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行方不明の皇太子
珈琲とリコリス
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ある程度、お客様がはけてから、私達は夕飯をとる。ロト博士とマゼランさんは、今日は少し遠くまでいったのか、私達が食事を始めた頃に戻ってきた。
「ああ、お邪魔してしまったね」
博士はそう言って上にあがっていこうとしたけれど、私は呼び止め、とっておいたコロッケのサンドを2人にわたす。
「お夕飯まだなら、こちらを」
2人は顔を見合せ、それから有り難う、とほほえんだ。
ふと、足をとめたマゼランさんが私をふりかえる。
「ここの猫、戻ったんですね」
階段にエドアルドがごろりと横になっていたからだ。ごめんなさいとわたしがひきとると、
「エドアルドといえば…皇太子が行方不明だっていう噂、ききましたか?」
ええ?と私はルーを振り返る。ルーが首を横にふり、マゼランさんがそうですよね、とうなづいた。
「まだ新聞にも載っていませんが、王宮の研究室からの伝達なので確実でしょう。意外とここへ泊まりに来るかもしれませんよ」
にやっといたずらっぽい笑みをうかべたマゼランさんに、
「ここがド田舎だからですか?やだなあ」
と、私は笑った。
ロト博士達が部屋に入ってしまえば、私たちも特にすることはなくなり、そろそろ自分の部屋へひきあげる。
「エリン」
部屋へ戻ろうとしたところで、ルーに呼び止められた。
「手を切ったでしょう、見せてください」
と、ハンガーにかかったエプロンを指した。指をふいたところに、僅かに血の染みができていた。
「たいしたことないわ、もう治った」
ルーは有無を言わせず、私の指先を握る。
「見た目は塞げても、傷ついたことはなかったことにならない。そう言ったのはあなただ」
騎士が忠誠を誓うときみたいに、ルーの額に指先があたった。すみません、と囁くように呟くルーに、
「止めて。お金出してもらってるのにいつまでも謝らせてたら、脅迫みたいじゃない!」
手を取り返し、出来るだけ強くにらんだ。
そうか、とルーはうなづき、それからサイフォンの箱を指した。
「淹れて貰えませんか」
へ?と私の口からおかしな音が漏れた。さっきは無駄なものって言ってなかった?と首を傾げると、ルーはさほども顔色を変えないまま、
「申し訳ない。あの雑貨屋の店主が『ご亭主の口に合うだろうと言ったら、直ぐに買った』というようなことをいったので。商売人の口車にのせられて、妙な物を買ったと決めつけてしまいました」
そういって、少しだけ俯く。あら、珍しく落ち込んでる?
「あなたが休んでいる間に来た喫茶の客はみな、あれに興味を示していました」
なるほど、私が騙されたと思ったのね?私は勢い良く立ち上がり、カウンターへ置いたサイフォンをばらしてフラスコに水を注いだ。
「ね、聞いていてね」
まるで秘密を共有するみたいに、唇のまえに指をたてた。
火をつけたアルコールランプが、ゆうらりと暗い夜のキッチンに影をのばした。
「ああ、お邪魔してしまったね」
博士はそう言って上にあがっていこうとしたけれど、私は呼び止め、とっておいたコロッケのサンドを2人にわたす。
「お夕飯まだなら、こちらを」
2人は顔を見合せ、それから有り難う、とほほえんだ。
ふと、足をとめたマゼランさんが私をふりかえる。
「ここの猫、戻ったんですね」
階段にエドアルドがごろりと横になっていたからだ。ごめんなさいとわたしがひきとると、
「エドアルドといえば…皇太子が行方不明だっていう噂、ききましたか?」
ええ?と私はルーを振り返る。ルーが首を横にふり、マゼランさんがそうですよね、とうなづいた。
「まだ新聞にも載っていませんが、王宮の研究室からの伝達なので確実でしょう。意外とここへ泊まりに来るかもしれませんよ」
にやっといたずらっぽい笑みをうかべたマゼランさんに、
「ここがド田舎だからですか?やだなあ」
と、私は笑った。
ロト博士達が部屋に入ってしまえば、私たちも特にすることはなくなり、そろそろ自分の部屋へひきあげる。
「エリン」
部屋へ戻ろうとしたところで、ルーに呼び止められた。
「手を切ったでしょう、見せてください」
と、ハンガーにかかったエプロンを指した。指をふいたところに、僅かに血の染みができていた。
「たいしたことないわ、もう治った」
ルーは有無を言わせず、私の指先を握る。
「見た目は塞げても、傷ついたことはなかったことにならない。そう言ったのはあなただ」
騎士が忠誠を誓うときみたいに、ルーの額に指先があたった。すみません、と囁くように呟くルーに、
「止めて。お金出してもらってるのにいつまでも謝らせてたら、脅迫みたいじゃない!」
手を取り返し、出来るだけ強くにらんだ。
そうか、とルーはうなづき、それからサイフォンの箱を指した。
「淹れて貰えませんか」
へ?と私の口からおかしな音が漏れた。さっきは無駄なものって言ってなかった?と首を傾げると、ルーはさほども顔色を変えないまま、
「申し訳ない。あの雑貨屋の店主が『ご亭主の口に合うだろうと言ったら、直ぐに買った』というようなことをいったので。商売人の口車にのせられて、妙な物を買ったと決めつけてしまいました」
そういって、少しだけ俯く。あら、珍しく落ち込んでる?
「あなたが休んでいる間に来た喫茶の客はみな、あれに興味を示していました」
なるほど、私が騙されたと思ったのね?私は勢い良く立ち上がり、カウンターへ置いたサイフォンをばらしてフラスコに水を注いだ。
「ね、聞いていてね」
まるで秘密を共有するみたいに、唇のまえに指をたてた。
火をつけたアルコールランプが、ゆうらりと暗い夜のキッチンに影をのばした。
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