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第6章:トゥルーエンド
トゥルーエンドの真実
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その日は冬の終わりらしい穏やかな陽射しに満ちていた。風は冷たく澄んでいたが、どこか優しい。
リディアはいつもより早く目が覚めた。小さく息を吐く。
(いよいよ卒業式。ゲーム内では……ルートが決まる日)
朝食を取り、身支度を整える。
光沢のあるリボンをきゅっと結ぶと気持ちが引き締まった。制服を着るのも今日で最後。そう思うと、どこか名残惜しい。
その間にも鼓動はずっと高鳴っている。
それでもアーニャはいつもと同じ微笑みで「いってらっしゃいませ」と見送ってくれた。それがありがたかった。
***
学園の門をくぐり、学び舎を見上げる。いつもと変わらない校舎。
一方で学生たちは卒業という非日常にどことなく浮き足だっているような感じがした。
(今日はこれから何が起こるのかしら。もうゲームの知識なんて何の役にも、たたない……)
リディアは友人たちと挨拶を交わし、笑い合いながらも、心のどこかにある影を振り払えないでいた。
ふと見ると、レオナルドが従者と共に登校してきた。朝の光に金の髪が輝いている。
リディアの前で足を止めるレオナルド。その表情は優しい。リディアは深く頭を下げた。感謝と尊敬の想いを込めて。
「リディ。卒業、おめでとう」
「殿下も……おめでとうございます」
たった一言の会話。でもそれはとても心に沁みる時間だった。
教室へ向かう途中、カイルが廊下の向こうから歩いてきた。手を挙げ、黒い瞳を細めて屈託のない笑顔を向けてくる。
「リディ、いよいよ卒業だな! なんかお前、今日……めちゃくちゃ緊張してる顔してるな!?」
変わらないやり取りにリディアの心が安らいだ。笑って彼に応える。
「今日で終わりって思ったら、気も引き締まるってものよ。あなたはいつも、変わらないわね」
教室で友人たちと語らっていると、その前を茶色の髪をなびかせて通る人がいた。ルシアンだ。いつものように明るく声をかけてくる。
「リディ! 今日でその可愛らしい制服姿も見納めだね! 今のうちにたくさん見ておかないと。そして私の制服姿も、見るなら今がチャンスだよ!」
「ふふっ、ルシアン様は相変わらずですね」
そう言って軽く手を振ると、返ってきたのは優しい微笑み。それを見て張り詰めていたリディアの気持ちが少しほどけた。
式のために講堂に向かう際、ジークと目が合った。彼の淡い青色の瞳は静かにリディアを見ていた。その眼差しは柔らかい。が、言葉は何も発さなかった。
リディアも何も言わず、ぺこりと会釈をした。それを見た彼の口角がふっとあがった。それだけで、胸の奥がふわりと熱くなった。
「リディア!」
アイラが亜麻色の髪を揺らして駆け寄り、リディアの両手を握る。琥珀色の瞳がキラキラと見つめてきた。
「今日、本当に卒業なんだね。寂しいけど……でも私たち、ずっと友達だよね!」
その言葉がリディアの心を暖かくする。アイラの手を握り返し、強く頷いた。
「ええ、もちろんよ。アイラ」
***
卒業式が始まった。
講堂には、厳かな空気が張り詰めていた。頭上には星縁幕が掲げられ、皆を見守っている。
生徒たちの声が重なり、星縁幕への祝福と願いの響きになった。
「感謝しよう、これまでの縁に。祈念しよう、これからの縁に」
リディアも両手を組んで祈った。
(この祈りが、皆の未来を照らしますように。皆が選んだ道を、歩めますように——)
次の瞬間、星縁幕が淡く光り始めた。
光は徐々に強くなり、やがてまばゆい白金の輝きとなる。何か違う様子に講堂内も騒めく。
(なに、これ……?)
あまりの眩しさにリディアは目を閉じた。その強烈な光はそのまま講堂全体を包む。瞼の裏も白に染め抜かれ、何も見えなくなった——。
ピコン!
