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3章 意志
3-2 新たな加護
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憂鬱な気分を振り払うように頭を振って、ノーシュは歩き出した。柔らかな朝日が道を照らしている。
昨晩のことなど、無かったことにしてしまいたい。だが、どんなに頭から振るい落とそうとしても、しがみついているかのように離れてくれない。
「スーロ」
『何だい、ご主人』
「何か喋って」
『何かって……ざっくりしすぎだよ。困ったご主人だねぇ』
目的の遺跡に着いたノーシュは、頭の重さを感じながら中に入る。
いや、重いのは頭ではない。
おもりをつけて水に沈めているような、薄暗くて苦しい思いが、体を上から押さえつけているのだ。
一歩進むたびに溜息を吐き、よろめく。それを少し続けていたが、とうとう膝から崩れ落ちた。
『ご主人⁉』
スーロは驚きの声を上げた。ノーシュの様子がおかしいことに、ようやく気付いたのだ。
『どうしたんだい、ご主人! 早く進まないといけないんだろう? 復讐のために、皆より先に邪神を倒すんだろう?』
「復讐……」
呟きながら、ノーシュはよろよろと立ち上がった。
「そうだった。……よし、大丈夫。やる気出てきた!」
先ほどまでと打って変わった軽い足取りで進んでいく。濡れそぼった草が、火に当てられて乾ききったように。ともすれば、そのまま燃えて消えてしまいそうなほど。
そうして奥へと進んでいく。
この遺跡には、罠がほとんど無かった。数少ない罠も魔法陣によるものではなく、他の遺跡とは作られた時代が違うのだということを感じさせた。
害獣の嫌う薬草が至る所に生えている。古い遺跡だろうに害獣がほとんどいなかったのはこのためだろう。
淡々と歩いた果て、分霊と対峙。
まだまだ邪神からは遠いおかげで、難なく撃破した。この前の遺跡の分霊とさほど変わらなかった。
最奥の石板に手を置く。力が流れ込む感覚が、気分を高揚させた。
表示された文字は、「1名に付与済:不死(時間制限付き)」というものだった。
「よし、このまま邪神のもとへ向かおう」
『ご主人、また馬鹿なことを。まだ遺跡はこの先にも……』
「あと3つある。けど、全部行ってたら間に合わない。ただでさえ、こっちのルートの方が遠回りなのに」
ノーシュは笑って言ってから、遺跡から出て、歩き続けた。
『本気でこのまま行くのかい?』
夜。ノーシュが干し肉を食べている傍らで、スーロは尋ねた。
ノーシュは当然のように頷く。
「だって、不死だぞ。これは勝ち確定だろ」
『時間制限付きと書いてあっただろう』
「割と長いから大丈夫。効果が切れるまでにはきっと倒せる」
『分かるのかい?』
「何となく分かるって言っただろ。力が流れ込んでくる時に、それがどんな力か、詳しく分かるんだ。何となくだけど」
『詳しいのに何となく……まあ良いや。それで、その力の詳細は? 不死だけじゃよく分からないよ』
「致命傷を受けても、時間が巻き戻ったように治る……ってところかな。バラバラになってもくっつくし、消滅させられても復元される」
『うわあ。武器を生み出す以上に無茶苦茶な力だね』
「その代わり、効果が切れると死ぬ」
『え?』
スーロはきょとんと聞き返した。何を言われたのか分からなかった。
ノーシュはもう一度言う。
「不死の効果が切れると死ぬ」
『……絶対?』
「絶対」
スーロは唖然とした。使えば絶対に死ぬ力を使おうと言うのか。
そんなことは認められない。考え直してもらわなければ。
『駄目だ』
口をついて出る。
『駄目だ。駄目だ駄目だ駄目だ!』
同じ言葉ばかり。説得にもならない、単純な。
一度大きく息を吐き、言葉を探す。
『……他の遺跡に行けば、もっと良い力が手に入るかもしれないだろう。不死の力を使わずとも邪神に勝てるような、凄い力が』
「そんな凄い力は無いかもしれない。それに、さっきも言ったけど、そんな時間無い」
『間に合わなかったらそれでも良いじゃないか! たかが復讐のために死ぬなんて馬鹿らしい!』
「お前はずっと、オレのことを馬鹿だと言ってるじゃないか。馬鹿らしいことをするのは自然だろう?」
『……屁理屈』
「そうかもな。おやすみ」
いつの間にか干し肉を食べ終えていたノーシュは、ごろりと横になった。これ以上話す気は無いらしい。
(邪神のもとへたどり着くのは、まだまだ先だ。何日もかかる。その間に、なんとか説得……)
そこまで考えて、はたと止まる。
(どうして僕は、ご主人を止めようとしてるんだ? 人間が生きようと死のうと、どうでも良いことなのに)
しばらく考えたが、答えは出なかった。
