偽りの花嫁は貴公子の腕の中に落ちる

中村まり

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第二部 婚約者編 女伯爵の華麗なる行動

旅の道連れ~2

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見知らぬ貴婦人だが、今夜の宿が確保できると言う。もしそうであれば、渡りに船というものだ。

「それは、本当なのですか?」

貴婦人はふふと自慢げに笑う。

「わたくしの知り合いの所に今宵の宿をお願いしてありますの」

婦人は一旦言葉をきり、周囲の人間をぐるりと見渡して続けた。

「そうね、少し人数が増えそうですけれど、早馬を飛ばしておけば問題ないかと思いますわ」

ジュリアは後ろを振り返り、マークを見た。

「マーク、どう思う? 宿が確保できたようだけど」

マークもほっとした表情を浮かべながら、それでいいと頷いた。ジュリアは視線を北の商人たちに向けると、彼らも安堵したような顔をしながら彼女に言う。

「俺たちも今夜はベッドで眠りたいと思う」

「そうか。じゃあ、それで決まりだ」

ジュリアは満足げに頷く。

「では、今宵の宿は、お言葉に甘えさせてもらってよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろんですわ。一人早馬を飛ばしていただきたいのですが、お願いできます?」

「もちろんです。デイル!」

「えっ、俺っすか?」

鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてデイルが素っ頓狂すっとんきょうな声を出した瞬間、マークの拳骨がデイルの脳天に命中する。

「あっ、いでっ。マークさん、何すんですか?!」

「そういうのはお前の役目に決まってるだろうがっ」

「俺、たった今、早馬で戻ったばっかりっすよ。ちょっとくらい大目に見てくれたって・・・」

不服げに唇を尖らせるマークに、マークはジロりと睨みを利かせる。

「じゃあ、何か? 俺か、ジュ、ジリア様に早馬で行けと?」

デイルはぴくりと怯えたような顔を浮かべ、冷や汗をかきながら、へらへらと笑う。

「いやあ、そういう訳じゃないんっすけど・・・。その、旅の方たちにお願いしたらどうかなーって」

「デイル、すまないがもうひとっ走り行ってくれないか? お前が一番、早いんだよ」

ジュリアに諭されるように言われて、デイルはまんざらでもなさそうに照れくさそうに笑う。お前が一番と言われたのが嬉しかったのだろう。

「ジリア様に言われたら、仕方ないっす。じゃあ、俺、もう一走り行ってきます」

「わたくしが書状を書きますので、少しお待ちいただけるかしら?」

妙齢の貴婦人はそういうと一旦馬車に戻り、何かの走り書きを書いたようだ。
貴族らしく蜜蝋の封がしてある書状を手にして出てきたと思うと、それをジュリアに渡した。

「ここに住所が書いてありますの。ここにこの書面をお渡しになってくださる?」

「わかりました。色々とご配慮ありがとうございます」

ジュリアはそれを受け取り、デイルに渡すと、彼は再び馬に乗って勢いよく駆け出していった。



それから数時間後、ジュリアたちと北の商人たちは目を丸くして立ち尽くしていた。

「おい、デイル、本当にここで間違いないんだな?」

言われた通りに貴婦人からの手紙を届けた後、とんぼ帰りに戻ってきたデイルに誘導されて到着した場所は、

なんと貴族の館であった。

「ジュリア、大丈夫か?」

マークがさりげなく小声で尋ねれば、ジュリアも少し困惑した様子で口を開く。

「ああ、まさかお貴族様のお屋敷とは思わなかったな」

「だが、ここ以外に今夜泊まる所はないしな」

そう話し合っている傍らで北の商人たちも少し困惑している様子だった。

不慣れな貴族の館に泊まるのはさすがに敷居が高いのかもしれない。ジュリアがそう思っていると、貴婦人たちの馬車が到着した。

「お疲れ様にございます」

館の主とも見受けられる男が慌てて大きな門の前に姿を現した。主が客人を門の所まで迎えに来るのは、相手の立場がかなり上の場合だ。

一緒に来た貴婦人の名もまだよく知らなかったが、ジュリアはなんとなく事の成り行きを見守っていた。

「ああ、少し遅れてしまったけど、よろしくね。シュエリ伯」

貴婦人が馬車から降り立ち、恭しく差し伸べられた手を取りながら優雅に馬車から降り立った。

「お連れの方」

背後から声をかけられ振り向くとそこには執事と思しき初老の男性がたっていた。

「長旅お疲れでしょう。準備ができていますので、ご一行はどうぞこちらへ」

ジュリアたちも執事に案内されて屋敷の中へと入っていった。
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