことでもあった? そうだったら、紹介した俺の顔を立てる必要ないし、言ってくれれば俺からあいつに上手くいうから」
「嫌なことなんてされてないよ。ただ、そういう気分じゃなかったから断ったの」
本当のことは言えないから曖昧なことを言うしかない。
そういってしゃがみこんでいるショウから離れようと立ち上がったとき、ショウの手が私の手首をつかむ。
「ちょっと、何よ?」
「もう一個質問。じゃぁ……今日は誰と祭りいくつもりだったんだよ」
そりゃそうだ、私……今日浴衣まで着てる。どう考えてもデートだよなぁ。
「一人でだよ」
「はぁ……」
私がそういうと、ショウは大きなため息をついた。
「お前嘘つくの下手だな。一人で浴衣なん着て祭りに流石にいかないだろ。それも地元の」
そりゃそうだ、浴衣で来る羽目になったのは、目の前にいるショウが私との約束を急にドタキャンしたからに他ならない。
「ショウと一緒のときは、いつもTシャツにジーパンだったし、今年はショウがいないっていうから浴衣をきただけ」
「なんだよそれ」
ショウの声が不機嫌になる。
「焼きそばの大盛り食べて、まるまる焼き食べて、はしまき食べながら、焼き鳥どうしようかな? ってやるときは、浴衣なんか着れないもん」
まったく、改めて言うとホントどこの育ち盛りの食べ方してんだよって感じだ。
「Tシャツにデニムかチノパンで集合なんて、俺は今までお前に一度も言った覚えはない。お前が選んで着てたんだろ。浴衣が着たかったなら着てくればよかったじゃんか。食べたくなかったら食べなきゃいいし、無理強いされてるって思ってるなら、その場で俺にいつもみたく文句の一つでも言えばいいだろ」
ショウがいった言葉が私の心に突き刺さった。
長い間私にかけられた呪縛。
幼馴染のショウがイケメンであっても、私が彼のヒロインになれるようなツラをしてなかった。
女らしいカッコをすれば、ショウの友達の枠から排除されるんじゃないかって思ってた。
友達としてですら、隣に入れなくなることが怖かった。
「私が浴衣着てくるような女の子だったら、ショウは私と変わらず祭りに一緒に行ってくれた?」
思わず私の心の奥のほうに隠していた感情がショウの言葉を浴びて悲鳴のように口から出すつもりはなかったのに出てしまった。
「行ったよ」
ショウは私の言葉にそう即答する。
でも、その言葉がウソだって私は知ってる。
だって、ずっと好きで私はショウのことを見てきたんだもの。
「うそつき」
「はぁ? 何で嘘つきなんだよ」
「知ってるんだから……ちゃんとショウは、好きじゃない子とそういう雰囲気にならないように遠ざけてきてたの」
ショウはイケメンだ。
小さいころからいくつもの好意が彼には向けられてきた。
でも、好きになってくれた子皆とショウは向き合えるわけじゃない。そんなことしたらつかれてしまうのだと思う。
だからショウは小さい頃からの積み重ねで、相手が自分に好意を持ったとしても相手にそれを告げさせないようにする術を自然と学んできたんだと思う。
全員と向き合っていたら時間がどれほどあってもたりないし、好きと言われたとしても、ショウも好きだといって向き合える相手はたった一人だけ。
後の子は、ショウのことが好きだとしても、ショウから自分が納得いく言葉がもらえるはずもない。
時間を取られて面倒なことになる、だから、ショウは自分に女の子として近づこうとしてた子たちをやんわりと遠ざけてきてた。
中学の時部活に打ち込んでいたのもそう、ショウが好きじゃない子に付きまとわれないようにするショウが意識してるか意識してないかわからないけれど。
自分の時間を他の子に余計にとられないために私は見えた。
バレンタインデーのときだって、そうだ。
答えられない好意にショウはどうするか傍で私はずっと見てきたんだもの。
