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5章 決着
5-2 神殿Ⅱ
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ノーシュは弓矢を出し、遠距離から邪神を攻撃しようとした。近付けば、きっとまた呑み込まれる。
弓を引き絞った時、さらりと全てが消えた。
黒い塊から出た風が、弓も、矢も、ノーシュ自身も、塵へと変えたのだ。
「……マジかよ」
もとに戻ったノーシュは溜息を吐いた。
不死の時間は長いとはいえ、攻撃の糸口が掴めていない以上、時間切れを警戒しなければならない。呑気に喋っている暇は無いのかもしれなかった。
一方で、邪神もノーシュを警戒していた。どんな加護を得ているのか分からない以上、倒される危険もあると思ったのだ。
『そなたは、とんでもない悪人になろうとしているのだぞ。我ほど善い神は他にいない。それを倒そうとするなんて、完全なる悪だ!』
ノーシュは首を振る。
「善悪なんて関係無い。オレは、邪神を倒す任務を受けた。受けた任務はきっちりやり遂げる! たとえ、お前の言うことが正しいんだとしても。邪神を倒すのが悪事だとしても!」
『その任務は、天界の神々にそそのかされた人間から受けたものだろう。我の話を聞いたそなたがやり遂げるべきものではない。自分の頭でよく考えろ』
「考えた上で言ったんだ」
ノーシュは静かに告げる。
「敵の言葉は信用に値しない。お前の言うことを聞くのは、依頼人に対する裏切りだ」
それは、傭兵としての言葉だった。
邪神は意外そうに溜息を漏らし、心を覗いてふと嗤う。
『……なんだ、色々言ってはいるが、復讐がしたいだけではないか。復讐のために我を倒したいのだな、そうかそうか……なら、もっと良い復讐法を教えてやろう』
「要らない。オレの計画こそが、完璧な復讐だ」
ノーシュの声が冴え冴えと響く。
邪神の言葉は、ノーシュの心に届いていない。
ノーシュが口にするのは、邪神を倒す理由。邪神を倒すという決定を前提とした答え。理屈が通っている必要など無い。
「……これなら」
ノーシュはチャクラムを出した。先ほどと同様、邪神の放つ風に消される。
カランと音がして、その場にチャクラムが落ちた。
消えたのは、ノーシュだけだった。
邪神は驚く。
『その武器は、何だ』
「ただのチャクラムだ」
正確には、「邪神に消されないチャクラム」として生み出した武器だ。本当に消えなかったので、ノーシュ自身も驚いていた。
ただ、使う前に自分が消されるのでは意味が無い。
思案しているノーシュに、邪神は声をかけた。
『そろそろ、我の言う通りに動くが良い。その方が、そなたの益となる』
「うるさいなぁ」
『……』
下手に出ているつもりの邪神も、これにはカチンと来た。
『もう良い。何度殺せば死ぬのか知らぬが、そなたを排除することに決めた。また新たな人間が来れば、そいつを説得すれば良いだけのことだ』
黒い塊から、棘が突き出る。太く長く鋭い、暗紫色の棘が。
真っ直ぐ1本、ノーシュに向けて。
あまりに急な不意打ちで、ノーシュは全く反応できなかった。
貫かれた体から、棘を伝って血が滴る。
「……本性を現したな、邪神め」
何とかそれだけ言って、ノーシュは横向きに倒れた。
(……まだ死んでないのか……)
虚ろな瞳で邪神を見ながら、ノーシュは思う。
ややこしい話だが、不死の加護によって元に戻るには死ぬ必要があるらしい。
つまり、今。体を動かせず、意識は朦朧とし、寒さに震えている今は、何もできない。
刺さった棘が冷たい。体に氷を埋め込まれたかのようだ。その周りだけは、燃えるように熱いのに。
浅く速い呼吸を繰り返しながら、目を閉じた。
「……っ!」
ノーシュは咄嗟に横へ転がった。先ほどまでいた場所を、棘が貫く。
戻っていきなり邪神から攻撃。冷や汗が出た。
こんなことを続けられれば、いくら時間があっても足りない。
「おい邪神! お前が本当に善い神だって言うなら」
言葉の途中で、黒い塊から触手が伸びた。太い漆黒のそれは、幾本も同時に出でて、ノーシュの体を打ち据える。
「がっ⁉」
柱に思い切り叩きつけられ、意識が飛ぶ。
気を失っているノーシュに向かって、邪神はうねりながら近付いた。
『そなたは我が言葉に耳を貸さなかった。よって、我はそなたの言葉に耳を貸せぬ』
どろんと黒塊が溶け、ノーシュを呑み込み、また塊に戻った。
ねちょり。
手に当たった気持ち悪い感触に、ノーシュはびくりと目を開ける。
真っ暗だった。
(何が起きた⁉)
触手が勢いよく迫ってきて、避けられなくて、それから。
(……って、それはどうでも良いか)
まだ、不死の加護は続いている。息が苦しく、じきに死ぬのだと察せられた。そうすれば戻る。仕切り直せる。
意外なほど頭は冴えていた。ろくに息を吸えないのに。
(待てよ、ここってまさか、邪神の中?)
