悪役令嬢ですが、ヒロインより先に幸せを掴みます

さら

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第六十九話 揺れる貴族社会

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 自由という新しい風が国を包み始めると、真っ先にざわめき出したのは貴族社会だった。
 「税の軽減で我らの収入が減った」
 「教育に金をかけすぎだ」
 「民を甘やかせば、いずれ秩序が崩れる」

 広間での会議は、冷たい視線と囁きに満ちていた。かつてわたしを「悪役令嬢」と呼んでいた者たちが、今は「自由の令嬢」をどう扱うべきか測りかねているのがありありと伝わってくる。

 ◇

 「クラリッサ様、ここで譲歩を……」
 小声で進言する家臣に、わたしは首を振った。
 「いいえ。檻に戻ることは譲歩ではなく、後退です」

 重苦しい空気を切るように声を放った。
 「皆さま。民に学び舎を与え、重税を改めることは、この国を強くするためです。秩序とは檻に縛ることではなく、未来を共に選ぶこと。……わたしは檻には戻りません!」

 ざわめきが広間を揺らし、一部の若い貴族が拍手を送った。古い価値観に縋る者たちは顔をしかめたが、揺らぎは確かに広がっていた。

 ◇

 会議を終えた後、長い廊下を歩くわたしに声をかけた者がいた。
 「クラリッサ様……」
 振り向けば、かつて婚約者だった侯爵家の若き当主。あの日以来、言葉を交わすのは初めてだった。
 「あなたは変わられましたね。……昔はただ気丈な令嬢だと思っていた。けれど今は、国の象徴だ」

 「わたしは檻を拒んだだけです」
 「それでも、その強さが眩しい」
 彼の瞳にわずかな悔恨が宿っているのを見て、わたしはただ微笑み、言葉を返さなかった。

 ◇

 夜。新居の寝室で、レオンハルトがわたしを抱き寄せる。
 「君は本当に強い。今日の会議での姿は、誰よりも誇らしかった」
 「強くなんてありませんわ。ただ……檻に戻りたくないだけです」
 「それが強さだ。だから君を愛している」

 その囁きに胸が熱くなり、白いハンカチを胸に抱きしめた。

 ◇

 ――悪役令嬢クラリッサは、揺れる貴族社会のただ中で。

 ――なお俯かず、自由の旗印として立ち続けた。
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