悪役令嬢ですが、ヒロインより先に幸せを掴みます

さら

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第四十八話 特別法廷

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 王太子殿下が布告した「特別法廷」の報せは、王都を再び騒然とさせた。
 ――殿下自らが裁きの座に立ち、第二王子とその婚約者を断罪する。
 ――公爵家の罪を明らかにし、反逆者を討つ。

 人々はざわめき、街の広場では既に「裁きの日」を待ち望む者たちが集まり、噂は雪崩のように広がっていった。

 ◇

 公爵家の執務室に重苦しい空気が漂う。父は机に広げられた通達を睨みつけ、母は不安げに椅子に腰を下ろしていた。
 「……殿下は、再び断罪の舞台を作るつもりだ」
 「公爵家の威信を完全に潰すために、ですわね」母の声は震えていた。

 「クラリッサ」父がわたしを見つめる。「この舞台に出れば、命さえ危うい。……それでも」
 「ええ」わたしははっきりと答えた。「檻には戻りません」

 父はしばし沈黙し、やがて頷いた。
 「ならば我らも共に立とう」

 ◇

 その夜。新居の居間で、レオンハルトと並んで座っていた。暖炉の火が揺れ、彼の横顔を照らしている。
 「兄上は焦っている。だが、特別法廷は大きな賭けだ」
 「……賭け?」
 「そうだ。兄上が勝てば、我らは完全に潰される。だが負ければ、殿下は自らの権威を失う」

 彼は真剣な瞳で続けた。
 「クラリッサ。君が檻を拒む姿を、国中に示す時が来た」
 「……わたしが」
 「そうだ。君の声は既に多くの民を動かしている。今度は国全体の前で示すんだ」

 胸が震える。恐怖はある。けれど、それ以上に誇りがあった。
 「わたしは俯きません。たとえどんな舞台でも」

 彼の瞳が誇らしげに揺らぎ、そっとわたしの手を握った。

 ◇

 数日後。王都の広場には高い壇が築かれ、その上に裁きの席が設けられた。群衆が押し寄せ、ざわめきが街を覆う。壇上には王太子殿下とエミリアが並び、硝子の微笑と無垢な瞳が国を睨みつけていた。

 「クラリッサ、公爵令嬢よ」殿下の声が広場に響く。
 「お前は王家を裏切り、弟を唆し、国を乱した。その罪をここで裁く!」

 群衆が息を呑む。視線が一斉にわたしへと注がれる。
 わたしは扇を閉じ、静かに一歩を踏み出した。

 「わたしは罪人ではありません。……檻を拒んだだけです」

 声は震えなかった。広場に集まった群衆がざわめき、殿下の微笑が凍る。

 ◇

 「クラリッサ」
 レオンハルトが壇上に現れ、強い声で宣言する。
 「彼女は罪人ではない。檻を拒んだ勇気を、私は誇りとする!」

 人々のざわめきがさらに広がり、重臣たちも動揺を隠せない。殿下の怒りが燃え上がり、空気は張り詰めた。

 ◇

 夜。新居の寝室で、わたしは白いハンカチを胸に抱きしめた。
 「……俯かずに立てた」

 恐怖の檻はもうない。ただ、自由を選ぶ誇りだけが残っていた。

 ――悪役令嬢クラリッサは、特別法廷の舞台に立ち。

 ――再び檻を拒む声を、国中に示した。
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