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リンブラムの魔女 前編
月夜に浮かび上がる肢体が、何度も悩ましげにしなる。
涙と汗に塗れてもなお美しい顔は、混乱と恐怖、痛みで歪んでいる。紅い唇からは荒い呼吸と甲高い嬌声がひっきりなしに零れていた。
律動に軋む寝台。華奢な身体が揺さぶられるたびに、豊かな膨らみがたぷたぷと音を出す。散々舐った胸の頂きは色を濃くして腫れていた。
大きく広げさせた足の間に陣取った己の怒張が根本まで埋め込まれているのを見やる。剛直を押し込まれて、花びらがめくれあがっている。
舌で指で責め立て続けたそこは、熟れすぎた果実のように赤く色づき、ぐずぐずに溶けていた。じゅくじゅくと粘度のある蜜を滴らせ、その蜜は抽挿を繰り返す己のモノをテラテラと濡れ光らせている。
ぐうっと奥歯を噛み締めたが、無理そうだ。
「………ふっ……すまないが、とまらない。……はっ……だが、君のせいだ!!」
必死にとどめていた理性を手放し、誘うように揺れていた乳房を鷲掴む。
処女を貫いてしばらくは休ませてやるつもりだった。だが、それを許さなかったのは彼女の身体だ。
悲鳴を上げのけぞる身体を、捉えて押さえて犯す。理性を無くし獣のような本能をむき出して、男は女の身体を貪った。
※※※※※
堅牢で堅固な石壁が豪奢に飾り立てられた謁見の間に、冷徹な声が響く。
「諦めろ。すでに私の手に堕ちた。」
「それでも私は愛しているのです!」
「手遅れだ。私が犯し、貪り尽くした。」
「………それでも、俺、私は…私は…」
「無駄だ。腰をくねらせ何度もねだってきたぞ?子種をねだり、よがり狂って締め付けてだらしなく涎をたらして果てていた。腹が膨らむほど私の子種を中に注いでやったら、極めながら失神した。諦めろ、アレは私のものだ。」
震えながら俯いていた男は、嗚咽を漏らしながら走り去っていった。
それを見送り深いため息を吐き出した。
「……あと何人だ…」
「初日ですからね、数えるのも面倒なくらいですかね。大丈夫です。順調に嫌われてますよ。」
「………勘弁してくれ…」
理不尽さに思い疲労感に、ため息が止まらない。憎悪の目で睨みつけてきた青年の目を思い出し、ちょっと泣きそうだ。
「リンブラム領主の宿命です。リンブラムの魔女を手に入れたメリットを考えれば、領民に憎まれることなど些末でしょう。」
にっこりと笑う優男を睨みつける。優しげな風貌の腹黒な副官ならば、偽らざる本心だろう。
だが、あいにくこちらはそこまで開き直れない。
これまでずっと善政を心掛け、領民とも良好な関係を築いてきたのだ。そう、コンセプトとして掲げた会いに行ける領主を目指してきたのだ。それなのに…
項垂れる私に、副官のシンガは呆れたように目を眇めた。
「カインツ。その情けない顔はやめてくださいよ。これから毎日せっせと嫌われなくてはならないのですよ?」
「わかってる。だが、傷つくものは傷つくのだ。決死の覚悟で愛を叫ぶ我が民に、無理矢理奪い取った花嫁との性生活をぶちまけるとか楽しくやれるわけないだろう?」
「まあ…気持ちはね、わかりますけどね。ですが、これはリンブラム領主の義務ですから。魔女の効力が消えるまで、より赤裸々に抉るように叩きつけてやってください。」
「……無理を言うな。さっきのが精一杯だ。私には向いていない。…………お前なら楽しめたのだろうな。」
片眉を跳ね上げて、シンガはにっこりと笑う。だな、お前なら楽しめるだろうよ。
また一つ深いため息を吐き出した。
「メリットが大きいぶん、犠牲も大きいものです。今代の魔女もなかなかの影響力ですし。そのぶんメリットが見込めるはずです。」
そうでしょう?と覗き込まれ、昨夜の出来事を思い出し思わず赤くなって俯いた。
「………ああ、確かに。……すごかった。」
「は?そっちの話じゃないんですけど。」
シンガが引いたように口元を引つらせた。
しまった!夜が強烈過ぎて正直、今もそのことで頭がいっぱいなのだ。
失態にますます顔に熱が集まり、恥ずかしさをごまかすようにシンガを睨みつけた。八つ当たりだ。
「とんだムッツリですね。気が進まないとか言いながら、ちゃっかり楽しんでるじゃないですか。さっきのも誇張じゃなくてやらかした事実なんじゃないんですか?」
「………ふぐっ!!いくらなんでも、処女相手にそ、そこまでは…」
「うわっ!!その言い方!ほぼやらかしたな!てっきり誇張かと思ってたのに。」