不意に、ゲームのSEのような乾いた電子音が虚空に弾けた。
リディアはそっと目を開けた。そこはさっきまでいた講堂。しかしそこにいるのは彼女1人だけ。他には誰もいない。
そして目の前には透明なゲームウィンドウが浮かび上がっていた。
《全員の好感度、友情条件を満たしました。真実の結末が開放されます》
「え……っ」
声が漏れた。息が止まる。手が震える。
(やった……の? 私は……到達できたの?)
そのとき、“声”がリディアの耳に響いた。
『……おめでとう。あなたは物語の全ての心を照らした。だから……この物語は“終わる”の』
(今度は何? 終わるって? それにこの声、どこかで……?)
しかし理解する間もなく、目の前のゲームウィンドウが砕け散った。その断片は光の粒となり、風に吹かれた花びらのように虚空に消えていく。
「えっ、何が……」
リディアは驚いたが、それだけではなかった。
講堂の柱が音もなく、ひび割れた。その壁が砂のようにさらさらと崩れ落ちる。床も天井も光の粒となり、消えていく。
そこから覗いた青い空は裂け、大地が軋んだ音を立てる。振動でリディアの足元が震えた。
見慣れた景色が、まるで夢が覚めるときのように光と影の粒子に変わり儚く消えていった。
静かに、しかし確実に、崩壊が始まっていた。
リディアは混乱した。
(なにが……起こっているの? 世界が、崩れている? これは……私のせいで……?)
そんな中、またしてもあの声が響いた。
『私たちも、この世界も、物語の登場人物。あなたは皆と真実の心で向き合った。“真実の結末”を選んだ。だから、この『薔薇色の夢』のシナリオはもう、不要。選択肢、ルート、運命——そのすべてが消えるの』
その声に呼応するように、リディアの足元には無数の文字列が浮かび上がった。
《選択肢》
《好感度》
《ルート分岐》
《断罪イベント》
《シナリオ進行》
それらが白い光の帯となり、うねり、空中を舞う。そして次の瞬間、幻であったかのように消滅した。耳には紙を破るような、データが消えるようなノイズが響く。
あの声が続けた。
『これで……誰を選ぶこともない。誰も傷つかない。幸せな記憶のまま……』
(これが……結末……? “誰も選ばない未来”って、そもそも選ぶ未来すら無くす、ってことなの……!?)
光と影の狭間にはひとつひとつ、記憶の光景がゲームのスチルのように浮かんでいた。
レオナルドとのテラスでの邂逅、カイルとの星祭りの夜、ルシアンとの台本読み練習、ジークへの魔力供給。そして、カフェテリアでのアイラとのひととき。
しかしそれらは、崩れゆく世界の中で、揺らぎ、淡くなって宙を舞っていた。
(皆の未来が……)
リディアの心の奥が、締めつけられるように痛んだ。思わず叫んでいた。
「待って! 私はそんなこと、望まない! どうしたらいいの……? このままじゃ……みんな、消えてしまう!」
ピコン!
