彼女に裏切られて自暴自棄になってたら、超絶美少女でお嬢様なむかしの幼馴染に拾われた〜復縁してくれ?今の環境が最高なのでお断りします〜

片野丙郎

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3章

交渉

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 扉を潜ると、キレイに舗装された一本道の先に大きな東屋を見つける。東屋には数人の人影も見つけられる。近付いていくと、段々と人影の人物が誰であったかハッキリ分かる。

「……千本院帝」

 東屋では千本院帝くんが取り巻きたちと談笑を続けている。但し、千本院帝くんが椅子に座っているのに対し、取り巻きたちが立っているところを見るに、その立場が平等ではないと一目でわかる。

 すると、千本院君の取り巻きの一人が近付く俺たちに気付く。取り巻きの一人は一瞬、ギョッと目を見開くがすぐに千本院君に耳打ちを始める。

「どうやら気付いたようですね」

 取り巻きから耳打ちを受けた千本院君は東屋に近付く俺たちに視線を向ける。その視線からはあまり友好的な感じはしない。千本院君は睨め付けるように俺と宇佐美を見渡した後、ニヤリと笑う。

「どうやってココに入った? 入り口には見張りを立たせていたはずだが?」

「特別なことは何も。誠心誠意、友好的に話し合って退いてもらいました」

 友好的……だったかな? 見張りの人の顔色は真っ青だったけど。誠心誠意というか精神声威せいしんせいいと変えた方がしっくりくる。

「フッ……話し合ってだと? そんな簡単に入れるほど、中庭という場所は安くない。おおかた、威圧でもして無理矢理入って来たのだろう?」

「ご想像にお任せします」

 千本院君と宇佐美を中心に空気が冷たくなる。さっきの宇佐美の威圧にも肝が冷えたが、千本院は宇佐美にも負けない威圧感を纏っている。二人分の威圧感は打ち消しあう事なく、互いにぶつかり合って勢いを増す。

 口を挟める空気じゃない……! 

「クックックッ……!」

一触即発とも言える空気だったが、千本院君の笑い声によって緊迫の状況が破かれる。

「流石だな……。俺と真っ向から張り合うとは宇佐美の【氷姫こおりひめ】の噂は伊達ではないと言うわけか」

「その呼び名は好きではありません。まったく……人間に向かって氷なんて失礼ですよ」

 氷姫……? 宇佐美はそんな呼ばれ方をしているのか……。

 少し前の俺なら氷姫なんて渾名、信じなかったかもしれない。しかし、今日俺が目撃してきた宇佐美の姿からは、氷姫という名前が決して外れているとは思えない。

「氷姫はお気に召さないか?」

「はい」

「なら……こんなのはどうだ?」

 千本院君は少し含みを持たせてから、ゆっくりと語り出す。

「【十大家じゅったいか】」

「……!」

 千本院君の言葉に今日初めて、宇佐美が表情を顰める。

「この呼び方ならお気に召してくれるかな?」

「…………」

 宇佐美が口を閉ざして、沈黙を貫く。しばしの間、場に流れる沈黙。宇佐美の表情が氷のように冷たく固まる。

 しかし、一変した表情そのままに宇佐美が沈黙を破る。

「十大家……。あら、私が十番目なんて……ずいぶん自惚れがすぎるんじゃない? ねぇ、千本院家の千本院帝君?」

「クククッ……宇佐美家は九大家より上だとでも言いたげだな?」

「事実、上だよ。それは数字と実績がよく示してるでしょ?」

「堕ちた大家がよくよく生意気な口を聞くものだな……」

「あなた達、九大家が卑怯な手を使って堕とした張本人の癖にアナタこそ、よくそんな口が聞けるわね」

「……千本院家の次期当主である俺に対してその不遜な態度……面白い!」

 一触即発……! 千本院君と宇佐美の口論はヒートアップしていく。

 千本院君と宇佐美、いったい何の話をしているんだ!? まったく状況がわからない!?

 宇佐美、話し合いに来たんじゃないのか!? これじゃあ、完全に喧嘩だ。何とかしないと。

「おい、宇佐美! 何してるんだ!? ここには話し合いに来たはずだろう!」

「……!」

 無理矢理2人の間に割り込むと、ハッとして宇佐美が落ち着く。千本院君も一旦、口論を中止する。

「ごっ、ごめんハル君……。私、ちょっと興奮しちゃって……!」

「いや……落ち着いたならそれでいい」

 千本院君にはお願いとも言える話し合いに来たのだ。本題を話す前から関係が険悪になっては頼めるものも頼めなくなる。

 宇佐美も落ち着いたみたいだし……。これでやっと話し合いに持っていけるーー

「おい、平民。……お前ごときが俺たちの会話を邪魔するとは何事だ! 付き人は大人しく引っ込んでいろ!」

 ーーと思っていると、千本院から俺に対して非難の声が掛かる。

「ちょっと! ハル君に対して何てこと言うの!」

 千本院君の言葉にすかさず、宇佐美が強い口調で言葉を返す。

 ちょっと宇佐美さん!? 俺のために怒ってくれるの嬉しいけど、今は抑えてくれませんか!?

「ハル君だと……!? 付き人ごときに親しげに話し掛けるとは……。オイ貴様ッ! 名を名乗るがいい……」

「……周王春樹と申し上げます。宇佐美杏様の付き人をやれせていただいております」

 一応、付き人としての礼を取り、千本院君の問いに答える。

「周王春樹……。貴様……俺と2週間後に勝負するという男か!」

「左様でございます」

「…………」

 千本院は顎に手を当て、思案を始める。そして幾許かの間、考えを巡らせた後に口を開く。

「……ここへ何をしにきた? お前たちの様子を見るに俺に用があるのはお前なのだろう?」

「はい。少しばかり千本院様にお願いしたい仕儀がございまして」

「願いか……。いや、おおかた検討はつくがな。周王春樹……申してみよ」

 千本院君の言葉に俺は意を決して、当初の目的であった例の件について語り出す。

「2週間後の勝負……負けては下さりませんか?」

「クックックックッ……!」

 俺のお願いを聞くと、千本院君は口端を上げ、笑い声を溢す。

「なるほどな……。俺に勝つのは難しいと考えて、ならば事前に勝利を譲ってもらおうという魂胆か」

「はい。どうかこの願い、受け入れて下さりませんか?」

 交渉に入る前に宇佐美とのゴタゴタがあったの誤算だったが、この話は別に、千本院くんにとっても大して重要な案件ではない。そんなに難しい要求ではないだろう。

 しかし、そんな俺の内心を否定するようにーー

「貴様の願い……断らせてもらう!」

 ーー千本院君は願いを却下するのだった。
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