惜しいのかもしれない。1年にも渡って力の回復に貢献してくれたから。
(力か……力さえ失っていなければ、ご主人と会うことも無かったなぁ)
昨晩のことなど、無かったことにしてしまいたい。だが、どんなに頭から振るい落とそうとしても、しがみついているかのように離れてくれない。
「スーロ」
『何だい、ご主人』
「何か喋って」
『何かって……ざっくりしすぎだよ。困ったご主人だねぇ』
目的の遺跡に着いたノーシュは、頭の重さを感じながら中に入る。
いや、重いのは頭ではない。
おもりをつけて水に沈めているような、薄暗くて苦しい思いが、体を上から押さえつけているのだ。
一歩進むたびに溜息を吐き、よろめく。それを少し続けていたが、とうとう膝から崩れ落ちた。
『ご主人⁉』
スーロは驚きの声を上げた。ノーシュの様子がおかしいことに、ようやく気付いたのだ。
『どうしたんだい、ご主人! 早く進まないといけないんだろう? 復讐のために、皆より先に邪神を倒すんだろう?』
「復讐……」
呟きながら、ノーシュはよろよろと立ち上がった。
「そうだった。……よし、大丈夫。やる気出てきた!」
先ほどまでと打って変わった軽い足取りで進んでいく。濡れそぼった草が、火に当てられて乾ききったように。ともすれば、そのまま燃えて消えてしまいそうなほど。
そうして奥へと進んでいく。
この遺跡には、罠がほとんど無かった。数少ない罠も魔法陣によるものではなく、他の遺跡とは作られた時代が違うのだということを感じさせた。
害獣の嫌う薬草が至る所に生えている。古い遺跡だろうに害獣がほとんどいなかったのはこのためだろう。
淡々と歩いた果て、分霊と対峙。
まだまだ邪神からは遠いおかげで、難なく撃破した。この前の遺跡の分霊とさほど変わらなかった。
最奥の石板に手を置く。力が流れ込む感覚が、気分を高揚させた。
表示された文字は、「1名に付与済:不死(時間制限付き)」というものだった。
「よし、このまま邪神のもとへ向かおう」
『ご主人、また馬鹿なことを。まだ遺跡はこの先にも……』
「あと3つある。けど、全部行ってたら間に合わない。ただでさえ、こっちのルートの方が遠回りなのに」
ノーシュは笑って言ってから、遺跡から出て、歩き続けた。
『本気でこのまま行くのかい?』
夜。ノーシュが干し肉を食べている傍らで、スーロは尋ねた。
ノーシュは当然のように頷く。
「だって、不死だぞ。これは勝ち確定だろ」
『時間制限付きと書いてあっただろう』
「割と長いから大丈夫。効果が切れるまでにはきっと倒せる」
『分かるのかい?』
「何となく分かるって言っただろ。力が流れ込んでくる時に、それがどんな力か、詳しく分かるんだ。何となくだけど」
『詳しいのに何となく……まあ良いや。それで、その力の詳細は? 不死だけじゃよく分からないよ』
「致命傷を受けても、時間が巻き戻ったように治る……ってところかな。バラバラになってもくっつくし、消滅させられても復元される」
『うわあ。武器を生み出す以上に無茶苦茶な力だね』
「その代わり、効果が切れると死ぬ」
『え?』
スーロはきょとんと聞き返した。何を言われたのか分からなかった。
ノーシュはもう一度言う。
「不死の効果が切れると死ぬ」
『……絶対?』
「絶対」
スーロは唖然とした。使えば絶対に死ぬ力を使おうと言うのか。
そんなことは認められない。考え直してもらわなければ。
『駄目だ』
口をついて出る。
『駄目だ。駄目だ駄目だ駄目だ!』
同じ言葉ばかり。説得にもならない、単純な。
一度大きく息を吐き、言葉を探す。
『……他の遺跡に行けば、もっと良い力が手に入るかもしれないだろう。不死の力を使わずとも邪神に勝てるような、凄い力が』
「そんな凄い力は無いかもしれない。それに、さっきも言ったけど、そんな時間無い」
『間に合わなかったらそれでも良いじゃないか! たかが復讐のために死ぬなんて馬鹿らしい!』
「お前はずっと、オレのことを馬鹿だと言ってるじゃないか。馬鹿らしいことをするのは自然だろう?」
『……屁理屈』
「そうかもな。おやすみ」
いつの間にか干し肉を食べ終えていたノーシュは、ごろりと横になった。これ以上話す気は無いらしい。
(邪神のもとへたどり着くのは、まだまだ先だ。何日もかかる。その間に、なんとか説得……)
そこまで考えて、はたと止まる。
(どうして僕は、ご主人を止めようとしてるんだ? 人間が生きようと死のうと、どうでも良いことなのに)
しばらく考えたが、答えは出なかった。
惜しいのかもしれない。1年にも渡って力の回復に貢献してくれたから。
(力か……力さえ失っていなければ、ご主人と会うことも無かったなぁ)
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