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第16話 畑を狙う者
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初夏の陽が降り注ぎ、谷の畑は緑で満ちていた。新しく開墾した土地には若芽が揃い、村人たちは汗を流しながらも笑顔を絶やさない。かつて荒地だった場所が、今では豊かな希望を芽吹かせているのだ。クラリッサは畝にしゃがみ込み、土の湿り具合を確かめた。
「いい調子……。水の流れも安定しているわ」
背後からトーマが駆け寄り、息を切らしながら叫んだ。
「クラリッサ! 広場に見知らぬ人が来てる! すごく偉そうで、みんな困ってる!」
胸に冷たいものが走る。屋敷に戻ると、広場には派手な衣装をまとった男が立っていた。分厚い金の指輪をはめ、豊かな腹を揺らして笑う姿は、どこか不快な光を放っている。
「私はヴォルフ商会の会頭、ヴォルフだ。辺境に素晴らしい畑ができたと聞いてね。ぜひ我が商会にその収穫をすべて卸してもらいたい」
強引な言葉に村人たちがざわめく。ライナルトが一歩前に出て、冷ややかな声を放った。
「勝手な話だな。ここは我らの土地だ。誰に売るかは俺たちが決める」
しかしヴォルフは怯むどころか、にやりと口角を上げた。
「辺境伯殿。王都との繋がりを断って生きられると思うかね? 私と契約すれば豊かになる。だが断れば……どうなるか、分かるだろう?」
脅迫めいた言葉に、村人たちの表情が曇った。
△
その夜、屋敷の食卓に重い沈黙が落ちていた。マルタは渋い顔でパンを切り、リーネは心配げにうつむいている。クラリッサは思わず口を開いた。
「ヴォルフ商会に卸す必要なんてありません。私たちの畑は村人のためにあるのです」
「だが商会は手段を選ばぬ。盗賊を雇うこともある」
ライナルトの声は低く、灰色の瞳は暗い光を宿していた。戦場を知る者の勘が、危険を告げているのだ。
「ならば、私たちが先に備えを整えましょう。畑を守る溝を増やし、倉庫の警備も強化して」
「奥方様、そんなことができるのかい?」とマルタが眉をひそめる。
「できます。皆で力を合わせれば」
クラリッサの言葉に、リーネが顔を上げた。
「そうよ! 奥方様がいるなら、私たちだって諦めない!」
その熱に、沈んでいた空気が少しずつ変わっていった。
◇
翌日から村は慌ただしく動き出した。男たちは畑の周囲に木の柵を立て、若者たちは夜警を交代で務める。クラリッサは薬草を調合して警備に配り、疲労を癒す茶を用意した。
「奥方様、ありがとうございます!」
「これで夜も頑張れます!」
人々の笑顔に、クラリッサの胸も力強くなる。
だがその夜、月明かりの下で不審な影が畑の端に現れた。柵を揺らし、畝を荒らそうとする男たち。警備の兵が駆け寄ると、影は森へと逃げ去った。
「やはり……ヴォルフの仕業か」
ライナルトの声は冷たく、剣を握る手が強く締まっていた。クラリッサもまた、怒りに胸を震わせた。
「畑は村の命です。誰にも奪わせません」
彼女の言葉に、兵も村人も力強く頷いた。辺境の小さな村は、今や一つにまとまりつつあった。だが、その背後には確実に、都会の影と商会の思惑が迫っていた。
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初夏の陽が降り注ぎ、谷の畑は緑で満ちていた。新しく開墾した土地には若芽が揃い、村人たちは汗を流しながらも笑顔を絶やさない。かつて荒地だった場所が、今では豊かな希望を芽吹かせているのだ。クラリッサは畝にしゃがみ込み、土の湿り具合を確かめた。
「いい調子……。水の流れも安定しているわ」
背後からトーマが駆け寄り、息を切らしながら叫んだ。
「クラリッサ! 広場に見知らぬ人が来てる! すごく偉そうで、みんな困ってる!」
胸に冷たいものが走る。屋敷に戻ると、広場には派手な衣装をまとった男が立っていた。分厚い金の指輪をはめ、豊かな腹を揺らして笑う姿は、どこか不快な光を放っている。
「私はヴォルフ商会の会頭、ヴォルフだ。辺境に素晴らしい畑ができたと聞いてね。ぜひ我が商会にその収穫をすべて卸してもらいたい」
強引な言葉に村人たちがざわめく。ライナルトが一歩前に出て、冷ややかな声を放った。
「勝手な話だな。ここは我らの土地だ。誰に売るかは俺たちが決める」
しかしヴォルフは怯むどころか、にやりと口角を上げた。
「辺境伯殿。王都との繋がりを断って生きられると思うかね? 私と契約すれば豊かになる。だが断れば……どうなるか、分かるだろう?」
脅迫めいた言葉に、村人たちの表情が曇った。
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その夜、屋敷の食卓に重い沈黙が落ちていた。マルタは渋い顔でパンを切り、リーネは心配げにうつむいている。クラリッサは思わず口を開いた。
「ヴォルフ商会に卸す必要なんてありません。私たちの畑は村人のためにあるのです」
「だが商会は手段を選ばぬ。盗賊を雇うこともある」
ライナルトの声は低く、灰色の瞳は暗い光を宿していた。戦場を知る者の勘が、危険を告げているのだ。
「ならば、私たちが先に備えを整えましょう。畑を守る溝を増やし、倉庫の警備も強化して」
「奥方様、そんなことができるのかい?」とマルタが眉をひそめる。
「できます。皆で力を合わせれば」
クラリッサの言葉に、リーネが顔を上げた。
「そうよ! 奥方様がいるなら、私たちだって諦めない!」
その熱に、沈んでいた空気が少しずつ変わっていった。
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翌日から村は慌ただしく動き出した。男たちは畑の周囲に木の柵を立て、若者たちは夜警を交代で務める。クラリッサは薬草を調合して警備に配り、疲労を癒す茶を用意した。
「奥方様、ありがとうございます!」
「これで夜も頑張れます!」
人々の笑顔に、クラリッサの胸も力強くなる。
だがその夜、月明かりの下で不審な影が畑の端に現れた。柵を揺らし、畝を荒らそうとする男たち。警備の兵が駆け寄ると、影は森へと逃げ去った。
「やはり……ヴォルフの仕業か」
ライナルトの声は冷たく、剣を握る手が強く締まっていた。クラリッサもまた、怒りに胸を震わせた。
「畑は村の命です。誰にも奪わせません」
彼女の言葉に、兵も村人も力強く頷いた。辺境の小さな村は、今や一つにまとまりつつあった。だが、その背後には確実に、都会の影と商会の思惑が迫っていた。
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