野良竜を拾ったら、女神として覚醒しそうになりました(涙

中村まり

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第二部 フロルの神殿生活

リルの願い~3

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「おかえり、フロル」

ダーマ亭の入り口。

フロル達が到着したことを知った母親が大きく扉を開ける。その視線の先には、綺麗に成長した娘と、その後ろに立つ銀髪の髪の若い男性。

「まあ、フロル、綺麗になって……。本当に良かった」

「母さん、ただいま」

母親が涙ぐみながら、フロルをぎゅっと抱きしめる。フロルも目を閉じてぎゅっと母を抱き返した。

「お父さん、フロルたちが到着しましたよー」

その声を聞いて、どたどたと階段を下りてくる音が聞こえた。おおらかで、ちょっと太めの父親。そして、その後から続く足音は紛れもなく、弟のウィルのものだ。

「フロル、お帰り!」

おおらかな父親が帰ってきた娘を見た途端、うるうると涙を浮かべた。

「大きくなったなあ。フロル」

「ほんと、別嬪さんになって。村一番の器量良しだよ」

母親も大きく頷き、一緒になって涙を滲ませる。

「本当に大きくなって、綺麗になったなあ・・・」

そして、父親が感慨にむせていると、後ろからウィルが走ってきて、勢いよくフロルに抱き着いた。

「おねえちゃんっ!」

「ウィル!久しぶり!」

フロルが嬉しそうに笑うと、ウィルはフロルを見上げて、へへへと笑う。

「ぼく・・・すこし、はなせ・・・るように・・・なったよ!」

「すごいね。ウィル」

感極まってフロルが涙ぐんでいると、後ろから、ヒンヤリしたオーラ―が流れてきた。

「きゅぅぅう……‥」

フロルの後ろにリルが立っていたのだが、見るからに気に入らなさそうな感じを全面に押し出して、ウィルをじと目で眺めていた。

「あ、りゅう?」

ウィルはリルを見るのが実は初めてである。そして、リルもウィルを見るのは初めてである。

リルは、何を思ったのか、突然、一歩前に踏み出し、フロルとウィルの間に、ぬれた鼻先を突っ込んできた。リルが盛大にウィルにやきもちを焼いているのだ。

何故か、リルとウィルの間には、なにやら陰湿な空気が流れている。

フロルは、ちょっとだけ、訳のわからない汗を掻きながら、引きつった笑いを浮かべた。

「あ、これはリル。私の竜よ」

「こんにちは、リルちゃん。ぼくは……」

ウィルが自己紹介をしようとリルに近づくと、リルはぷいっとそっぽを向く。小さなウィルに対抗意識を燃やしているのだ。

「ウィル、竜さんは嫌がってるからこっちに来なさい」

遅れてやってきた父親が、ウィルを引き寄せ、フロルの後ろにいたギルに声をかける。

「リード様。長い旅路、お疲れでしょう。どうぞお入りください」

まだ、家族には、ギルとの婚約を伝えていない。フロルの家族たちは、単純にギルがフロルを送り届けてくれたのだと信じているようだ。

フロルはギルと視線を交わす。婚約の話をするのは夕ご飯の後でいいだろう。

その間に、自分達が持ってきた荷物を父が手早く中に運んでくれた。

とりあえず、家族には挨拶したし、フロルはいつも通り、エスペランサとリルを連れて馬屋に行くことにした。

「父さん、じゃあ、私は馬と竜の世話があるから、馬屋に行くね」

「じゃあ、リード様はお部屋にお通しするわね」

母親が手際よく、ギルを連れて二階の部屋に連れていく。

「じゃあ、ギル様、また後で」

「ああ、夕食の時にな」

そうやって、リルとエスペランサを馬屋に連れて行くと、リルは何かを悟ったようで、キョロキョロと中を見回していた。

「リル、覚えてる? 最初にうちに来た時の馬屋だよ」

「きゅう!」

リルも懐かしそうにあたりをきょろきょろと見回し、いつも潜っていた藁の小山を見つけて、目をキラキラと輝かせている。最初にこの小屋に来た時のことを覚えているのだろう。

あちこちをふんふんと嗅ぎまわり、懐かしい匂いを堪能している。

その間に、フロルはエスペランサの鞍や鐙を外してやり、やれやれと言った感じの馬に水をやる。喉が渇いていたのだろう。エスペランサも上機嫌で水をごくごくと飲んでいた。

この二匹は、この馬屋が気に入っていたようで、二匹のテンションも、いつもの何倍も上がっている。二匹のくつろぎ具合が半端ない。

「リル、ほら、水と、取り立てのブール草だよ」

予め母親に頼んでおいたおかげで、青々としたブール草が桶の中に入っていた。

「きゅうっ」

リルもブール草を見つけると、嬉しそうに駆け寄ってきて、ごくごくと水を飲んだ後、草を一心不乱に食べ始めていた。

馬小屋の隅には、リルが大好きだった藁がうずたかく積んであったし、リルも草を食べながら満足そうだったので、フロルはそっと馬小屋を立ち去ることにした。

両親曰く、フロルが帰ってくるので、他のお客さんは取っていないとのこと。今日は、ダーマ亭は貸し切りで、家族水入らずの時間を楽しむのだと、父が気合を入れていたのだそうだ。

馬屋の扉を開けると、日はすっかりと傾き、一番星が上がっていた。家からは料理のいい匂いが漂ってくる。今日は母が気合を入れてご馳走を作ってくれてるのだろう。

家っていいな。

フロルは夕食を楽しみにしながら、馬小屋の扉をそっと締めた。

馬屋に残されたリルは、エスペランサをじっと見つめる。

エスペランサと一緒になるのは随分と久しぶりだった。いつもは竜達と一緒に竜舎で寝ているのだが、馬は一日走ってきて疲れたのだろう。すぐにうとうとと微睡み始めた。

リルはぼてぼてと藁の小山に近寄り、鼻先で小山を崩して、地面に広げた。そして、その上に寝そべりながら、目をつぶってうとうとと眠りかけると、何かを思い出したようにはっと目を開けた。

それを何回か繰り返した後、リルは鼻先で藁をつつき、もそもそと窓の側へと移動させる。

フロルがいる小屋の明かりがつき、馬小屋にまで家族団らんの楽しそうな声が響いてくる。リルはその声を上の空で聞きながら、窓からずっと空を見つめていた。

その間にも家族の団らんも終わり、深夜へと近い時間へと変わった。やがて、小屋の明かりが消え、人々が寝静まった後でも、リルは空の星から目を離さず、一生懸命に空を眺め続けていた。

そして、その夜遅く。ダーマ亭の空高い所に、うっすらとした光が夜空に現れ、光度を増しながら、西から東へと流れていく。

馬屋の窓から目をそらすことなく、リルは静かに空を横切っていく流星を熱心に見つめていたのである。

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