追放された多武器使い、一人で邪神を倒しに行く

秋鷺 照

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4章 邪神のもとへ至る前に

4-1 心

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「さて、報酬を払わねばならんな」
 部屋で待っていたノーシュのもとに訪れた伯爵は、開口一番そう言った。

 伯爵は、あの後領民たちと話し合い、和解することが出来た。領民たちは帰り、伯爵は殺されずに済んだ。

 ノーシュはゆっくり首を振る。
「結局、屋敷は守れなかった。任務を受けたことにしたら、信条に反することになる」
「だが、私はこうして生きている。ノーシュ君が助けに入ってくれなかったら死んでいた」
「倒れてたのを助けてもらった礼をしただけだ。だから、報酬は要らない。……その代わり、今晩もここで泊まらせてほしい」
「……お安い御用だ」
 伯爵は微笑み、部屋を出た。



 その、少し前。伯爵が領民と話し合っている頃。
 2階へ上がったノーシュに、スーロは請うた。
『僕のいる剣を、ご主人が使ってる部屋から一番遠い部屋の奥の方に置いて。寝る前にでも取りに来てくれれば良いよ』
「……操られてた妖精と話すのか?」
『その通り』
 そうして、使われていない一室で、スーロと青い妖精は話すことになったのである。
 スーロが待っていると、青い妖精がふわりと部屋に入って来た。
「符丁を受け取ってくれたようで何より」
 落ち着いた女の声で、青い妖精は語り掛けた。
『何の用だい?』
「随分不機嫌そうね」
『別に。人間に操られるなんて間抜けだなぁと思っただけさ』
「力を失って剣から出られない間抜けに言われたくないわ」
 口を尖らせて言う青い妖精に、スーロは苦笑する。
『まあ、一番悪いのは妖精使いだよ。ご主人に始末してもらったからもう安心だ』
「もう安心って……他にも妖精使いは沢山いるはずだけど」
『あれほど強引に操る奴はそうそういないさ』
「……そんなに強引だったの」
 青い妖精は、納得したように呟いた。操られている間の記憶は一応あるが、どんな風に操られていたのかは曖昧だ。
「まあ、その話は良いわ。話したかったのは、お前がご主人と呼んでいる人間のことよ」
『……?』
 スーロはきょとんとした。それに構わず、青い妖精は尋ねる。
「お前、どれだけあの人間の意志を喰った?」
『どれだけって……』
「分からないなら質問を変える。どれくらいの間、一緒にいる?」
『1年と少しかな』
 その答えに、青い妖精は大きく嘆息した。
「信じられない」
 心底呆れたという顔で、青い妖精は言う。
「よく平然と……まさか、何も分からず喰ってたの?」
『……』
 スーロは目を瞬かせた。何を言われているのか分からなかったからだ。
 青い妖精はまた嘆息し、話す。
「意志を喰われた人間は、心が壊れるの。下手をすれば、1回喰われただけで」
『え……』
「中には何ともない人間もいるわよ? それでも、半年も喰われ続ければ不調を来たす。それをお前は、1年も喰い続けたと……そりゃ、ああなるわ」
『……じゃあ、ご主人が倒れたりしたのは、僕が意志を喰っていたせい……?』
 どこか呆然とした口調で、スーロは言った。青い妖精は頷く。
「あの人間は……」
 言いかけた青い妖精を遮り、スーロは
『それより、天界の植物って人間に悪影響だと思う?』
 と尋ねた。これ以上、自分のしたことを突き付けられたくなかった。
「……どうして?」
『えっと……』
 スーロは話した。天界の植物が入ったクッションのことや、その匂いを嗅いだノーシュの異変について。
 青い妖精は嘆息した。
「逆ね。悪影響なんかじゃない。……あの人間は、もう意志が湧かない状態になってた。それが、クッションのおかげで少し持ち直したのよ」
『な……どうして、そんなことが分か……』
「長く下界にいるからね。人間の心の状態が分かるようになったの。あの人間の心は、お前に意志を喰われ続けたせいでボロボロになって、とっくに限界」
『けど、ご主人は……』
「いくら丈夫な木でも、新芽を喰われ続ければ枯れてしまう。それと同じよ」
『あ……』
「だから、お前はもう、あの人間の意志を喰っちゃ駄目よ。……次に喰われれば、心だけにとどまらず、魂が砕けるわ。それは忍びないの。操られてたところを助けてもらったから、一応恩義は感じているのよ」
『……人間みたいなこと言うんだね』
「言ったでしょ、下界に長くいるって。まあ、力の回復のために時々天界に戻ってはいるけど……基本は下界で生活してるから。お前よりはずっと、人間のことを理解しているの」
 そう言い残し、青い妖精は飛び去った。
 スーロは呆然としたまま、独りの時間を過ごした。そして、いつの間にかノーシュのそばにいた。
『……あれ、ご主人?』
「どうしたんだ、スーロ。あの妖精に変なことでも言われたか?」
『いや……それより、これからどうするんだい?』
「明日の朝、ここを発つ。邪神を倒しに行くんだ」
『もう遅いんじゃないかなぁ』
「きっとまだ間に合う。ここまで馬車で連れて来てもらった分、時短になってるから」
『……おやすみ』
「スーロから言うなんて珍しいな。おやすみ」
 軽く笑って言い、ノーシュは寝た。だが、スーロは眠れなかった。意志を喰う以外で引き止める方法を、考え続けていた。




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