やり直しは嫌なので、全力で拒否します!

西藤島 みや

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バセッティの幼い姉弟

司祭令嬢の記憶①

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フィオラはそもそも、才知長けた娘であった。
ひとりで座れるようになった頃には既に、歴史書をひもとき、文字をかけるようになっていた。

歌舞音曲に秀でており、また家庭教師が必要でなくなるほど学業も優秀であることが分かると、父親であるバセッティ司祭は、娘を皇帝の嫡男、ルーカス皇太子の妻とすべく教育をはじめたのだ。

バセッティ司祭は、司祭としての清廉な仮面を外せば強欲な男であった。

田舎貴族だった彼は、バセッティ家の娘であったフィオラの母の元へ婿入りし、バセッティの名前と資産を受け継いだが、それに飽きたらず、今は皇帝の祖父となるべく、フィオラに厳しい王妃教育を受けさせているのだ。

「馬鹿馬鹿しい、こんなことになるなら、私はイチ抜けするわよ!」
ばん、と置かれた大きな本に、リアムは驚いて姉を見た。
「これ、大図書館の本でしょう!?こんなもの、どうやって?」

フィオラのの体ほどもある大型の本だ。抱えて隠して帰ることも難しい。
「ああ、これかしら?」
そう言って手元にあったペンで紙に書いたのは、古代の文字を円環に書き、紋様にしたものだった。

リアムはそれを受け取ると、眉根をよせた。だが、少しだけ間をおいて
「これはなに、ねえさま」
と尋ねた。フィオラはふん、と笑った。
「魔法陣よ、知っているはずだわ…これを使えばどんな大きなものも、自分の思うばしょへはこべる。もしかしたらリアムだって描けるのではなくて?」

惚けても、この弟は常人ではないのくらいわかっている。
「そんなことないよねえさま。僕はなんにも知らないよ、だってまだ四歳だもの」
かわいらしい困り顔をしてみせるが、フィオラはそれにどうかしら、と肩を竦めてみせる。


リアムについてフィオラが知ることは少ない。四歳でありながら、異常なほどの知識があり、ある日父親が親類の家から連れ帰ってきた少年。

もしかしたら、どこかの女に父が生ませたのかもしれないと、屋敷の内外で噂になっていることをフィオラは知っていた。

あまりに幼いうちから才知に長けていて、子供らしい面がすくないところがフィオラと似すぎているからだ。


「それで?ねえさま。どうしてこの本をもちだしてきたのですか?…古代文字はまだ、大図書館の博士たちでも解読ができないのでしょう?」
そう言われてフィオラは首をふった。

「私には読めるのリアム。そしてここには、私のことが書かれていたのよ」
そう言ってあるページを指差したのだ。

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