やり直しは嫌なので、全力で拒否します!

西藤島 みや

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幽霊と時計の秘密

降霊術師と公爵家の幽霊②

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リアムがどれほど面倒がろうと、招待状が届けばバセッティ家の姉弟として、行かねばならない。
「とうさま、よく降霊会なんて行かせる気になるよね…」

リアムが言うと、フィオラもうなづきながら
「多分私がどこへ行くかに感心がなさすぎて、ここへ招待されてる人の、名前しか読んでないわね…これじゃ意味がないわ…」
そういって唇を噛む。フィオラの目的は皇太子の婚約者候補から外れることなのだが、なかなか難しい。

伯爵家の応接室で、ボソボソと二人が話していると扉をあけて公爵夫人と子供達がはいってきた。
「リアム、お前に面白そうなものを見せてやるから、ついてこいよ」
ジャスパーとジェットに言われてリアムは席をたち、三人で応接室を出ていった。

「小さい子だけで大丈夫かしら?」
フィオラが言うと、公爵夫人はクスクスと笑い、
「まるで大人のような言い方をするのね」
とフィオラにわらいかけた。

「心配せずともわたくしの連れてきた従者がついて行きますからね、わたくしたちも楽しみましょうね」
言われて頷いたそのとき、先日の茶会でも同席した女性たちがぞろぞろと執事に案内されてきた。

「伯爵令嬢が知り合いの有名な霊能者を呼んだんですって。怖いわあ、ドキドキしますわね」
怖い怖いといいながら、手を取り合い笑いさざめく女性たちに、フィオラはひっそりため息をついた。




やがて、先日も会ったリステル伯爵令嬢…アリアナの姉が、一人の老婆を連れてきた。
「円になって座り、隣の人と手を取り合って、目を閉じるのです」
老婆は厳かに言い渡し、全ての窓のカーテンをしめさせる
と、部屋は暗闇になった。

「何をたずねたいのかしら」
話し声というより、虫の羽音のような声で老婆が話し始めた。
「先生、わたくしの本当の、妹は今どこにいるのでしょう…妹と話せますか?」
伯爵令嬢がそう言うのをきいて、フィオラはなるほどと頷いた。

伯爵令嬢は、オカルトマニアでもなんでもなく、ただ母親が不義の子を生んだ、ということから世間の目をそらしたいと考えているのだ。そのために、他の貴族…少なくともこうした霊や占いに傾倒しやすい女性達に、リステル伯爵の末の娘は、妖精によって入れ替えられた『とりかえ子』チェンジリングだとおもわせたいのだろう。


「…貴方の妹は、もうこの世のものではありません。精霊の世界へ連れ去られて久しいからでしょう…わたくしの霊力をもって、かの少女の御霊を呼び寄せましょう」
そう言うと、なにか呪文のようなものを唱えはじめた。すると皆が囲んでいるテーブルがガタガタと揺れ始めた。
キャ!と声をあげて、女性たちが手を離すと老婆が
「手を離してはなりません!」
と厳しい声で言うのが聞こえた。

両隣の女性が手を離したのを機会に、暗がりに乗じてフィオラはテーブルの下へ潜り込んだ。
「やっぱり…」
そこには、薄明るく光る古代文字の紋様…フィオラが以前弟へ見せたのと同じ、魔方陣だ。

「風の魔方陣。これでテーブルを持ち上げているんだわ…でも、ちょっと力不足ではないかしら?」
どうせなら宙に浮かぶくらいのインパクトがあるほうがいいかしら?と、フィオラは今の魔方陣を書き直し、そこへ魔力を流し込んだ。

はじめはぼんやりした灯りだったものが、騒ぐ女性たちの環にフィオラがなに食わぬ顔でもどるころにはいっそう輝き、勢いよくテーブルが跳び上がった。
「何が起きたの!?」
占い道具らしき大きな水晶が転がり落ちて砕け、公爵夫人が悲痛な叫びをあげ、伯爵令嬢が老婆に詰め寄った。

「恐ろしい!いままで一度もこのようなことはなかった!あなたは、精霊の怒りをかったのです!」
老婆が伯爵令嬢に向かってどなった。

加減が難しい。止めなくては、とフィオラは両手をそっとテーブルに添えるけれど、空をきって回転しはじめたテーブルは止まろうとしない。ばりばりと音をたてて、部屋の壁紙を切り裂き、あちらこちらへと飛び回りはじめた。女性たちは皆、悲鳴をあげて逃げまどう。

「アリアナ、駄目!」
伯爵令嬢の声に振り返ると、応接室のドアが開いて遊びに行ったはずの子供たちの姿が見えた。そこへ回転する凶器と化したテーブルが飛んでゆく。

「リアム!」
出入り口に立ってドアノブを握っているアリアナの真後ろにいたリアムの小さな姿を、フィオラはみつけて叫ぶ。リアムは大きく目をみひらき、なにか口許を動かす。

「リアム!お願いよ!逃げて!」
フィオラは祈るように手を握りあわせて叫び続けた。しかしリアムは動かず、テーブルも勢いを失わない。

「リアム!」
もう子供たちにぶつかる、というところでテーブルは失速し、ドアの手前で向きをかえてマントルピースのほうへと落ちていった。大きな音をたててマントルピースが崩れ、もうもうと煤が舞い上がった。



「ああ、なんてことなの……」
公爵夫人が呟く。
「恐ろしい。降霊会などしなければよかったのだわ」
誰かがまたそれに相槌をうつ。
「不義の子供を、無理にとりかえ子などと言わせようとするから、精霊が怒ったのです」
と、老婆は伯爵令嬢を睨み付け、さっさと帰り支度をして出ていってしまった。

「あの、私どもももう帰らなくては…」
公爵夫人の言葉にあわせて、ほかの婦人や令嬢たちもぞろぞろとでてゆく。
「あ、そんな、皆さま待ってくださいませ…」
伯爵令嬢の呼び止める声にも、誰も耳を貸さない。
伯爵令嬢はフィオラとリアムのほうをすがるように見ている。なにか声をかけようかと、フィオナが伯爵令嬢のほうへむかおうとすると、

「ねえさま、僕、おなかすきました」
リアムに袖を牽かれ、結局はなにも言えないまま、他の女性たちと一緒にフィオラも伯爵邸を後にしたのだった。
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