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3 屋敷にて
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「一目惚れした。オレと結婚しろ」
〈異端〉の言葉に、ロメリアは唖然とする。
何を言われているのか分からなかった。昔話の主人公の〈異端〉は、そんなことを言う人ではないはずだ。
(……もしかして、人違い?)
目の前にいるのは、異端のクズなどではなく、〈異端〉と名乗っているだけの良く似た別人なのかもしれない。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか屋敷の中に連れ込まれていた。
「えっ、あの、まだ返事をしていないのですが」
「駄目か?」
「私、貴方のことをよく知りませんし……」
「なら、まずはオレに惚れてもらうところから始めるとしよう」
高い天井からシャンデリアが光を降らしている。よく磨かれた大理石の床が煌めき、あちこちの金属が光を反射する。階段と廊下に敷かれた絨毯は、汚れも埃も無く、整った毛並みが繊細に描かれた模様を見せている。
廃墟のような外観からは想像も出来ないほど、屋敷の中は綺麗だ。
ロメリアが戸惑っている間に、〈異端〉は彼女の手を引いて寝室へ案内した。
「ここがお前の部屋だ。クローゼットの中にはオレからの贈り物が入っている。喜んでもらえたら嬉しい」
「えっ……」
ガチャン。
部屋に放り込まれたロメリアは、後ろで大きな音がしたのに驚き振り向いた。そこにはもう〈異端〉はいない。閉ざされた扉があるだけだ。
混乱する頭を抑えながら、クローゼットを開けてみる。
目がくらんだ。
レースがふんだんに使われた、様々な色の豪奢なドレス。金銀宝石があしらわれた装飾品の数々。
どれもこれも、妹に奪われるせいで縁が無かったものだ。ずっと着てみたいと、着けてみたいと、思っていたものだ。
ロメリアは、浮かれるように手を伸ばした。好みの色のドレスと、それに合いそうなアクセサリーを持って鏡の前に立つ。実家では使用人も妹に奪われていたので、身支度は自分一人でこなしていた。だから問題無く着替えることが出来た。
「食事にしよう」
「ひゃっ⁉」
突然耳元にかけられた声に、ロメリアは跳び上がった。
「お、驚かせないでください」
「すまなかった」
〈異端〉は素直に謝りながら席に着く。
部屋のテーブルには、いつのまにか湯気の立った料理が並んでいた。いつ誰がどうやって用意したものかは分からないが、それはドレス等も同じだ。ロメリアは気にしないことにした。気にしたら負けだと思った。
「いただきます」
ソファーに座って料理を口に運ぶ。運ぶ。運ぶ。
夢中になった。旨味が口の中に広がる。今まで食べた何よりも美味しい。
「喜んでもらえたようで何よりだ」
その声にハッとする。
(何やってるの私! もっと警戒しなくちゃ!)
浮かれすぎにもほどがある。目の前の彼は、人違いでなければ、凶悪な殺人鬼なのだ。
ロメリアは用意された料理を綺麗に平らげてから、優雅に微笑んでみせる。
「美味しかったです」
「オレと結婚する気になったか?」
「いいえ、そんなに早くは決められません」
「そうか、ではまた明日」
次の瞬間、彼は部屋から消えた。ついでに食器も消えていた。
ロメリアは、全てが夢だったかのように思えてきて、とりあえず寝ることにした。
翌朝、目覚めたロメリアは、呆然と呟いた。
「夢じゃなかった……」
ベッドから降りて、何の気なしに部屋のドアに手をかける。
開かない。
(え……? 鍵でもかかってるの?)
鍵は内側から開閉できるはずだ。だが、鍵らしきものは見当たらない。
ガチャガチャと回らないドアノブを動かし続けていると、〈異端〉が部屋に現れた。
「出たいのか?」
「え、ええ。屋敷の中を歩きたいと思って……」
「そうか。それくらいなら良いだろう。ただし、絶対に屋敷から出るな」
その声が昨日より冷たく感じられて、ロメリアは身震いした。〈異端〉は付け足すように言う。
「屋敷の外は、危険だからな」
今日も〈異端〉はとても親切だった。ロメリアが暇だと言えば書物を出してくれるし、甘いものが食べたいと言えば絶品のスイーツを出してくれる。
やはり人違いなのかもしれない。もしくは、あの昔話とは違って実は良い人なのかもしれない。
ロメリアが抱き始めた、そんな淡い期待は、その日の夜に吹き飛んだ。廊下を歩いていた時にどこかの部屋から聞こえてきた声で。
〈異端〉が誰かに話している声だった。「好きだから、絶望するところが見たい。多分、めいっぱい優しくして、その後じっくり苦しめて殺せば、そういう顔が見られると思う」と。
それは、〈異端〉が身の内の〈ゴミの妖精〉と語らう声だった。
逃げなけば。ロメリアはそう思ったが、下手に屋敷から出ようとすればきっと殺される。神出鬼没な彼の目をどうやって欺けば良いのか分からない。
(考えなくちゃ)
幸い時間はある。大人しくしていれば、すぐにどうこうされることはないだろう。彼の優しさに絆されていくフリでもしていれば良いのだ。
〈異端〉の言葉に、ロメリアは唖然とする。
何を言われているのか分からなかった。昔話の主人公の〈異端〉は、そんなことを言う人ではないはずだ。
(……もしかして、人違い?)
