追放された多武器使い、一人で邪神を倒しに行く

秋鷺 照

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4章 邪神のもとへ至る前に

4-4 邪神討伐隊の苦戦

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 時はさかのぼり、ノーシュがフォルン伯爵邸を出た頃。
 邪神討伐隊は苦戦していた。
 邪神のいる場所にほど近い、6つめの遺跡の最奥。そこにいた分霊は、今までになく強かった。
「だんだん強くなるとは聞いてたけど……!」
 分霊の触手を必死で躱しながら、フィリーは愚痴る。
「これは、急に強くなりすぎじゃない⁉」
「さっきから、強い強い言いすぎだよ!」
 アレアは言いながら、分霊に斧を叩きつけた。硬い。
 止まった動きに合わせるように、分霊から新たな触手が伸びる。アレアに迫るそれは、レイスの鞭が絡め取った。
 隊長とジャンが同時に動く。触手を斬り飛ばしながら、分霊へ迫った。
 大剣が叩きつけられ、槍が下から突き上げる。いずれの攻撃も、分霊の核へは至らなかった。
 分霊が身を震わせる。
 ふるふると舞う、黒い粉。空間を埋め、染めていく。
「何だこれ……ごほっ」
 むせたジャンの口から、血がこぼれた。息が上がり、体から力が抜けていく。
「くっ……」
 槍を支えに立ち横を見ると、隊長も大剣で体を支えていた。
 そんな2人に触手が迫る。
「させない、よ!」
 アレアが斧をぶうんっと振り、触手を分霊から切り離した。
「っ、はぁ、はぁ」
 血を吐きながらも斧を構え直し、
「どうだい、フィリー」
 と尋ねる。
「見えたわ……私が、斬るから……援護、お願い……」
 途切れ途切れに答え、フィリーは邪神に向かって駆けた。
 黒い粉が体を蝕んでいく。あまり猶予は無い。
 そんな焦りと鈍った動きが、連携に穴を開けた。
 触手の1本が、フィリーを襲う。避けられないタイミングで。
 咄嗟に急所を庇った左腕が、触手に斬られて宙に飛んだ。
 フィリーは身をひねって、分霊の「斬れそうな部分」へ至る。そこへ短剣を突き立てて、斬り裂いた。
 露わになった核を、槍が貫く。
 分霊が消滅し、黒い粉も消え去った。

「フィリー!」
 ジャンの慌てた声に、フィリーはようやく自分の状態に思い至る。
 そうだ。腕を、斬られたのだ。
 左腕のあった場所を見ると、どばどばと血が流れていた。
(……どうせ、すぐ治るでしょ)
 前の遺跡で得た「自己の治癒」という力。試しに指を傷つけてみたところ、一瞬で治った。
(斬られた腕、くっつけた方が良いのかな。それとも、生えてくる?)
 皆の何やら言う声が、ぐわんぐわんと頭に響く。霞んだ視界の中、自分の腕を探そうとして……目の前に、地面が広がった。




 目を開けると、遺跡の中ではなかった。どうやらベッドの上らしい。
 フィリーは目を瞬かせ、恐る恐る左腕を見る。
(……良かった、ちゃんとある)
 片腕では戦えない。戦えないと生きていけない。
 起き上がろうとしたが、動けなかった。体に力が入らない。
 急に不安になった。皆はどこだろう。まさか、置いて行かれたのでは。
 部屋の扉に視線を移すと、その扉が開き、アレアが入って来た。
「調子はどうだい?」
「平気よ。それより……」
 状況説明を求めようとすると、アレアは分かっていると言うように頷いた。
「その腕は、落ちてたのを拾って当てたらくっついた。まったく、とんでもない力だよ。もし1人で得ていたら、ほぼ不死身になっていたかもしれない」
「今回は、どんな加護? ……私は気を失ってたから、得られてないんだろうけど」
「いいや、ちゃんとフィリーも得てるよ。石板まで運んで、一緒に手をつかせたからね」
「それはありがとう」
「大したことじゃない。……得られた加護も、大したものじゃない。冷却という力さ」
「何、それ」
「試してみたけどね。どうやら水を凍らせるくらいの力しか無い」
 そう言って、アレアは肩を竦めた。
「今日はゆっくり休んで、明朝に出発ってことになってる。動けるようになったら食堂においで」
「分かったわ」
 作戦会議でもするのかもしれない。そう思っているうちに、アレアは部屋を出て行った。
 フィリーは大きく溜息を吐いた。
(そうよ、皆が……邪神討伐隊の皆が、黙って仲間を置いて行くだなんて、そんなことしないわ)
 不安になったのは、先ほどまで見ていた夢のせいだ。
 家族に置いて行かれて、泣きながら追いかけて、街の人たちに嘲笑われた記憶。

 占い師の多い街で、一家全員が占い師の男爵家に生まれたのに、占い師になれない落ちこぼれ。それがフィリーの評判だった。
 親も兄弟もフィリーの存在を恥じた。家族で出かける時、いつもフィリーを置いて行った。

(……邪神を倒したところで、認めてはもらえないんだろうけど)
 家族の中で兄だけは、既に認めてくれている。遺跡の調査中に会い、害獣に襲われそうになっていた兄を助けたのがきっかけだ。
 だが、両親や弟は、未だに落ちこぼれ扱いしてくるのだ。

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