ショウが自然と相手に好意を告げさせないように距離をとる術を学んだように、私もどうやったら彼の友達の枠にいられるかをずっと考えてきたんだもの。
「それと、お前のことは関係ないだろ」
「関係あるよ!」
腕を掴んでいたショウの手を私は振り払った。
駄目、駄目、駄目。理性でストップをかけようとする。
言葉にしちゃダメ
全部終わっちゃう
……私がこれまで我慢して、自分を偽ってまで傍にいようとしていたことが、本当に全部台無しになって終わってしまう。
私に手を振り払われて、ショウがムッとした顔を隠さずに私を見つめる。
「だって、だって……」
駄目、絶対言っちゃだめよ自分。
ギュッと自分の拳を握りしめた。
そんなこと私が自分が一番わかってる。
今私が言葉に出してしまったら、もう友達としてショウの傍に入れなくなっちゃう。
なのに……私はとうとう、十数年にわたってずっとショウに言えなかったことを言葉にしてしまった。
心の奥底に押し込めていた言葉を。
偽物とはいえ、ショウに彼女がいる今。
「私、ショウのことが好きだもん」
「……えっ」
言ってしまった、口に出してしまった。
本人に言うつもりなんてなかった。
言ったら、この関係は終わりだったんだもん。
私が友達の枠にずっといたから、ショウと二人きりになることこれまで沢山あった。
それでも、ずっと言葉にあえてしなかった。
言ってしまったと思わず、自分の口元を押さえようとして、かぶっていたお面に手が当たる。
私がゆっくりと後ずさりをすると、履きなれていない下駄が音をたてた。
私がそういうと、ショウはその場で脱力したかのようにしゃがみこむ。
お面で視界が悪かったからすぐに気がつかなかったけれど、ショウは汗だくだった。
「ちょっと、何……汗だくじゃん。もしかして、駅からここまで走ってきたの?」
巾着からハンカチを取り出して、しゃがみこんでショウの頬にハンカチを押し付ける。
「で、だからハルキとなんで祭りに一緒に行かなかったんだよ」
ショウはストレートに聞いてきた。
「えっ? 今それどうしても聞くの? 言わないとだめ?」
私はふざけた口調でショウの質問をごまかす。
「聞くよ。ハルキは俺が紹介したんだから。何か嫌なことでもあった? そうだったら、紹介した俺の顔を立てる必要ないし、言ってくれれば俺からあいつに上手くいうから」
「嫌なことなんてされてないよ。ただ、そういう気分じゃなかったから断ったの」
本当のことは言えないから曖昧なことを言うしかない。
そういってしゃがみこんでいるショウから離れようと立ち上がったとき、ショウの手が私の手首をつかむ。
「ちょっと、何よ?」
「もう一個質問。じゃぁ……今日は誰と祭りいくつもりだったんだよ」
そりゃそうだ、私……今日浴衣まで着てる。どう考えてもデートだよなぁ。
「一人でだよ」
「はぁ……」
私がそういうと、ショウは大きなため息をついた。
「お前嘘つくの下手だな。一人で浴衣なん着て祭りに流石にいかないだろ。それも地元の」
そりゃそうだ、浴衣で来る羽目になったのは、目の前にいるショウが私との約束を急にドタキャンしたからに他ならない。
「ショウと一緒のときは、いつもTシャツにジーパンだったし、今年はショウがいないっていうから浴衣をきただけ」
「なんだよそれ」
ショウの声が不機嫌になる。
「焼きそばの大盛り食べて、まるまる焼き食べて、はしまき食べながら、焼き鳥どうしようかな? ってやるときは、浴衣なんか着れないもん」
まったく、改めて言うとホントどこの育ち盛りの食べ方してんだよって感じだ。
「Tシャツにデニムかチノパンで集合なんて、俺は今までお前に一度も言った覚えはない。お前が選んで着てたんだろ。浴衣が着たかったなら着てくればよかったじゃんか。食べたくなかったら食べなきゃいいし、無理強いされてるって思ってるなら、その場で俺にいつもみたく文句の一つでも言えばいいだろ」
