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第十七話 公開の試練
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学院での懇談会以来、わたしはさらに注目の的となっていた。
――エミリア嬢は清らかで、王太子殿下にふさわしい。
――公爵令嬢クラリッサはすでに役目を終えた。
――いずれ公開の場で婚約解消が宣言されるだろう。
囁きは止まず、むしろ熱を増していく。父は執務室にこもりがちになり、母の笑顔も硬い。屋敷に満ちる空気は重く、息苦しいほどだった。
「お嬢様……」
メアリが朝の支度を整えながら、不安げに問いかける。
「もし、殿下が皆の前でお嬢様を試そうとなさったら……」
「ええ、その時は――」
わたしは鏡に映る自分を見つめた。そこにいるのは、もう怯えに支配される令嬢ではない。檻を拒んだ者の瞳だった。
◇
数日後、王宮で開かれた学問奨励会。名目は学院生たちの研究発表を讃える催しだが、実際は王家が若者たちを見極める場。そこに殿下とエミリア、そしてわたしも招かれていた。
大広間に集うのは学者や貴族の子息令嬢たち。壇上に立つ殿下の笑みは完璧で、エミリアが隣に並ぶ姿は絵画のように美しい。
「本日は栄えある日。我が国の未来を担う若者たちに祝福を」
殿下の声が響いた後、彼の視線がわたしに注がれた。
「クラリッサ。君にも壇上に上がってもらおう」
会場がざわめく。公開の場で名を呼ぶ――これは試練だ。逃げれば「やはり悪役令嬢」と囁かれる。上がれば、断罪の口火を切られるかもしれない。
わたしはゆっくりと歩みを進めた。視線が突き刺さる。壇上に立った瞬間、殿下が問いかける。
「クラリッサ。君は王太子妃としての自覚を持っているか?」
空気が凍る。周囲は答えを待ち、誰も息を潜めた。
◇
「……自覚はあります」
わたしは扇を持つ手を下ろし、真っ直ぐに言葉を返した。
「けれど、それは檻に閉じ込められる覚悟ではなく。国と人々の未来を支える責任の意味です」
会場にざわめきが広がる。殿下の微笑が硬くなる。
「では問おう。君は今も王太子妃の座を望んでいるのか?」
囁きが広がる。罠だ。ここで「望む」と言えば彼の思惑通り、檻に戻される。「望まない」と言えば断罪の口実となる。
答えを詰まらせた瞬間――。
「その問いは不当です、兄上」
低い声が広間に響いた。レオンハルトが進み出た。会場の視線が一斉に彼に注がれる。
「彼女はすでに示した。檻を拒む勇気を」
「黙れ、レオンハルト!」
「黙らない。彼女が王太子妃にふさわしいかどうかは、兄上の所有物であるかどうかではない。……彼女自身が幸せを選べるかどうかだ」
殿下の微笑みが崩れ、瞳に怒気が宿る。会場の空気は張り詰め、誰も動けなかった。
◇
「クラリッサ」レオンハルトがわたしの名を呼ぶ。その声は会場のざわめきを鎮めるように落ち着いていた。
「あなたはここで答える必要はない。……答えは、あなたの心にあるのだから」
胸の奥が熱くなる。彼は檻に閉じ込めようとせず、ただ自由を与えてくれる。
「……ありがとう、レオン」
小さな声が広間に響いた瞬間、周囲の視線が揺れた。悪役令嬢と囁かれてきたわたしが、確かに誰かに支えられていると示したからだ。
◇
その夜、屋敷に戻ったわたしは机の上の白いハンカチを手に取った。
「公開の試練……檻の鎖は、もうわたしを縛れない」
月明かりに照らされた布は、まるで未来を示す灯火のように輝いていた。
――エミリア嬢は清らかで、王太子殿下にふさわしい。
――公爵令嬢クラリッサはすでに役目を終えた。
――いずれ公開の場で婚約解消が宣言されるだろう。
囁きは止まず、むしろ熱を増していく。父は執務室にこもりがちになり、母の笑顔も硬い。屋敷に満ちる空気は重く、息苦しいほどだった。
「お嬢様……」
メアリが朝の支度を整えながら、不安げに問いかける。
「もし、殿下が皆の前でお嬢様を試そうとなさったら……」
「ええ、その時は――」
わたしは鏡に映る自分を見つめた。そこにいるのは、もう怯えに支配される令嬢ではない。檻を拒んだ者の瞳だった。
◇
数日後、王宮で開かれた学問奨励会。名目は学院生たちの研究発表を讃える催しだが、実際は王家が若者たちを見極める場。そこに殿下とエミリア、そしてわたしも招かれていた。
大広間に集うのは学者や貴族の子息令嬢たち。壇上に立つ殿下の笑みは完璧で、エミリアが隣に並ぶ姿は絵画のように美しい。
「本日は栄えある日。我が国の未来を担う若者たちに祝福を」
殿下の声が響いた後、彼の視線がわたしに注がれた。
「クラリッサ。君にも壇上に上がってもらおう」
会場がざわめく。公開の場で名を呼ぶ――これは試練だ。逃げれば「やはり悪役令嬢」と囁かれる。上がれば、断罪の口火を切られるかもしれない。
わたしはゆっくりと歩みを進めた。視線が突き刺さる。壇上に立った瞬間、殿下が問いかける。
「クラリッサ。君は王太子妃としての自覚を持っているか?」
空気が凍る。周囲は答えを待ち、誰も息を潜めた。
◇
「……自覚はあります」
わたしは扇を持つ手を下ろし、真っ直ぐに言葉を返した。
「けれど、それは檻に閉じ込められる覚悟ではなく。国と人々の未来を支える責任の意味です」
会場にざわめきが広がる。殿下の微笑が硬くなる。
「では問おう。君は今も王太子妃の座を望んでいるのか?」
囁きが広がる。罠だ。ここで「望む」と言えば彼の思惑通り、檻に戻される。「望まない」と言えば断罪の口実となる。
答えを詰まらせた瞬間――。
「その問いは不当です、兄上」
低い声が広間に響いた。レオンハルトが進み出た。会場の視線が一斉に彼に注がれる。
「彼女はすでに示した。檻を拒む勇気を」
「黙れ、レオンハルト!」
「黙らない。彼女が王太子妃にふさわしいかどうかは、兄上の所有物であるかどうかではない。……彼女自身が幸せを選べるかどうかだ」
殿下の微笑みが崩れ、瞳に怒気が宿る。会場の空気は張り詰め、誰も動けなかった。
◇
「クラリッサ」レオンハルトがわたしの名を呼ぶ。その声は会場のざわめきを鎮めるように落ち着いていた。
「あなたはここで答える必要はない。……答えは、あなたの心にあるのだから」
胸の奥が熱くなる。彼は檻に閉じ込めようとせず、ただ自由を与えてくれる。
「……ありがとう、レオン」
小さな声が広間に響いた瞬間、周囲の視線が揺れた。悪役令嬢と囁かれてきたわたしが、確かに誰かに支えられていると示したからだ。
◇
その夜、屋敷に戻ったわたしは机の上の白いハンカチを手に取った。
「公開の試練……檻の鎖は、もうわたしを縛れない」
月明かりに照らされた布は、まるで未来を示す灯火のように輝いていた。
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