転生悪役令嬢、投獄されて運命の人と出会いました~この「おとしまえ」きっちりつけさせていただきます!

中村まり

文字の大きさ
2 / 44
突然の婚約破棄からそれは始まった

地下牢への階段でこけた

しおりを挟む
そして、連れてこられたのは地下牢への入り口だった。

前後には衛兵がしっかりと逃げられないようにしっかりと固められ、長いドレスの裾を持ち上げながら、苔むした階段を降りていった。

私自身、地下牢へ足を踏み入れるのは今回が初めて。事の成り行きに不安を感じながら、一歩、また一歩と進んでいく。

地下牢へ続く階段は、手すりも何もなくて、足場がとても悪い。それに暗い。そして、狭い。

「はやく降りれないのか」

後ろにいた衛兵が、イライラとした様子でせっついてくる。

「……無理に決まっていますわ。パーティー用のドレスにハイヒール。ただでさえ、足場の悪い石の階段を下りていくのは大変ですの」

それでなくても、ふんわりと広がったロングドレスで、暗い石の階段を下りるのには、かなり至難の技なのだ。

転ばないように慎重にゆっくり降りていたのに、後ろにいる衛兵からはさらにイライラしたオーラが出ていた。

「罪人のくせに口ごたえする気か!」

後ろを歩いていた衛兵が、突然、私の背中を小突いた。ちょうどその時、ドレスの裾をつまみながら、足を踏み出した時だったのだ。

「きゃあっ」

うっかり、長いドレスの裾を踏んづけてしまって、ずるっと滑る。体のバランスを崩して、そのまま真っ逆さまに階段の下へと転落した。

「馬鹿野郎、仮にも公爵令嬢を後ろから押す奴があるかっ」

衛兵の一人が叫んだのだろう。他の衛兵たちが、驚いて表情を変えたのが見えた。

それを一瞬見た後、がんっという衝撃を最後に、ぷっつりと意識が途切れ、暗黒の闇の中へと沈んでいった。

階段を転がり落ちた時に、私は強く頭をぶつけてしまったようだった。





「ああ、今日も会社かあ。いやんなっちゃうなあ」

ピーピーとなる目覚ましをぱっと手で押さえ、私は寝ぼけた頭で目を覚ます。

窓から差し込む朝日の中、私は手際よくコーヒーを淹れ、パンを口にいれて、慌てて着替えて会社へと向かう。

電車に乗りながら、昨日遅くまでがんばった乙女ゲームの攻略方法を色々と考えていた。

最近、はまっていた乙女ゲーム「エマと王宮の精鋭なる騎士達」。

そのヒロインというのがエマ・ブランドルという子爵令嬢だ。本来は庶子であったものの、実の父に引き取られ、低い身分ながらも、王宮の中で、高貴ながらも美しい男性たちと恋愛を重ねるというゲームだ。

その中で、エレーヌ・マクナレン公爵令嬢は、身分の低い彼女を嫌い、あれやこれやと苛めてくるのだ。

「あのエレーヌをなんとかしなくっちゃ・・・あのくそ公爵令嬢、ほんとタチが悪いのよね」

一人心の中で呟くと、ちょうど駅についた所だった。

そこから会社に向かう途中ですら、呆れたことに、私はぼんやりとゲームのことばかり考えていた。それほど、このゲームにはまっていたのだ。

そして、運の悪いことに、横断歩道を渡る時に、私は左右をよく見ていなかった。ここは車の通行量が多いから、といつも気を付けていた場所だったのに。

「麗奈、危ないっ」

たまたま通りがかった会社の友達の叫び声に、はっと気づいた時、目の前いっぱいにトラックがこちらに突っ込んでくるのが見えた。



「・・・様、エレーヌ様」

遠くで誰かが呼んでいる。あれは、誰の声? なんか聞き覚えがあるような・・・・。

そう言えば、マリエル殿下に婚約破棄を言い渡されたんだったっけ・・・。

ん? ちょっと待った。

なんでマリエル殿下に婚約破棄を言い渡される訳?! それは悪役令嬢エレーヌの話だったよね?

なんだかおかしな展開に気が付いて、私はぱっと目を開ける。

一番最初に目に入ったのは、暗い石づくりの強固な牢獄。そして、私の名をずっと呼んでいたのは、子供の頃から面倒を見ていてくれた侍女のルルだった。

「ルル?」

私が声を上げると、ルルは今にも泣き出さんばかりの顔で嬉しそうに笑った。

「ああ、お嬢様、よかった。意識が戻られて」

ルルが私を少し抱き起こしてくれると、自分がどこにいるのか、はっきり悟った。地下牢の中なのである。

ルルの後ろには、子供の頃からの主治医であるアルベルグ老医師がいた。

「どれ、意識が戻られたようですが、念のため診察させていただきましょう」

あれ? あれあれ?

