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侯爵令嬢は悪魔と契約している。
彼女が契約した悪魔とは
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「国民はあなたの所有物ではありません。もっと民に心を添わせなければ、国を治めることはできないと申し上げておりました!ご覧なさいませ!皆あなたを恐れて発言すらできません!」
アマンダが折れた扇で指し示した室内は、確かに静まり返っている。しかしそれは、何もリューイ王子のせいばかりではない。アマンダの怒りと、その怒りによって引き起こされる天変地異に驚きおののいた招待客は、いまや息を呑んで彼らを見上げている。先ほどまで騒ぎを起こしていたキャロラインと生徒会長たちには、もはや誰も目もむけない。
「………コホン」
王陛下が、来賓席から咳払いをして立ち上がった。
「リューイ王子、セリス侯爵令嬢。席につきなさい」
ハッとなったアマンダは、さっと姿勢をただしてその場で淑女の礼をとった。ぶっ叩かれて何事か言おうとしていたリューイ王子も、渋々席につく。
「ご覧のとおりの不肖の息子であるが、セリス令嬢の働きかけにより人としての人格を、辛うじて失わずにいる。コロン子爵令嬢…否、ここに集っている全ての貴族令嬢は皆お分かりいただけたかと思うが…この愚息の手綱は並大抵のことでは握れぬ。よって、ここにアマンダ・セリス侯爵令嬢とわが息子リューイ王子の婚姻の儀を、来年8月に執り行うことを宣言する」
厳粛な王陛下の宣言に、会場は拍手につつまれた。
もはやここで拍手しておかないと事態の収拾なんかつきそうにない。
「うそ…うそでしょ…」
アマンダは小さく呟く。
「ふむ、見ろアマンダ、丸く収まったじゃないか」
はあ?とアマンダは顔をあげてリューイ王子を睨もうとするが、王陛下と目があって再び頭をさげた。
「この私から逃げ出せると思っていたことが、お前の敗因だな。観念しろ」
チッ、とリューイ王子にだけ聞こえる舌打ちに、リューイ王子は何故か満面の笑みをうかべた。その顔はまさに花がほころぶようだ。
「8月まではまだ半年以上あります。それまでに絶対ヒロインを見つけて、円満に退場してみせますわ!」
ふうん、と不満そうに返事をしたリューイ王子は、一転不機嫌そうになりながら段の下の招待客達を見下ろした。
「代わりが見つかるといいな…もし、身代わりがいないまま君が逃げ出すようなら、私としてはここの国民をすべていっときに物言わぬの肉の塊にしてから、いっそ新しく国を建てたって構わないのだが」
その言葉は一言一句すべて招待客に聞こえていた。
ひいいいい、と捕縛されていた男子生徒が震え上がる。それは、招待客…ひいては国民全体の悲鳴にほかならなかった。
「私にはそれができる。さて、どうする?」
「…チッ…承知いたしました」
「結婚式を楽しみにしているよ、花嫁殿。なあ!ご来席の貴族の皆様もそうであろう!」
満場の拍手に、アマンダはため息をついてから、リューイ王子には目もくれずにさっさと段を降りた。会場からは、拍手に混じって
「人柱の乙女か、気の毒に」
「しかし彼女が妃にならねば我々の命すらあやうい」
「ここはセリス侯爵に涙をのんでもらおう」
と囁きあう声が聞こえる。
『聞こえてるっていうのよ!』
アマンダは会場からの去り際、折れた扇子をにぎりしめた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アマンダ・セリス。この王国でただひとり7神によりリューイ王子の妻と認められた女性。最高の容姿、最高の頭脳、そして最悪の性格をもって生まれたリューイ王子を扇子でぶっ叩く、その勇気をもってして、今日も「悪魔の契約者」「人柱の乙女」の二つ名で国民の希望を一身に背負っている。
ただし、今もまだ、身代わりの人柱を探すことは、あきらめてはいない。
アマンダが折れた扇で指し示した室内は、確かに静まり返っている。しかしそれは、何もリューイ王子のせいばかりではない。アマンダの怒りと、その怒りによって引き起こされる天変地異に驚きおののいた招待客は、いまや息を呑んで彼らを見上げている。先ほどまで騒ぎを起こしていたキャロラインと生徒会長たちには、もはや誰も目もむけない。