ショウがいった言葉が私の心に突き刺さった。
長い間私にかけられた呪縛。
幼馴染のショウがイケメンであっても、私が彼のヒロインになれるようなツラをしてなかった。
女らしいカッコをすれば、ショウの友達の枠から排除されるんじゃないかって思ってた。
友達としてですら、隣に入れなくなることが怖かった。
「私が浴衣着てくるような女の子だったら、ショウは私と変わらず祭りに一緒に行ってくれた?」
思わず私の心の奥のほうに隠していた感情がショウの言葉を浴びて悲鳴のように口から出すつもりはなかったのに出てしまった。
「行ったよ」
ショウは私の言葉にそう即答する。
でも、その言葉がウソだって私は知ってる。
だって、ずっと好きで私はショウのことを見てきたんだもの。
「うそつき」
「はぁ? 何で嘘つきなんだよ」
「知ってるんだから……ちゃんとショウは、好きじゃない子とそういう雰囲気にならないように遠ざけてきてたの」
ショウはイケメンだ。
小さいころからいくつもの好意が彼には向けられてきた。
でも、好きになってくれた子皆とショウは向き合えるわけじゃない。そんなことしたらつかれてしまうのだと思う。
だからショウは小さい頃からの積み重ねで、相手が自分に好意を持ったとしても相手にそれを告げさせないようにする術を自然と学んできたんだと思う。
全員と向き合っていたら時間がどれほどあってもたりないし、好きと言われたとしても、ショウも好きだといって向き合える相手はたった一人だけ。
後の子は、ショウのことが好きだとしても、ショウから自分が納得いく言葉がもらえるはずもない。
時間を取られて面倒なことになる、だから、ショウは自分に女の子として近づこうとしてた子たちをやんわりと遠ざけてきてた。
中学の時部活に打ち込んでいたのもそう、ショウが好きじゃない子に付きまとわれないようにするショウが意識してるか意識してないかわからないけれど。
自分の時間を他の子に余計にとられないために私は見えた。
バレンタインデーのときだって、そうだ。
答えられない好意にショウはどうするか傍で私はずっと見てきたんだもの。
ショウが自然と相手に好意を告げさせないように距離をとる術を学んだように、私もどうやったら彼の友達の枠にいられるかをずっと考えてきたんだもの。
「それと、お前のことは関係ないだろ」
「関係あるよ!」
腕を掴んでいたショウの手を私は振り払った。
駄目、駄目、駄目。理性でストップをかけようとする。
言葉にしちゃダメ
全部終わっちゃう
……私がこれまで我慢して、自分を偽ってまで傍にいようとしていたことが、本当に全部台無しになって終わってしまう。
私に手を振り払われて、ショウがムッとした顔を隠さずに私を見つめる。
「だって、だって……」
駄目、絶対言っちゃだめよ自分。
ギュッと自分の拳を握りしめた。
そんなこと私が自分が一番わかってる。
今私が言葉に出してしまったら、もう友達としてショウの傍に入れなくなっちゃう。
なのに……私はとうとう、十数年にわたってずっとショウに言えなかったことを言葉にしてしまった。
心の奥底に押し込めていた言葉を。
偽物とはいえ、ショウに彼女がいる今。
「私、ショウのことが好きだもん」
「……えっ」
言ってしまった、口に出してしまった。
本人に言うつもりなんてなかった。
言ったら、この関係は終わりだったんだもん。
私が友達の枠にずっといたから、ショウと二人きりになることこれまで沢山あった。
それでも、ずっと言葉にあえてしなかった。
言ってしまったと思わず、自分の口元を押さえようとして、かぶっていたお面に手が当たる。
私がゆっくりと後ずさりをすると、履きなれていない下駄が音をたてた。
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