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突然の婚約破棄からそれは始まった
大勝負
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アーロンの手を取り、馬車から降り立った瞬間、周囲のざわめきが大きくなったような気がする。
突然、音楽がやんだ。周囲の人々は誰も口をきかず、驚きを通り越して、ショックを受けているのだろうか。
誰一人、身じろぎしないでいた。
「ほら、音楽、続けて!」
指揮者が慌てたように楽隊に指示をすると、とってつけたような音が再び鳴り始めた。出迎えに来た次官や、外交官なども、ようやく我に返ったようだった。
外交上の儀礼を果たさなければと、恐る恐るこっちに近づいてきた。
「ようこそ、我が国においでくださいました。アーノルド殿下のお連れ様。その、知り合いにたいそう似ていらっしゃったので、失礼をお許しください」
今の私は王族かと思うくらい飾り立てたれている。見事は宝石が細工されたティアラ、ふんわりとした素晴らしい豪華なドレス。それに、アーロンが贈ってくれた最高級の毛皮をふんわりと肩に沿わせて、私は、この上もないほど、優雅な笑顔を向けてやった。
ただの他人のそら似だと思っているのだろう。
牢獄で死んだと思われた貴族令嬢が、突然、他国の王族として現れたら、そりゃ、びっくりするはずだ。
「まあ、誰と似てらっしゃるの?」
薄く上品な笑いを浮かべて、いかにもおしとやかに聞くと、男は慌てたように言葉を濁す。
「その姫君が気にされるような者ではございません」
私が他国のどっかの姫君だと思っているのだろう。次官はアーロンに振り返り、丁寧な礼をとる。
「どうぞ、こちらにお越しください。それで、姫君のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
アーロンはいかにも好感度の高そうな笑顔で、次官に伝える。
「ああ、エレーヌ・マクナレン公爵令嬢だが?」
その名前を聞いた瞬間、やはり次官が凍り付いた。
「やはり・・・・・・エレーヌ嬢」
男はさっと顔色が変わり、どうしたものかと周囲の人間に視線を向けた。
私は、さっと扇を取り出して、さも上品に笑う。
「もう、わたくしの顔をお忘れになるなんて、薄情すぎやしませんこと? アレス補佐官」
「な、なぜ、貴女がここに……」
私の顔見知りであった男は、驚きのあまり、足が少し震えていた。
そう彼もかつての私の知り合いの一人であった。
彼が周囲の様子をさっと伺い、何気ない風を装う。
「貴女は投獄されて死んだはずでは」
「ふふふ、さあ、なぜかしらね」
私は余裕たっぷりに、ミステリアスな笑顔を浮かべる。
「なぜ、ここにいらっしゃるのかわかりませんが、どうかお気をつけください。我々も貴女の無実を信じております」
そこで、次の来賓が到着したファンファーレがなる。
彼を巻き込んでしまわないように、私は少し声を大きくした。
「はやく、お通ししてくださらない?わたくし、もう待ちくたびれてしまいましてよ?」
「ええ、もちろんです。マダム。失礼いたしました。どうぞ、こちらへ」
アーロンが差し出した腕に、自分の手を重ねて、おしとやかに中へと進む。
周囲の人間は、未だに私がどこかの姫君なのだと信じて疑わないなようだ。
子供の頃から慣れ親しんだ宮殿は、今も何一つ変わらず、ただただ私とこの国の人たちとの関係がすっかり変わってしまったことが、なんだか変に感じた。
さあ、これからが勝負。
壮麗な装飾のされた廊下を歩けば、大きな部屋につれていかれた。そこは、賓客のレセプションルームというようなものだろうか。
すでに既知の知り合いがいるらしく、アーロンに向かって会釈する人たちがいた。
突然、音楽がやんだ。周囲の人々は誰も口をきかず、驚きを通り越して、ショックを受けているのだろうか。
誰一人、身じろぎしないでいた。
「ほら、音楽、続けて!」
指揮者が慌てたように楽隊に指示をすると、とってつけたような音が再び鳴り始めた。出迎えに来た次官や、外交官なども、ようやく我に返ったようだった。
外交上の儀礼を果たさなければと、恐る恐るこっちに近づいてきた。
「ようこそ、我が国においでくださいました。アーノルド殿下のお連れ様。その、知り合いにたいそう似ていらっしゃったので、失礼をお許しください」
今の私は王族かと思うくらい飾り立てたれている。見事は宝石が細工されたティアラ、ふんわりとした素晴らしい豪華なドレス。それに、アーロンが贈ってくれた最高級の毛皮をふんわりと肩に沿わせて、私は、この上もないほど、優雅な笑顔を向けてやった。
ただの他人のそら似だと思っているのだろう。
牢獄で死んだと思われた貴族令嬢が、突然、他国の王族として現れたら、そりゃ、びっくりするはずだ。
「まあ、誰と似てらっしゃるの?」
薄く上品な笑いを浮かべて、いかにもおしとやかに聞くと、男は慌てたように言葉を濁す。
「その姫君が気にされるような者ではございません」
私が他国のどっかの姫君だと思っているのだろう。次官はアーロンに振り返り、丁寧な礼をとる。
「どうぞ、こちらにお越しください。それで、姫君のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
アーロンはいかにも好感度の高そうな笑顔で、次官に伝える。
「ああ、エレーヌ・マクナレン公爵令嬢だが?」
その名前を聞いた瞬間、やはり次官が凍り付いた。
「やはり・・・・・・エレーヌ嬢」
男はさっと顔色が変わり、どうしたものかと周囲の人間に視線を向けた。
私は、さっと扇を取り出して、さも上品に笑う。
「もう、わたくしの顔をお忘れになるなんて、薄情すぎやしませんこと? アレス補佐官」
「な、なぜ、貴女がここに……」
私の顔見知りであった男は、驚きのあまり、足が少し震えていた。
そう彼もかつての私の知り合いの一人であった。
彼が周囲の様子をさっと伺い、何気ない風を装う。
「貴女は投獄されて死んだはずでは」
「ふふふ、さあ、なぜかしらね」
私は余裕たっぷりに、ミステリアスな笑顔を浮かべる。
「なぜ、ここにいらっしゃるのかわかりませんが、どうかお気をつけください。我々も貴女の無実を信じております」
そこで、次の来賓が到着したファンファーレがなる。
彼を巻き込んでしまわないように、私は少し声を大きくした。
「はやく、お通ししてくださらない?わたくし、もう待ちくたびれてしまいましてよ?」
「ええ、もちろんです。マダム。失礼いたしました。どうぞ、こちらへ」
アーロンが差し出した腕に、自分の手を重ねて、おしとやかに中へと進む。
周囲の人間は、未だに私がどこかの姫君なのだと信じて疑わないなようだ。
子供の頃から慣れ親しんだ宮殿は、今も何一つ変わらず、ただただ私とこの国の人たちとの関係がすっかり変わってしまったことが、なんだか変に感じた。
さあ、これからが勝負。
壮麗な装飾のされた廊下を歩けば、大きな部屋につれていかれた。そこは、賓客のレセプションルームというようなものだろうか。
すでに既知の知り合いがいるらしく、アーロンに向かって会釈する人たちがいた。
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