目の前にいるのは、異端のクズなどではなく、〈異端〉と名乗っているだけの良く似た別人なのかもしれない。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか屋敷の中に連れ込まれていた。
「えっ、あの、まだ返事をしていないのですが」
「駄目か?」
「私、貴方のことをよく知りませんし……」
「なら、まずはオレに惚れてもらうところから始めるとしよう」
高い天井からシャンデリアが光を降らしている。よく磨かれた大理石の床が煌めき、あちこちの金属が光を反射する。階段と廊下に敷かれた絨毯は、汚れも埃も無く、整った毛並みが繊細に描かれた模様を見せている。
廃墟のような外観からは想像も出来ないほど、屋敷の中は綺麗だ。
ロメリアが戸惑っている間に、〈異端〉は彼女の手を引いて寝室へ案内した。
「ここがお前の部屋だ。クローゼットの中にはオレからの贈り物が入っている。喜んでもらえたら嬉しい」
「えっ……」
ガチャン。
部屋に放り込まれたロメリアは、後ろで大きな音がしたのに驚き振り向いた。そこにはもう〈異端〉はいない。閉ざされた扉があるだけだ。
混乱する頭を抑えながら、クローゼットを開けてみる。
目がくらんだ。
レースがふんだんに使われた、様々な色の豪奢なドレス。金銀宝石があしらわれた装飾品の数々。
どれもこれも、妹に奪われるせいで縁が無かったものだ。ずっと着てみたいと、着けてみたいと、思っていたものだ。
ロメリアは、浮かれるように手を伸ばした。好みの色のドレスと、それに合いそうなアクセサリーを持って鏡の前に立つ。実家では使用人も妹に奪われていたので、身支度は自分一人でこなしていた。だから問題無く着替えることが出来た。
「食事にしよう」
「ひゃっ⁉」
突然耳元にかけられた声に、ロメリアは跳び上がった。
「お、驚かせないでください」
「すまなかった」
〈異端〉は素直に謝りながら席に着く。
部屋のテーブルには、いつのまにか湯気の立った料理が並んでいた。いつ誰がどうやって用意したものかは分からないが、それはドレス等も同じだ。ロメリアは気にしないことにした。気にしたら負けだと思った。
「いただきます」
ソファーに座って料理を口に運ぶ。運ぶ。運ぶ。
夢中になった。旨味が口の中に広がる。今まで食べた何よりも美味しい。
「喜んでもらえたようで何よりだ」
その声にハッとする。
(何やってるの私! もっと警戒しなくちゃ!)
浮かれすぎにもほどがある。目の前の彼は、人違いでなければ、凶悪な殺人鬼なのだ。
ロメリアは用意された料理を綺麗に平らげてから、優雅に微笑んでみせる。
「美味しかったです」
「オレと結婚する気になったか?」
「いいえ、そんなに早くは決められません」
「そうか、ではまた明日」
次の瞬間、彼は部屋から消えた。ついでに食器も消えていた。
ロメリアは、全てが夢だったかのように思えてきて、とりあえず寝ることにした。
翌朝、目覚めたロメリアは、呆然と呟いた。
「夢じゃなかった……」
ベッドから降りて、何の気なしに部屋のドアに手をかける。
開かない。
(え……? 鍵でもかかってるの?)
鍵は内側から開閉できるはずだ。だが、鍵らしきものは見当たらない。
ガチャガチャと回らないドアノブを動かし続けていると、〈異端〉が部屋に現れた。
「出たいのか?」
「え、ええ。屋敷の中を歩きたいと思って……」
「そうか。それくらいなら良いだろう。ただし、絶対に屋敷から出るな」
その声が昨日より冷たく感じられて、ロメリアは身震いした。〈異端〉は付け足すように言う。
「屋敷の外は、危険だからな」
今日も〈異端〉はとても親切だった。ロメリアが暇だと言えば書物を出してくれるし、甘いものが食べたいと言えば絶品のスイーツを出してくれる。
やはり人違いなのかもしれない。もしくは、あの昔話とは違って実は良い人なのかもしれない。
ロメリアが抱き始めた、そんな淡い期待は、その日の夜に吹き飛んだ。廊下を歩いていた時にどこかの部屋から聞こえてきた声で。
〈異端〉が誰かに話している声だった。「好きだから、絶望するところが見たい。多分、めいっぱい優しくして、その後じっくり苦しめて殺せば、そういう顔が見られると思う」と。
それは、〈異端〉が身の内の〈ゴミの妖精〉と語らう声だった。
逃げなけば。ロメリアはそう思ったが、下手に屋敷から出ようとすればきっと殺される。神出鬼没な彼の目をどうやって欺けば良いのか分からない。
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