Last Resort〜君を好きでいたかったひと夏〜

浅倉 魁莉

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第6話 陽太と夏海

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あれから数日が経った。
僕はいつものように会社に出社し、営業の仕事の日々に戻っている。
取引先に電話をしたり見積書を作ったり、上司に報告連絡をしたり。
している事は今までと全く変わらない。
しかし、僕の心の中は違っていた。
仕事が終わるのが待ち遠しくてとてもウキウキしていたんだ。

「なぁ柊、お前最近なんか楽しそうじゃん。何かあった」
アイドルオタクの同僚・山崎が僕を不思議そうに見ながらそう言った。

「いや、特に何もないけど」
「そうか。何か仕事している時も今までより生き生きしてるっていうかなんか楽しそうっていうか。てか、今までがつまらなそうだったからな」
「うるさいな」
「ふっ、まぁ俺はみっちゃんへの愛があれば毎日のどんな辛い事でも我慢できる」
「幸せだな、山崎は」

前の僕だったらそんな彼のことをうらやましいと言う感情を持っていた。
でも今はそうでもなかった。

「お先に失礼しますっ!」
夜の7時前、僕はその日の仕事を切り上げて会社のオフィス出ようとした。

「陽太っ」
退社しようとした僕を背後から呼び止めたのは、同僚で幼なじみのユーリだった。

「どうした、ユーリ」
「いや、あのさ……ちょっと相談ごとがあるんだけど、この後時間ある?」
「えっ?」
「大した事じゃないんだけどさ、ちょっとご飯でも食べながらどうかと思って」
「あー悪い、この後ちょっと急ぎの予定が入っててさ」
僕が申し訳なさそうにそう言うと、ユーリはどことなく残念そうに小さなため息をついた。

「そか、陽太ごめんね急に呼び止めて」
「いや、でも相談ごとだったら時間作るからまた言ってくれよな」
「うん……サンキュー」
「それとユーリ」
「ん?」
「お前胸だけはムダにデカいんだから、痴漢とかに気をつけろよ。ブラウスぱんぱんだぞ」
「うっさい!さっさと行きなさいよ!」

ユーリは顔を真っ赤にして、オフィスの中に戻っていった。
中学生のあたりから大きかった胸やお尻のことを言うと、すぐにムキになるところが昔から全く変わってない。
本当ならセクハラにあたるようなことも、「うっさい!」の一言だけで済むのが幼なじみの特典のようなものだった。
それに、メリハリのあるユーリのスタイルには実は少しだけドキドキもしていた。

そんなことを色々考えつつ、僕は今日の「約束の場所」へと向かう。
その場所とは、僕が心から楽しみにしていて仕方がなかった場所。
新宿にあるなんてことない居酒屋、そこが待ち合わせ場所になっていた。


「陽太さんっ」
その呼び声に僕はときめいた。
待ち合わせの相手が来たから。
その相手の女性に、僕はこう呼び返す。

「夏海さんっ!こっちこっち!」
僕の心の中は彼女の名前を呼ぶだけできゅんと高鳴る。
ピンク色のカットソーに、赤い花柄の白いフレアスカート。
まさにイマドキ女子のファッションをさもモデル顔負けに着こなす彼女が、今まさに僕の隣に座っている。
ただそれだけで僕は嬉しかった。

「ごめんなさい、遅くなって。ちょっと仕事が押しちゃって」
「ううん、僕もついさっき来たばかりだから」
ドラマにもあるようなありがちなセリフを交わす。
僕はこれだけで充分楽しい。
ファッションモデルや女子アナのように可愛くて美人、おしゃれで目だちもはっきりとしている彼女を隣にしていると、周囲の男どもがこちらをチラチラ見ているのがわかる。
僕はそれだけでなんとなく自慢げになっていた。

「カンパイ!」
「お疲れ様っ」
カウンター席で生ビールのジョッキを合わせる。
この間のようなおしゃれな個室ダイニングと違い、他の客との仕切りもないような焼き鳥居酒屋。
僕がいつも来るようなところでよかったのかと思うが、彼女はこういったお店が好きなようで、それが意外でありつつのさらなる好印象を僕につける。

「今日も朝から疲れたよ、営業先のお客さんがさ……」
ちょっと愚痴めいた事でも、夏海さんは微笑みながら聞いてくれる。
美人で気取らなくて聞き上手、そんな彼女と一緒にいる時間がとても愛おしかった。

金曜の夜ということもあり、しゃれっ気のない焼き鳥を片手に互いのことを話す僕ら。
すると話は、「過去の恋愛について」になる。

「陽太さんて、学生の頃とか彼女はいたの?」
「え?まぁ、一人だけね」
「同じクラスの子??」
「うん、まぁ」
「どっちが告白したの?」
「僕だな」
「告白のとき何て言ったの?」
夏海さんは、大きな瞳をキラキラさせながら僕を見つめる。
美しい彼女の顔が僕の視界にどんどん近づくたびに、僕の心拍数はどんどん上がる。
僕は冷静さを保つように努めながら答えた。

「いや、まぁ……普通に『ずっと好きでした』ってね」
僕は自分で答えて、ほろ酔いになりながらも少し恥ずかしくなった。
すると彼女はクスッと可愛く微笑む。

「ずっと好きでした、かぁ。いいなぁ、初々しくて……でも素直でまっすぐで。そんな言葉、ここのところずっと言われたことないよ」
「またまた、夏海さんみたいな美人なら言い寄る男がたくさんでほっとかないでしょ?」
「……ううん、そんなこと」
すると彼女はふと表情を曇らせる。
何かまずいことを言ってしまっただろうか。
そんなことを考えていると彼女はすぐに口を開く。

「私、男運ないから……」
「えっ?」
あまりにも意外な言葉が出てきた。
僕の人生にこれまで縁がないような彼女みたいな煌びやかな美人が、まさかそんな……と信じがたい言葉だった。

「ねぇ、陽太さん……私って、そんなに魅力ないのかな」
「いや、そんなことない。というか、全然そんな風に思えない」
「うそ」
「いや、嘘なんてつかないよ」
「……ほんと?」

すると、僕の心の中は鳥肌が立つように奮えた。
僕の右横にいる彼女は、両手で僕の右手を握り、そして顔を僕の右肩にピッタリとつけたんだ。

「夏海さん……」
「陽太さん……優しいね」

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