彼女に裏切られて自暴自棄になってたら、超絶美少女でお嬢様なむかしの幼馴染に拾われた〜復縁してくれ?今の環境が最高なのでお断りします〜

片野丙郎

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3章

暗黙のルール

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 さっそく千本院君に接触すべく校舎の中に宇佐美と一緒に入る。さて、千本院君はどこに居るかな? 思えば、俺は彼の事をよく知らない。

 知っているのは、文武両道の天才で名家のご子息である事だけである。……これだけで充分、キャラが濃いな。

 とりあえず、教室から当たってみるか……と俺が歩を進めると同時に、すかさず宇佐見が突っ込む。

「ハル君、この時間なら千本院君は中庭にいるはずだよ!」

 俺の疑問が分かっていたかのように宇佐美が回答を示してくれる。事実、分かっていたのだろう。宇佐美は妙なところで鋭いし……。しかし、何と場所がーー

「中庭……!」

 ……そういえば以前、宇佐美に東凰学園の暗黙のルールについて教わったな。何でも、この東凰学園に於いては守らなければならない暗黙のルールが2つあるのだとか。校則違反などには決して抵触しないが、ルールを守らない人間は人知れず制裁を受けるらしい。

 ルールその一、【九大家きゅうたいかに許可なく、話しかけてはいけない】。

 九大家とは、日本の経済を担う、古くから存在する九つの一族の事である。その歴史は古く、九つの一族、そのどれ一つをとっても最低1000年以上の歴史を持つ。ちなみに千本院帝君の千本院家、王島英梨香の王島家も九大家に含まれる。

 話しかけるには九大家の付き人、もしくは取り巻きに取り次いでもらい、了承を得てからでないといけない。ただし、九大家の方から話しかけてくる場合は例外である。

 ルールそのニ、【九大家の人間以外は中庭に近付いてはならない】。

 東凰学園の施設は名目上、全生徒に対し開放されている。しかし、校舎中央の中庭に関してだけはそのルールは適用されない。

 【九大家は常に日本の中心にいるべし】という考えのもと、東凰学園の中心である中庭も九大家だけの居場所となっている。中庭に入れるのは、九大家の付き人か取り巻きだけである。一応、ルール的には九大家の招待を受ければ、入る事は出来るが……。

 つまり、俺が今の千本院君に話しかけるには、ルールその一とルールそのニ、この2つともがどうしても邪魔になる。1つだけならまだしも、2つのルールを守って接触するとなると難儀である。今はタイミングが悪いな……。

「宇佐美、今、千本院君に接触するのはやめておこう。タイミングが悪そうだ」

 千本院君との交渉は一旦諦めよう。勝負は2週間後。交渉の機会はまだ幾らかあるだろう。そう結論付け、俺は宇佐美に計画の中止を訴えるがーー

「うーん。……大丈夫だよ、ハル君!」

 宇佐美は計画の続行を促す。何考えてるんだ宇佐美!? 今のタイミングが不味いというのは少し考えれば分かるだろ!?

「おい、宇佐美! 今はどう考えても無理だろ!? 宇佐美が教えてくれたんだろ! 東凰学園の暗黙のルール!」

「もしかしてハル君……九大家以外は中庭に近付いちゃいけないってルールを気にしてるの?」

 こてんと首を傾け、宇佐美が問う。あっ、今の仕草かわいい……じゃない! しっかりしろ俺っ!

「当たり前だろ! ハッキリ言って俺はタダの宇佐美の付き人だぞ。中庭に入るなんて望むべくもない事は宇佐美も分かってるだろ? 宇佐美だって九大家って訳じゃないし……今接触するのは誰が考えても無理だろ」

 理路整然と接触は不可能であると宇佐美に伝える。しかし、宇佐美はーー

「まぁまぁ、ハル君や。私を信じて付いてきてくれませんかね。騙されたと思って」

 なぜか老人口調で俺を諭してくる。
 正直、納得はしていない。…が、まあ、宇佐美がこう言うんだ。信じて付いて行ってみるか。駄目でも日を改めれば良いだけだ。

「わかったよ。宇佐美を信じる」

「フフーンッ! 分かればよろしい!」

 途端、上機嫌になった宇佐美は歩き出す。その後ろ姿を俺も慌てて追いかけるのだった。





ーーーーーーーーーー





 東凰学園、中庭の入り口。入り口には付き人らしき男が数人、塞ぐようにして中庭唯一の扉の前に直立している。おそらく、彼らの主人から見張るように命令を受けたのだろう。うーん、出来るなら近づきたくないなぁ。

 しかし、宇佐美は俺の内心などお構いなしに扉の前までぐんぐんと進んでいく。……主人が率先してるんだ。付き人がついて行かないワケにはいかないな。

「ごめんなさ~い」

「…………ッ!」

 扉に近付く生徒がいるという事で最初は怪訝そうにしていた付き人たちだったが、宇佐美に気付くと驚いて目を見開く。2、3歩足を引き摺り、放心していたが、しかし、すぐに持ち直して姿勢を正す。

「……申し訳ございません。宇佐美杏様、御用件を伺わせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「お気になさらず。千本院帝君はココにいらっしゃりますか?」

「いらっしゃられます」

「そうですか。では少し失礼させていただきます」

 そう言うと、宇佐美は自然な動作で中に入ろうとするーー

「申し訳ございません」

 ーーがしかし、付き人が扉と宇佐美の間に割り込む。まあ、そりゃそうなるか。千本院君とは約束をしたわけでも無いのだ。

「九大家以外の御方を通すなと申し付けを受けています。もしや、約束などありましたら千本院様に取り次ぎますが?」

 すみません、約束してません。唐突に思い付いて来ただけです。

「約束などしていません」

「では……申し訳ありませんがお引き取りください。こちらとしても御許可の無い者を通すワケにはございません」

 やっぱり無理か……。俺が内心で諦めかけていると、宇佐美が口を開く。

「許可……必要ですか?」

「…………ッ!」

 瞬間、宇佐美を中心に圧力が生じる。圧に当てられ、付き人の表情が歪む。

「……もういちど尋ねます」

「…………」

 付き人の顔色は傍目から見ても悪い。寒くもないのに体は震え、額からは汗が大量に噴き出す。かくゆう俺も体が固まって動かせない。

「……許可は必要ですか?」

「…………」

 場に沈黙が広がる。現在、この空間を支配しているのは間違いなく、宇佐美杏であった。

「……いえ、申し訳ございません。どうぞお通りください」

 付き人は震えながらも、何とか言葉を吐き出した。付き人の言葉を聞くと、宇佐美が口元に笑みをたたえる。

「ありがとう! ほら、ハル君行こっ!」

 宇佐美に促されるまま、中庭の扉をくぐる。

 宇佐美の知らない部分を見たな……。俺は初めて、宇佐美杏という女の子に恐怖を感じるのだった。
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