悪役令嬢ですが、ヒロインより先に幸せを掴みます

さら

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第四十九話 裁きの攻防

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 王都の広場に設けられた特別法廷は、雪の降りしきる中で開廷した。
 壇上に座す王太子殿下の瞳は怒りに燃え、隣に控えるエミリアは純白のドレスを揺らして無垢な瞳を輝かせている。
 その対面に、わたしとレオンハルトが立っていた。広場を埋め尽くす群衆の視線が突き刺さる。

 「クラリッサ、公爵令嬢よ」
 殿下の声が冷たく響く。
 「お前は弟を唆し、国を二分した。その罪は重い。ここで断罪されるのが相応しい」

 群衆がざわめき、空気が張り詰める。わたしは扇を閉じ、真っ直ぐに答えた。
 「わたしは罪人ではありません。檻を拒んだだけです」

 ◇

 「嘘を申すな!」
 殿下の声が鋭く響いた。
 「証人を呼べ!」

 前に進み出たのはエミリアだった。彼女は小さく震えながら、しかし澄んだ声で告げる。
 「クラリッサ様は……いつも強く、美しくて。けれど、その強さが殿下を苦しめてきたのだと思います。殿下のお優しさを拒んで……」

 その言葉は善意からのものだった。だが、会場にいる者たちの耳には「無垢なヒロインと悪役令嬢」の構図として響いてしまう。

 ――無垢さが、また刃となる。

 ◇

 「エミリア様」
 わたしは静かに声を返した。
 「わたしは殿下を拒んだのではありません。檻を拒んだのです。……従うことが愛ではありません。未来を共に選ぶことこそ、真の愛だと信じています」

 群衆がどよめいた。殿下の顔に怒りの色が浮かぶ。
 「強情だな!」
 「ええ、強情で結構です。檻に戻るくらいなら」

 わたしは広場に響くように声を放った。
 「強情であり続けます!」

 ◇

 その瞬間、群衆の中から拍手が起こった。最初は小さく、やがて大きな波となって広場を揺らす。
 「そうだ! 檻に戻る必要はない!」
 「クラリッサ嬢は罪人ではない!」

 殿下の硝子の微笑は砕け、怒号が響く。
 「黙れ! 衛兵、こやつらを取り押さえよ!」

 だが兵士たちは一歩踏み出せなかった。民の声が圧倒していたのだ。

 ◇

 「兄上!」
 レオンハルトが壇上に進み出る。
 「彼女は罪人ではない。檻を拒んだだけだ。……それを罪と呼ぶなら、真の罪人は自由を奪おうとするあなたの方だ!」

 会場がざわめき、重臣たちが顔を見合わせる。殿下の権威は揺らぎ、特別法廷は裁きの場ではなく、国の未来を問う舞台へと変わっていた。

 ◇

 夜。新居の寝室で白いハンカチを胸に抱きしめる。
 「……俯かずに立てた」

 レオンハルトが隣に座り、静かに微笑む。
 「君の声が国を動かしたんだ。もう檻には戻らない」
 「ええ。わたしは自由を選びます」

 ◇

 ――悪役令嬢クラリッサは、裁きの攻防のただ中で。

 ――檻を拒み、自由を示す象徴となった。
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