魔女と拾い子

こむらともあさ

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本編

8.【完】母子逃亡劇のはじまり

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(ヴィンセントの所へ飛んだはずだけど)




 陣まで描いて転移したのは、王宮の暗い一室だった。

 フィーリンが軽く手を振ると、明かりが灯る。





「こんなことして、ただで済むと思ってるの?」


 後手を縛られたアタシアのボロボロさに、笑いが込み上げてきた。


 魔力を奪われた時と立場が逆転して、ふんぞり返って見下してやる。


「私は魔女よ?反逆者として追われようとも、逃げ切れるわ」

 苦虫を潰したような表情を向けられ、フィーリンは今にも鼻歌を奏でそうな勢いだ。





 部屋を見渡すと、隅に転がるヴィンセントがいた。


 呻きとともに、まぶたが上がる。


「ヴィンセント、動ける?」


「母様?」

「寝起きのところ悪いんだけど、説明してる暇ないの。あなた、ここに残りたいわけじゃないわよね」

「冗談じゃない」

 嫌悪感丸出しで答えるヴィンセントへ、ニヒルに笑いかける。


 それを合図に、2人は窓を突き破った。





 バタバタとようやっと現れた騎士たちに、アタシアは叫ぶ。

「あの2人を捕らえて!男は生捕に、魔女の生死は問わないわ!!早く!!」















 フィーリンは18年使えなかった魔力を発散させるように、行く手を阻もうとする者へ炎や氷をぶつけてやる。



「こんなに的がいてくれると、勘も取り戻せそうだわ」


 その姿に呆れるヴィンセントの聖壁に、まあまあ大きめの瓦礫が衝突し粉砕されていく。

 あちこちから起こる爆発音と叫び声が、王宮全体を震わせていた。





「もう充分でしょう!転移しますよ!!」


 子供のようにはしゃぐ母の背に、手をかざす。

 振り返るフィーリンは、不満そうだ。



「もうちょっと遊んでいたかったけど...」


 聖女とは思えない形相で飛んでくるアタシアが、視界の隅に入る。




「仕方ないわね」


 肩を落とす姿に苦笑しながら、ヴィンセントは聖力を集中させた。









強い輝きが消える頃には、もう母子はいない。


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