やり直しは嫌なので、全力で拒否します!

西藤島 みや

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運命の輪が廻る

開かれた世界と、囚われの皇女

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翌朝、初登校だというのにフィオラは教室で頭を抱えることになった。というのも、

「お早う、バセッティ司祭令嬢さま、わたくしから贈りものがございますわ」

寮を出ようとしていたフィオラに、メルヴィルが手にしていた制服のタイを渡してきたからだ。
周りの女生徒がざわざわと騒ぎ始めるなか、メルヴィルはフィオラの制服の襟に、タイをむすんでいく。
「大切にして頂戴ね、わたくしも大切にいたしますから」
そう言って、自分のタイを持ち上げてウインクした。

そのときのフィオラは、なんだか芝居がかった方だなあ、としか思わなかったのだが。
「バセッティ令嬢様!」
追ってきた数人の令嬢と話すうち、フィオラは衝撃的な事実を知ることになる。

「この学園の女生徒のタイは、愛のタイなのですわ。想いあう殿方と交換しますの…でも皇女さまと交換だなんて、さすがバセッティ司祭令嬢さまは他と違いますわね!私たち、感心いたしましたの!」
そう言ってフィオラのカバンを恭しく受け取ろうとする令嬢までいたのだ。勿論フィオラは丁重に断ったが、寮から学園までゆく間に、フィオラには数人の取り巻きができてしまっていた。

親友?とフィオラは頭をかかえた。メルヴィルとは昨日初対面のはずだ。確かに次期女王であるメルヴィルにとっては、友達ひとつとってもけしておろそかにできるものではない。

王家と所縁深いバセッティ家は、確かにその点では安心なのかもしれないが、かなり面倒ごとに巻き込まれた感は否めない。
「なにをたくらんでいるのかしら」
フィオラはひとに聞こえぬ程の声で呟き、教科書を机に広げた。そろりとその表紙をなぞり、教室をみまわした。

高い天井にはオレンジと白のランプが幾つも下がり、正面には大きな黒板が設置されている。左奥には背の高い硝子戸棚が設置されており、見たことのない生き物の標本が並んでいる。
階段状に設置された席では、生徒が思い思いに座って、今は授業の開始時間を待っていた。

やがて、教員が入室してきて授業がはじまる。

フィオラにとってそれは、全てが新しくもの珍しいもので、ただ教室を移動しては授業をうける、その事が楽しかった。
前世でさえ生涯閉ざされた世界にいたフィオラは、砂漠の砂が水を吸うように、学園で知識を得ていった。

日々は、飛ぶように過ぎてゆく。フィオラにとって、つかの間の自由の日々が。


「バセッティ令嬢は、学校がお好きなようね」
ある日、幾何の授業のあと、隣に座ってきたメルヴィルが言った。
「ええ。皇女殿下はお嫌いなのですか?」
不敬とは知りながら、フィオラは授業のノートのまとめをする手を止めずに尋ねると、メルヴィルはころころと笑った。
「好きかどうか分からないわ。わたくしはひとりでは、ご不浄ひとつ行かせて貰えないのよ?ここに来ても席も貴賓席からはほとんど出て来られない」
ああ、と振り返れば、階段講堂の一番奥に設えられた、オペラの桟敷席のような個室が見えた。豪奢な造りのそこから、王家の子女は授業を受けるのだ。

「ねえ、あなたも彼処へいらっしゃいよ、ね?それがいいわ!」
ぱん、と両手をあわせてメルヴィルが微笑む。いかにもいい考えと言わんばかりだ。困惑してフィオラが周りを見回すが、周りの令嬢たちは、メルヴィルとフィオラに遠慮がちに視線を送るだけで、とくになにもいわない。

フィオラは両手を組み合わせ、少しの間考えたが、やがて立ち上がった。
「……御意に従います。皇女様」



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