その声に呼応するかのように、場違いなSEが再び響いた。
そして目の前には、最初に見たのものと同じようなゲームウィンドウが静かに現れていた。
しかしその輝きは不安定で、いつ砕けてもおかしくないほどのもろい光。
《最終選択》
▶ a. すべてを忘れ、物語を最初から紡ぎ直す
▶ b. これまでの絆と記憶を胸に、この世界を現実として生きる
それを見た瞬間、リディアの胸が大きく跳ねた。
(まるでゲームの選択画面。私に選べと、いうの? すべてをやり直せば……これまでの悩みも葛藤も消える。それとも……この想いも、痛みも全部背負って……生きるのか)
リディアは震える手を胸の前でぎゅっと握りしめた。
今までの全ての光景が、大切な彼らのことが、脳裏に浮かぶ。
レオナルドの強い意思を感じさせる眼
カイルの真っ直ぐな視線
ルシアンの茶目っ気たっぷりの眼差し
ジークの静かで熱をたたえた眼光
そして、アイラの笑った瞳
(私は……選ぶ。もう誰も、選ばれるだけの存在じゃないから——)
リディアは一度目を閉じた。
一つ呼吸を置いて再び開いた翠の瞳は、真っ直ぐに前を見つめていた。彼女はゆっくりと手を伸ばし、選択肢を押した。
リディアはいつもより早く目が覚めた。小さく息を吐く。
(いよいよ卒業式。ゲーム内では……ルートが決まる日)
朝食を取り、身支度を整える。
光沢のあるリボンをきゅっと結ぶと気持ちが引き締まった。制服を着るのも今日で最後。そう思うと、どこか名残惜しい。
その間にも鼓動はずっと高鳴っている。
それでもアーニャはいつもと同じ微笑みで「いってらっしゃいませ」と見送ってくれた。それがありがたかった。
***
学園の門をくぐり、学び舎を見上げる。いつもと変わらない校舎。
一方で学生たちは卒業という非日常にどことなく浮き足だっているような感じがした。
(今日はこれから何が起こるのかしら。もうゲームの知識なんて何の役にも、たたない……)
リディアは友人たちと挨拶を交わし、笑い合いながらも、心のどこかにある影を振り払えないでいた。
ふと見ると、レオナルドが従者と共に登校してきた。朝の光に金の髪が輝いている。
リディアの前で足を止めるレオナルド。その表情は優しい。リディアは深く頭を下げた。感謝と尊敬の想いを込めて。
「リディ。卒業、おめでとう」
「殿下も……おめでとうございます」
たった一言の会話。でもそれはとても心に沁みる時間だった。
教室へ向かう途中、カイルが廊下の向こうから歩いてきた。手を挙げ、黒い瞳を細めて屈託のない笑顔を向けてくる。
「リディ、いよいよ卒業だな! なんかお前、今日……めちゃくちゃ緊張してる顔してるな!?」
変わらないやり取りにリディアの心が安らいだ。笑って彼に応える。
「今日で終わりって思ったら、気も引き締まるってものよ。あなたはいつも、変わらないわね」
教室で友人たちと語らっていると、その前を茶色の髪をなびかせて通る人がいた。ルシアンだ。いつものように明るく声をかけてくる。
「リディ! 今日でその可愛らしい制服姿も見納めだね! 今のうちにたくさん見ておかないと。そして私の制服姿も、見るなら今がチャンスだよ!」
「ふふっ、ルシアン様は相変わらずですね」
そう言って軽く手を振ると、返ってきたのは優しい微笑み。それを見て張り詰めていたリディアの気持ちが少しほどけた。
式のために講堂に向かう際、ジークと目が合った。彼の淡い青色の瞳は静かにリディアを見ていた。その眼差しは柔らかい。が、言葉は何も発さなかった。
リディアも何も言わず、ぺこりと会釈をした。それを見た彼の口角がふっとあがった。それだけで、胸の奥がふわりと熱くなった。
「リディア!」
アイラが亜麻色の髪を揺らして駆け寄り、リディアの両手を握る。琥珀色の瞳がキラキラと見つめてきた。
「今日、本当に卒業なんだね。寂しいけど……でも私たち、ずっと友達だよね!」
その言葉がリディアの心を暖かくする。アイラの手を握り返し、強く頷いた。
「ええ、もちろんよ。アイラ」
***
卒業式が始まった。
講堂には、厳かな空気が張り詰めていた。頭上には星縁幕が掲げられ、皆を見守っている。
生徒たちの声が重なり、星縁幕への祝福と願いの響きになった。
「感謝しよう、これまでの縁に。祈念しよう、これからの縁に」
リディアも両手を組んで祈った。
(この祈りが、皆の未来を照らしますように。皆が選んだ道を、歩めますように——)
次の瞬間、星縁幕が淡く光り始めた。
光は徐々に強くなり、やがてまばゆい白金の輝きとなる。何か違う様子に講堂内も騒めく。
(なに、これ……?)
あまりの眩しさにリディアは目を閉じた。その強烈な光はそのまま講堂全体を包む。瞼の裏も白に染め抜かれ、何も見えなくなった——。
ピコン!
