転生悪役令嬢、投獄されて運命の人と出会いました~この「おとしまえ」きっちりつけさせていただきます!

中村まり

文字の大きさ
10 / 44
突然の婚約破棄からそれは始まった

賭け事~2

しおりを挟む
その後、アーロンと二回、カードをプレイしてみたが、結局、どちらも私の惨敗という結果に終わった。

その度に、アーロンに「ほっぺにちゅう」を強請られ、しぶしぶながらも、それに応じる。

ぐぬぬ、悔しい。

どうして負けたのかがわからずに、ほっぺを膨らませて、カードをしげしげと眺めていると、彼に手招きされた。

「なぜ負けたのか知りたいか?」

私が無言で頷くと、アーロンはポケットから別のカードを取り出した。

「ほら、これが種明かしだ」

くるりとカードの裏面をひっくり返すと、そこには、ロイヤルストレートフラッシュのセットが!

そう勝てるカードの組み合わせ一式を彼はポケットに隠し持っていたのである。

インチキか!

私がくわっと目を開きながら、ふるふると震えている顔を見て、アーロンは笑う。

騙されて、アーロンのほっぺにちゅうを三回も!

そういえば、自己紹介の時に彼は、旅の商人兼詐欺師と言ってなかったか。

うっかり彼に騙された己の迂闊さが憎い。

「ずるい。インチキだなんて、許せなくてよ!」

私が憤慨していると、アーロンは、なぜか嬉しそうに口元を緩めていた。

「じゃあ、もらったものをお返ししようか?」

「お返しって、何を?」

ぷっと膨れた私の頬を、アーロンは人差し指で押す。

「面白いな。そんなに膨れたら綺麗な顔が台無しだぞ」

今は、顔の話をしてるのではないわ!

私がアーロンの顔を上目に睨みつけていると、アーロンは、こともなげに言う。

「だったら、さっきもらった口づけを返してやる。ほら、頬を出せ」

ということは、私の頬に口づけするってことか!

私は咄嗟に手元にあったクッションをアーロンに投げつける。

「アーロンのばかっ!」

クッションは当然、格子にぶつかって床に落ちるが、その先で、彼は腹を抱えて大笑いしていた。

「エレーヌ、真っ赤だぞ。あはは、それにしても可愛いな」

今まで、可愛いなんて言われたことがなかったので、私はさらに顔を赤くしたまま、アーロンがいる格子から反対側へと逃げる。そして、クッションを抱きかかえながら、アーロンに叫んだ。

「そんなことするんだったら、もうお昼ご飯あげないからね!」

「いや、すまん、エレーヌ。それは勘弁してくれ」

お昼も夜も、ルルとガスが私の所に食事を届けてくれるのだ。それを、アーロンに分配するのは私である。

アーロン、誰が殺生与奪の権利を持っているのか、よーく、考えてみるほうがよろしくてよ?

あんまり腹が立ったので、必死になって謝るアーロンを横目に、私は熱い紅茶とお菓子を用意する。

腹が立った時ほど、美味しいお茶が飲みたくなるものなのよね。

こういう時には、最高のものを用意する。

白地に紺と金の縁取りが入った美しい模様の茶器だ。ポットからいい香りのする最高級のお茶をカップに注ぐと、芳醇な素晴らしい香りが広がる。我が公爵家でも、滅多に口にしないほど、貴重で高価なお茶だ。

「エレーヌ、ごめん。な?機嫌直してくれよ」

懇願する彼を、ふんっと無視しながら、私はソーサーを片手にもち、優雅な仕草でお茶を口にする。

「…‥あなたは香りだけ楽しんでいればよくてよ」

私はじろりとアーロンを横目で睨み、一人楽しくお茶をさせてもらった。

そうしているうちに隣の牢がなんだか静かだったので、そっと観察すると、アーロンが壁にもたれ掛かったまま、がっくりと落ち込んでいるのが見える。

その姿を魚に、散々、お茶を堪能した後、彼があまりにもがっくりと項垂れている。ちょっとだけ、可哀そうになったので、後で、アーロンに少しだけお菓子を分けてあげたのだった。

ついでに、その時、今日やったいかさまの手口を教えてもらうことを条件に、私は全部、水に流してあげたのだった。

そして、その後、新しいことをしようと思って、ゆっくりと立ち上がる。そう、筋トレである。

やはり、脱獄することが出来た時には、逃げ足が大事だろうという深い配慮のたまものだ。まだ解決策が見つからないからと言って、脱獄できない訳ではないのだ。準備は早くから始めておいたほうがいい。

「何をしている?」

地下牢で何やら怪しげな動きをしている私に、アーロンは怪訝な顔で聞いてきた。私は看守に聞かれないように、こっそりと格子の側まで近寄り、彼にそっと教えてあげた。

「ほら、もし、脱獄できた時にね、早く走れなかったらつかまっちゃうでしょう? だから、今は、その練習!」

「……なんだ、何を考えているかと思ったら」

「ふっふっ。備えあれば憂いなし!っって言うでしょ?」

胸を張っていうと、何故か、アーロンはがっくりと項垂れる。

……私、何か変なこと言った?!

何かのダメージから、さっと立ち直ったアーロンは、こほんと胸を張り、ちょっと偉そうに言う。

「じゃあ、俺が指導してやる」

「あなた、いかさま師じゃなかったっけ? ペテン師って体力いるの?」

「長く旅をしてるんだ。剣術くらいは出来るさ」

「へえ?」

意外な顔をしていると、旅をしていると、賊に襲われることもあるから、自分の身を守るくらいの剣術は必須なのだそうだ。

「そっか。じゃあ、私も自分の身くらい守れないとダメかなあ」

「だから、俺が、教えてやる」

なぜか、「俺が」という所を強調して彼は言う。

「だけど、剣なんか、手元になくてよ?」

「大丈夫だ」

彼は、そう言うと、手元にあった長い紙をくるくると丸める。

おお、昔、子供の頃、チャンバラとかでよく使ったね。前世を思い出して、なんとなく思い出に浸っている私に、彼は、ほら、と言って、紙の筒を渡してくれた。

彼は紙の剣を手に、剣技のフットワークから教えてくれた。私も見よう見まねで、動くと、後ろから彼が、ぷっと吹きだす音が聞こえた。

ん?笑うのは失礼ではなくて?

そう思ったが、いざという時には剣技だって必要なのだ。

後ろから響く、ぷーくすくすというアーロンの笑い声は聞こえないフリをして、私は紙の剣を教えられた通りに一生懸命振り回す。

うっすらとかいた汗を拭きながら、運動は、確かにストレス軽減に役に立つのだと、私は心の底から実感していたのである。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

処理中です...