「………コホン」
王陛下が、来賓席から咳払いをして立ち上がった。
「リューイ王子、セリス侯爵令嬢。席につきなさい」
ハッとなったアマンダは、さっと姿勢をただしてその場で淑女の礼をとった。ぶっ叩かれて何事か言おうとしていたリューイ王子も、渋々席につく。
「ご覧のとおりの不肖の息子であるが、セリス令嬢の働きかけにより人としての人格を、辛うじて失わずにいる。コロン子爵令嬢…否、ここに集っている全ての貴族令嬢は皆お分かりいただけたかと思うが…この愚息の手綱は並大抵のことでは握れぬ。よって、ここにアマンダ・セリス侯爵令嬢とわが息子リューイ王子の婚姻の儀を、来年8月に執り行うことを宣言する」
厳粛な王陛下の宣言に、会場は拍手につつまれた。
もはやここで拍手しておかないと事態の収拾なんかつきそうにない。
「うそ…うそでしょ…」
アマンダは小さく呟く。
「ふむ、見ろアマンダ、丸く収まったじゃないか」
はあ?とアマンダは顔をあげてリューイ王子を睨もうとするが、王陛下と目があって再び頭をさげた。
「この私から逃げ出せると思っていたことが、お前の敗因だな。観念しろ」
チッ、とリューイ王子にだけ聞こえる舌打ちに、リューイ王子は何故か満面の笑みをうかべた。その顔はまさに花がほころぶようだ。
「8月まではまだ半年以上あります。それまでに絶対ヒロインを見つけて、円満に退場してみせますわ!」
ふうん、と不満そうに返事をしたリューイ王子は、一転不機嫌そうになりながら段の下の招待客達を見下ろした。
「代わりが見つかるといいな…もし、身代わりがいないまま君が逃げ出すようなら、私としてはここの国民をすべていっときに物言わぬの肉の塊にしてから、いっそ新しく国を建てたって構わないのだが」
その言葉は一言一句すべて招待客に聞こえていた。
ひいいいい、と捕縛されていた男子生徒が震え上がる。それは、招待客…ひいては国民全体の悲鳴にほかならなかった。
「私にはそれができる。さて、どうする?」
「…チッ…承知いたしました」
「結婚式を楽しみにしているよ、花嫁殿。なあ!ご来席の貴族の皆様もそうであろう!」
満場の拍手に、アマンダはため息をついてから、リューイ王子には目もくれずにさっさと段を降りた。会場からは、拍手に混じって
「人柱の乙女か、気の毒に」
「しかし彼女が妃にならねば我々の命すらあやうい」
「ここはセリス侯爵に涙をのんでもらおう」
と囁きあう声が聞こえる。
『聞こえてるっていうのよ!』
アマンダは会場からの去り際、折れた扇子をにぎりしめた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アマンダ・セリス。この王国でただひとり7神によりリューイ王子の妻と認められた女性。最高の容姿、最高の頭脳、そして最悪の性格をもって生まれたリューイ王子を扇子でぶっ叩く、その勇気をもってして、今日も「悪魔の契約者」「人柱の乙女」の二つ名で国民の希望を一身に背負っている。
ただし、今もまだ、身代わりの人柱を探すことは、あきらめてはいない。
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感想失礼します!
とても楽しく読めました(*^^*)
読みながらツッコミ入れつつ、出来れば王子side読みたいです(´^ω^`)ブフォ ʷʷʷ
結婚後の2人も読んでみたいです。
もう王子逃がす気がさらさら無いのがまた良いですね(¯v¯)ニヤ
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凄くこの物語好きです(´^ω^`)ブフォ ʷʷʷ
喜んでいただけて嬉しいです!
感想、ありがとうございます(#^.^#)
感想ありがとうございます。
思いつきで書いたものの、箸にも棒にもかからぬ長さのお話で💦
アマンダ的には納得いかないでしょうけど、王子はアマンダがとても好きなので溺愛してくださるやもしれません。彼なりのやり方で…怖いですが。