なんで、私、エレーヌって呼ばれている訳?

なんだかおかしな気がして、恐る恐る、尋ねてみた。

「あの・・・私の名前って、もしかして…」

老医師は穏やかな顔で私を見た。

「階段から落ちて、頭をひどく打たれたのです。記憶が途切れていらっしゃいますか?」

いや、記憶が途切れるも何も、まず、自分の名前を確認しなくては。

「ええと、私の名前は、えと…‥」

言いたくない、なんか知ったらまずいやつや、これ。

「そうですよ。エレーヌ様、エレーヌ・マクナレン公爵令嬢様にございます」

「ええっ、どうしてっ?」

ウソでしょ? どうして、私がエレーヌなの? もう一人のエレーヌである麗奈が叫ぶ。

「殿下から婚約破棄されたショックと、階段で頭を打たれたので意識が混乱されていらっしゃるのでしょう」

「まあ、お嬢様、おいたわしい。でも、ご安心くださいませ。このルルがお側におりますわ」

ルルが、お嬢様可哀そうに、と私の手をしっかりと握っている。

あまりにも驚きすぎて、声が出る所か、息も止まりそうだ。

それでも、どうしても確認しておきたいことがあって、私はルルを見た。

「ええっと、王太子のお名前は、確か、マリエル様に違いないですよね?」

「ええ、そうでございますわ。エレーヌ様、突然の、婚約破棄で王太子様のお名前も忘れるほど、混乱なさっていらっしゃるのですね」

ルルはそういうと、そっと涙をぬぐった。

それを聞いた瞬間、私は疑念が確信に変わり、ぞっとしていた。

やっぱり間違いない。自分は乙女ゲームの中に転生してしまっていたのだ。

そして、私は思い出したくもない事実を、この時、一緒に思い出してしまったのだ。

悪役令嬢エレーヌが王太子に婚約破棄を申し渡されたのは、ゲームが終了した時だ。ヒロインにとっては、ハッピーエンド。そして、エレーヌは、この後……処刑を言い渡されるのだ。

これから王太子が色々奔走して、公爵である父の反対を押し切って、国王不在につけこみ、処刑を段取りしてしまうのだ。それは今から三か月後のこと。

なにそれ。

ゲームが終ってから、記憶戻るとか、無理ゲーすぎる。

あまりにも、悲惨な未来を思い出して、私はげっそりとしてしまったのである。



皆さま、明けましておめでとうございます!

「野良竜拾ったら、女神として覚醒しそうになりました(涙)」ともども、今年もよろしくお願い申し上げます!

プロローグ部分、少し設定を変更しました。気になるかたは一話、バック、プリーズ!
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?

荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」 そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。 「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」 「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」 「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」 「は?」 さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。 荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります! 第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。 表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

行き倒れていた人達を助けたら、8年前にわたしを追い出した元家族でした

柚木ゆず
恋愛
 行き倒れていた3人の男女を介抱したら、その人達は8年前にわたしをお屋敷から追い出した実父と継母と腹違いの妹でした。  お父様達は貴族なのに3人だけで行動していて、しかも当時の面影がなくなるほどに全員が老けてやつれていたんです。わたしが追い出されてから今日までの間に、なにがあったのでしょうか……? ※体調の影響で一時的に感想欄を閉じております。

10日後に婚約破棄される公爵令嬢

雨野六月(旧アカウント)
恋愛
公爵令嬢ミシェル・ローレンは、婚約者である第三王子が「卒業パーティでミシェルとの婚約を破棄するつもりだ」と話しているのを聞いてしまう。 「そんな目に遭わされてたまるもんですか。なんとかパーティまでに手を打って、婚約破棄を阻止してみせるわ!」「まあ頑張れよ。それはそれとして、課題はちゃんとやってきたんだろうな? ミシェル・ローレン」「先生ったら、今それどころじゃないって分からないの? どうしても提出してほしいなら先生も協力してちょうだい」 これは公爵令嬢ミシェル・ローレンが婚約破棄を阻止するために(なぜか学院教師エドガーを巻き込みながら)奮闘した10日間の備忘録である。

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

処理中です...