悪役令嬢ですが、ヒロインより先に幸せを掴みます

さら

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第六十八話 未来への布石

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 国が静けさを取り戻してから、数か月が経った。
 街には子どもたちの歌声が響き、市場には活気が溢れ、貴族たちの表情にも柔らかな笑みが見えるようになった。かつて檻に囚われていた国は、少しずつ「自由」という新しい形を学び始めていた。

 ◇

 執務室の机に積まれた書類を前に、わたしは白いハンカチを傍らに置いて署名を続けていた。
 「クラリッサ。もう休んでもいいんだぞ」
 レオンハルトが隣から覗き込み、苦笑混じりに言う。
 「いいえ。これは未来への布石です。教育制度の改革、税制の見直し……俯いては進めません」
 「君は本当に強いな」

 彼が優しく笑い、わたしの肩にそっと手を置いた。胸の奥に、温かな灯が広がる。

 ◇

 昼下がりには、城下町の学び舎を訪れた。
 「クラリッサ様!」
 子どもたちが駆け寄り、机に広げた習字の紙を誇らしげに見せてくる。
 「“自由”って書けたよ!」
 「まあ……素晴らしいですわ」

 その無垢な笑顔に涙が滲む。
 「自由は怖いものではありません。……未来を選ぶ力なのです」
 子どもたちの瞳が輝き、その言葉を胸に刻んでいくのがわかった。

 ◇

 しかし、政務の中には厳しい現実もあった。
 「クラリッサ様、一部の貴族が不満を漏らしております。“秩序が緩みすぎている”と」
 家臣の報告に、父が険しい顔をする。
 「檻に縋る声は、まだ消えぬか……」

 わたしは静かに答えた。
 「ええ。けれど、俯きません。檻には戻りません」

 ◇

 夜。新居の寝室で、レオンハルトと並んで窓から星を眺めた。
 「クラリッサ。君と共に進む未来は、きっと眩しい」
 「ええ。けれど、まだ影は残っています」
 「ならば一緒に灯を掲げよう。君となら必ず越えられる」

 彼の言葉に微笑み、肩を寄せる。
 「レオン。わたしは檻には戻りません。あなたと共に、この国を未来へ導きます」

 白いハンカチを胸に抱き、星空を見上げた。

 ◇

 ――悪役令嬢クラリッサは、再建の日々を越え。

 ――未来への布石を、一歩ずつ積み上げていった。
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