「いや、だから…」
「処女相手にとんでもないですね。覚えたての猿じゃないですか!もっと経験を積ませておくべきでしたね。鬼畜!」
「いや、だから、私も自重するつもりだったんだ!だが、本当にすごかったんだ!」
思わず叫んでから己の失言に気付いた。白状してるようなものだとハッとするも遅かった。シンガは軽蔑の眼差しでドン引いていた。
「比較対象の少ない経験値不足の猿がすごかったと言ってもお察しですよ。」
「……いや、経験値不足でもわかるさ…本当にすごかった。あれは指南書にある、名器と言うやつだろう…」
もしょもしょと話す私に、呆れたように顔をしかめてシンガが髪をかきあげた。
「まあ、それも魔女の恩恵の一つです。魔女との子供はおしなべて優秀ですしね。今回の影響力から見ても期待はできます。そんなにお気に召したのなら、盛りのついた猿になってせいぜい励んでください。」
「私は猿ではない…」
「はいはい、そうですか。さっ!次行きますよ。名器の魔女との熱い夜を語って聞かせてやってください。」
シンガはさっさと手を上げて合図を送ると、次の愛を領主の目の前で叫ぶ領民を、私の了承も得ずに入れてしまった。
※※※※※
リンブラム領には魔女が産まれる。
生まれる魔女は黒髪で赤い目をした女と決まっていた。
魔女が産まれると、農耕と畜産で豊かだった領地は荒れていく。領地の景気が落ち込むのが、魔女が現れたかを判別する指針の一つだ。
その落ち込みや、範囲によって魔女の影響力の強さがわかる。リンブラムの魔女が現れた時、領主が魔女を娶ることで、領地は繁栄を続けてきた。
魔女と言っても魔力があるわけでも邪悪なわけでもない。ただひたすらに美しいのだ。
あまりに美しく、周りは魔女に魅了される。農地や家畜を放り出し、魔女に群がる。
何もせずにいるとえらいことになる。魔女に貢ぐために野の花はむしられ、荒れ地となる。
花屋や宝石店は空になる。貢ぐために借金を重ねるものが増え、犯罪率が急上昇する。
その美しさで周囲は勝手に魅了され、勝手に堕落していくのだ。
不思議なことに魔女との間に生まれる子供は素晴らしく優秀だった。生まれた魔女の影響力が大きければ大きいほど、優秀な子が生まれる。
魔女が産まれるたびに当代の領主は娶った。その記録によると、魔女は美しいだけでなく、身体もすごい。男を惑わせ拗らせる魅惑的な身体。
優秀な跡継ぎのためでもあるが、魔女を争ってさらなる悲劇とならぬよう権力と力がある領主が、産まれるたびに魔女を娶ることが不文律となったのだ。
領主に魔女が娶られると、領民は叶わぬ恋を忘れようと仕事に没頭する。影響力の強い魔女であるほどその反動は強いものになる。
影響力の強い魔女だと、婚姻を結んだあとも魅了されたままの領民が突撃してくることがある。
突撃領民に魔女が領主のものであることを叩きつけることも、魔女を娶った領主の義務の一つである。
王家にも知らせないこの秘密は、代々リンブラム領主一族が伝承する機密事項となっている。
「その、すまなかった。我を忘れて無理をさせてしまったな。」
本日分の突撃領民の心を抉り終え、カインツは魔女を訪ねた。
魔女であることを知らない彼女に、リンブラムの魔女について説明し、謝罪する。
彼女としたら突然領城に連れてこられ、理性を飛ばした領主に抱き潰されたのだ。簡単には許してもらえないだろうが、リンブラムの魔女は何があっても領主が娶る。嫌われたままなのは辛い。何とか許してもらい、妻になってほしい。そして夫婦として仲良くしたい。
そっと見つめる彼女は漆黒の髪に輝くルビーのような瞳を瞬かせている。とても美しい。
とても美しいだけでなく、柔らかくて、いい匂いがすることを知っている。彼女はとても甘いのだ。甘くて、そのうえ…
徐々に熱を帯び始めた自身の不埒な身体にため息をつく。シンガの言うように、これでは猿だ。
彼女に嫌われたらとても辛い。悄然と頭を下げ、許しを乞う。
「私は、魔女なのですか?」
柔らかく澄んだ声にハッとしてカインツは頭を上げた。
「私は、私はカインツ・リンブラム様の妻になるのですか?」
「そ、そうだ。あなたはリンブラムの魔女で、リンブラム領主の妻となる。申し訳ないが、拒否権はない。」
初めて交わされる会話に、上擦った声で答える。心臓がうるさ過ぎて痛い。
「あの、私はアンネリッテ。アンネリッテ・シュトライゼン。リンブラム領主様、覚えていらっしゃいませんか?」
「え?」
彼女は私を知っている…?