不意に、ゲームのSEのような乾いた電子音が虚空に弾けた。
リディアはそっと目を開けた。そこはさっきまでいた講堂。しかしそこにいるのは彼女1人だけ。他には誰もいない。
そして目の前には透明なゲームウィンドウが浮かび上がっていた。
《全員の好感度、友情条件を満たしました。真実の結末が開放されます》
「え……っ」
声が漏れた。息が止まる。手が震える。
(やった……の? 私は……到達できたの?)
そのとき、“声”がリディアの耳に響いた。
『……おめでとう。あなたは物語の全ての心を照らした。だから……この物語は“終わる”の』
(今度は何? 終わるって? それにこの声、どこかで……?)
しかし理解する間もなく、目の前のゲームウィンドウが砕け散った。その断片は光の粒となり、風に吹かれた花びらのように虚空に消えていく。
「えっ、何が……」
リディアは驚いたが、それだけではなかった。
講堂の柱が音もなく、ひび割れた。その壁が砂のようにさらさらと崩れ落ちる。床も天井も光の粒となり、消えていく。
そこから覗いた青い空は裂け、大地が軋んだ音を立てる。振動でリディアの足元が震えた。
見慣れた景色が、まるで夢が覚めるときのように光と影の粒子に変わり儚く消えていった。
静かに、しかし確実に、崩壊が始まっていた。
リディアは混乱した。
(なにが……起こっているの? 世界が、崩れている? これは……私のせいで……?)
そんな中、またしてもあの声が響いた。
『私たちも、この世界も、物語の登場人物。あなたは皆と真実の心で向き合った。“真実の結末”を選んだ。だから、この『薔薇色の夢』のシナリオはもう、不要。選択肢、ルート、運命——そのすべてが消えるの』
その声に呼応するように、リディアの足元には無数の文字列が浮かび上がった。
《選択肢》
《好感度》
《ルート分岐》
《断罪イベント》
《シナリオ進行》
それらが白い光の帯となり、うねり、空中を舞う。そして次の瞬間、幻であったかのように消滅した。耳には紙を破るような、データが消えるようなノイズが響く。
あの声が続けた。
『これで……誰を選ぶこともない。誰も傷つかない。幸せな記憶のまま……』
(これが……結末……? “誰も選ばない未来”って、そもそも選ぶ未来すら無くす、ってことなの……!?)
光と影の狭間にはひとつひとつ、記憶の光景がゲームのスチルのように浮かんでいた。
レオナルドとのテラスでの邂逅、カイルとの星祭りの夜、ルシアンとの台本読み練習、ジークへの魔力供給。そして、カフェテリアでのアイラとのひととき。
しかしそれらは、崩れゆく世界の中で、揺らぎ、淡くなって宙を舞っていた。
(皆の未来が……)
リディアの心の奥が、締めつけられるように痛んだ。思わず叫んでいた。
「待って! 私はそんなこと、望まない! どうしたらいいの……? このままじゃ……みんな、消えてしまう!」
ピコン!
その声に呼応するかのように、場違いなSEが再び響いた。
そして目の前には、最初に見たのものと同じようなゲームウィンドウが静かに現れていた。
しかしその輝きは不安定で、いつ砕けてもおかしくないほどのもろい光。
《最終選択》
▶ a. すべてを忘れ、物語を最初から紡ぎ直す
▶ b. これまでの絆と記憶を胸に、この世界を現実として生きる
それを見た瞬間、リディアの胸が大きく跳ねた。
(まるでゲームの選択画面。私に選べと、いうの? すべてをやり直せば……これまでの悩みも葛藤も消える。それとも……この想いも、痛みも全部背負って……生きるのか)
リディアは震える手を胸の前でぎゅっと握りしめた。
今までの全ての光景が、大切な彼らのことが、脳裏に浮かぶ。
レオナルドの強い意思を感じさせる眼
カイルの真っ直ぐな視線
ルシアンの茶目っ気たっぷりの眼差し
ジークの静かで熱をたたえた眼光
そして、アイラの笑った瞳
(私は……選ぶ。もう誰も、選ばれるだけの存在じゃないから——)
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