手に伝わる感触は、あの神殿内の物では有り得ない。唯一、形状の変わる邪神を除いて。
(チャンスかも)
想像する。
邪神に効く武器を。邪神に消されず、邪神を倒し得る武器を。
弓を引き絞った時、さらりと全てが消えた。
黒い塊から出た風が、弓も、矢も、ノーシュ自身も、塵へと変えたのだ。
「……マジかよ」
もとに戻ったノーシュは溜息を吐いた。
不死の時間は長いとはいえ、攻撃の糸口が掴めていない以上、時間切れを警戒しなければならない。呑気に喋っている暇は無いのかもしれなかった。
一方で、邪神もノーシュを警戒していた。どんな加護を得ているのか分からない以上、倒される危険もあると思ったのだ。
『そなたは、とんでもない悪人になろうとしているのだぞ。我ほど善い神は他にいない。それを倒そうとするなんて、完全なる悪だ!』
ノーシュは首を振る。
「善悪なんて関係無い。オレは、邪神を倒す任務を受けた。受けた任務はきっちりやり遂げる! たとえ、お前の言うことが正しいんだとしても。邪神を倒すのが悪事だとしても!」
『その任務は、天界の神々にそそのかされた人間から受けたものだろう。我の話を聞いたそなたがやり遂げるべきものではない。自分の頭でよく考えろ』
「考えた上で言ったんだ」
ノーシュは静かに告げる。
「敵の言葉は信用に値しない。お前の言うことを聞くのは、依頼人に対する裏切りだ」
それは、傭兵としての言葉だった。
邪神は意外そうに溜息を漏らし、心を覗いてふと嗤う。
『……なんだ、色々言ってはいるが、復讐がしたいだけではないか。復讐のために我を倒したいのだな、そうかそうか……なら、もっと良い復讐法を教えてやろう』
「要らない。オレの計画こそが、完璧な復讐だ」
ノーシュの声が冴え冴えと響く。
邪神の言葉は、ノーシュの心に届いていない。
ノーシュが口にするのは、邪神を倒す理由。邪神を倒すという決定を前提とした答え。理屈が通っている必要など無い。
「……これなら」
ノーシュはチャクラムを出した。先ほどと同様、邪神の放つ風に消される。
カランと音がして、その場にチャクラムが落ちた。
消えたのは、ノーシュだけだった。
邪神は驚く。
『その武器は、何だ』
「ただのチャクラムだ」
正確には、「邪神に消されないチャクラム」として生み出した武器だ。本当に消えなかったので、ノーシュ自身も驚いていた。
ただ、使う前に自分が消されるのでは意味が無い。
思案しているノーシュに、邪神は声をかけた。
『そろそろ、我の言う通りに動くが良い。その方が、そなたの益となる』
「うるさいなぁ」
『……』
下手に出ているつもりの邪神も、これにはカチンと来た。
『もう良い。何度殺せば死ぬのか知らぬが、そなたを排除することに決めた。また新たな人間が来れば、そいつを説得すれば良いだけのことだ』
黒い塊から、棘が突き出る。太く長く鋭い、暗紫色の棘が。
真っ直ぐ1本、ノーシュに向けて。
あまりに急な不意打ちで、ノーシュは全く反応できなかった。
貫かれた体から、棘を伝って血が滴る。
「……本性を現したな、邪神め」
何とかそれだけ言って、ノーシュは横向きに倒れた。
(……まだ死んでないのか……)
虚ろな瞳で邪神を見ながら、ノーシュは思う。
ややこしい話だが、不死の加護によって元に戻るには死ぬ必要があるらしい。
つまり、今。体を動かせず、意識は朦朧とし、寒さに震えている今は、何もできない。
刺さった棘が冷たい。体に氷を埋め込まれたかのようだ。その周りだけは、燃えるように熱いのに。
浅く速い呼吸を繰り返しながら、目を閉じた。
「……っ!」
ノーシュは咄嗟に横へ転がった。先ほどまでいた場所を、棘が貫く。
戻っていきなり邪神から攻撃。冷や汗が出た。
こんなことを続けられれば、いくら時間があっても足りない。
「おい邪神! お前が本当に善い神だって言うなら」
言葉の途中で、黒い塊から触手が伸びた。太い漆黒のそれは、幾本も同時に出でて、ノーシュの体を打ち据える。
「がっ⁉」
柱に思い切り叩きつけられ、意識が飛ぶ。
気を失っているノーシュに向かって、邪神はうねりながら近付いた。
『そなたは我が言葉に耳を貸さなかった。よって、我はそなたの言葉に耳を貸せぬ』
どろんと黒塊が溶け、ノーシュを呑み込み、また塊に戻った。
ねちょり。
手に当たった気持ち悪い感触に、ノーシュはびくりと目を開ける。
真っ暗だった。
(何が起きた⁉)
触手が勢いよく迫ってきて、避けられなくて、それから。
(……って、それはどうでも良いか)
まだ、不死の加護は続いている。息が苦しく、じきに死ぬのだと察せられた。そうすれば戻る。仕切り直せる。
意外なほど頭は冴えていた。ろくに息を吸えないのに。
(待てよ、ここってまさか、邪神の中?)
手に伝わる感触は、あの神殿内の物では有り得ない。唯一、形状の変わる邪神を除いて。
(チャンスかも)
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邪神に効く武器を。邪神に消されず、邪神を倒し得る武器を。
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