じっと見上げてくる赤い瞳は美しく、縫い止められたように視線を外すことができない。
「…………無理も、もありません。ひどい煙でしたし、混乱で人が入り乱れて…」
「……煙…。ライカントの火事?」
「っ!はいっ!あの時、あの時、私、リンブラム領主様に助けていただいて。
煙に巻かれて動けなくなった私の手をあの時、引いてくださらなければ、今ここに私はおりませんでした。」
頬を紅潮させて、まっすぐに見つめられる。その瞳は潤んでいるようだった。私はゆるゆると驚きに目を見張る。
彼女はあのライカントの火事の現場にいたらしい。
炭焼小屋から発生した火事は勢いを増し、森にまで広がった。生木に燃え移り、あたり一面燻ぶる煙と炎、恐怖した人が逃げ惑う被害が大きかった火事だった。
近隣領地の視察中に知らせを受け、駆けつけたときは混迷を極めていた。
消火と救助。事後処理と復興にもかなりの時間を要した。
確かに事態がある程度収束してから魔女が発見され、彼女がいたラーブレル修道院はライカントの火事の避難先の一つだ。
「逃げる人に突き飛ばされて、足を怪我して動けずいたんです。炎が目の前に迫っていて、もうダメだと諦めたときにリンブラム領主様が来てくださって。
いつか、命を救っていただいたお礼を直接できたらと願っておりました。」
「そう、だったのか…。そうか…だが、領主として、当然のことだ。礼など…」
「いいえ。たくさん救った命の中の一つだとわかっています。ですが、私にとっては差し伸べられた唯一無二の救いです。
命を救って下さり、ありがとうございます。あの時から私は貴方様をお慕いしておりました。
リンブラムの魔女かはわかりませんが、妻にと望んで下さるのなら、誠心誠意お仕えいたします。」
「……ア、アンネリッテ!!」
潤んだ瞳から宝石のような涙が溢れるのを見つめ、思わずかき抱いた。喜びに胸が詰まって息苦しい。
領主として当然のことをしただけだ。領主として住まう民を一人でも多く救いたかった。何も特別なことではない。
昨夜の無体が無効になるようなものではなく、当然の行いなのに。それでもアンネリッテは感謝をしてくれた。妻になってもいいとまで言ってくれた。当然のことでも、その行いがアンネリッテの心を動かしたというのなら、過去の自分を褒めてやりたい。
アンネリッテを奪った鬼畜領主と領民に罵倒された心の傷も癒えていくようだ。
それでもきちんと言わねばなるまい。強く抱きしめていた腕を緩め、美しい瞳に視線を合わせる。
「アンネリッテ。昨夜はすまなかった。あのような愚行を犯すような私だが、過去の行いに免じて許してくれると言うのなら、どうか私の妻になってほしい。」
「…っ!はいっ!はいっ!領主様。私を貴方様の妻にしてください。」
「アンネリッテ。どうかカインツと。」
「…はいっ!はいっ!カインツ様…」
感極まって華奢な身体をキツく抱きしめる。この日ほど深く神に感謝をした日はない。愛しい我が妻。彼女自ら私に応えてくれた。その事実が明日からの突撃領民の罵倒から心を守ってくれるだろう。
猿になる前にこうして説明し、愛を乞うべきだったのだ。そんな愚かな私を許す慈悲深い私の魔女。だが次は失うかもしれない。もう、決して間違うまいと心に誓い、アンネリッテに口づけを落とした。
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