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レイノルズの悪魔 南領へ行く
王子様と従僕見習い
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リディアおばさまの屋敷での生活も、もう2週目に入ろうとしている朝のことだ。私がテラスでおばさまに新聞をよんで差し上げていたら、トリスがバタバタと足音をたててやって来た。
「トリスタン」
咳払いのあと、バートに手で制されてトリスはあわてて深々と頭をさげた。
「どうかしたの?」
この頃はトリスも人前ではちゃんと私の反応を待てるようになってきた。
「お手紙が…あのう…クロード皇太子様からです」
言葉をえらべたのはえらいと思うけど、二人だけだったら『はやくあけなさいよ!』くらい言ってるな、と分かる表情だ。
受け取って、何気ないかおで食事をしていると、トリスはひじで私の脇をつついてきた。
「トリスタン」
またバートに見咎められている。わたしはそのまま食後のお茶を飲み、おばさまと少し話をしてから部屋へ戻った。
「なに、なんてかいてあった?」
私が手紙を読み終わるかどうかの頃に、使用人用の出入口の戸を音をたてて入ってきたトリスは、やっぱりというか、目を輝かせて言った。
「会いたいーとか、書いてあった?」
「まさか!ただ、人を探してるってだけよ。10才くらいの、天使のように清らかで優しい少女で、この間のお茶会に出ていた子って」
なんだそれ、とトリスは鼻で笑い、あんたの婚約者なんでしょ、わたしならホウキで尻を叩いてやるけどね、と言う。
「え、男のひとのおしりを叩くの?」
つい聞き返すと、
「え、見たことない?そういや、あんたも親いないんだもんね…」
と、妙に同情された。いやいや、普通の貴族の夫婦は、ホウキでご主人を叩いたりはしないんじゃないかしら?いや、私もよく知らないんだけど。
「まあ、とにかくあんたは婚約者の王子様に馬鹿にされてんだから、怒っていいはずだってこと!」
と背中を叩かれた。トリスの言うことは私の住む世界とあまりに差がありすぎて、よくわからない。
最近では流星号が疲れない程度にだけど、屋敷の近隣を散策できるようになった。
厩で鞍をつけてもらい、私とルーファスは屋敷から少し離れたところにある湖水まで出掛けることにした。屋敷からさほど離れてはいないけれど、少し高地になるのか涼しいし、流星号とルーファスの馬を待たせておく低木もたくさんあるから最近よく来ているところだ。
「市井のものが皆そのように荒っぽいわけではありませんよ」
ルーファスは困惑しきりといった様子で私に冷たいお茶を差し出した。
「あら、わかっていてよ。でも、ご夫婦となるとやっぱり、そんなにも遠慮がなくなるものかしらと思って」
お礼を言ってお茶をうけとり、ひと口飲んでから首をかしげた。
「そうですね、何でも話せる友人であり、同じ目標に向かう信頼できる相手であることが、必要でしょうから」
そんな風に言われて、ため息が出た。
クロードさまと私の間に、そんな絆はなかった。私はひたすら、どこに出しても恥ずかしくない立派な夫に庇護されて安心したいと願っていて、的外れだった?私はあのとき、本当はどうすべきだったんだろう。
「レディ・レイノルズ!!」
音がするほどの勢いで、手をとられ、ルーファスの顔が目の前に来た。
「どうか気を落とさないでください!僕が言ったのはたんにそうだといい、というだけで、そうでなくてはならないわけではないですから!」
私が昔の思い出を辿っていたのが、落ち込んでみえたのかもしれない。必死の形相で慰められて、ちょっと困って笑いかけてみた。
「大丈夫です、私にはトリスもあなたもいますものね」
そう、見せかけの味方しかいなかったあの頃の私とはちがう、別の生き方もできそうだ。と頷くと、ルーファスは突然赤くなって、はげしく頷いた。
「そう!そうです!ぼくが」
「おまえがなんだって?」
唐突に頭の上から、聞き覚えのあるこえが降ってきた。
「……クロード皇太子!?」
ルーファスのことばに振り向くと、木陰に腕を組んで立っている、クロード少年。
私はあまりにも驚いたので、飛び退いてへたりこんだ。ルーファスも瞬間的に固まったみたいに、地面に伏せて土下座の姿勢になっている。
「やあ、『レミ』」
つかつかと近寄ってきたクロード少年は、私の腕をつかんでルーファスから引き離した。
「それともアイリスと呼ぶかい?」
これには本当に驚いた。だって手紙では、天使を探すよう要請してきていたのに、ほんの2日ほどでいったいどうしてこんな…
「君のおじいさまに同じ手紙を出したんだよ…僕に恥をかかせたうえ、こんなところで堂々と、下僕と逢い引きとはな」
「トリスタン」
咳払いのあと、バートに手で制されてトリスはあわてて深々と頭をさげた。
「どうかしたの?」
この頃はトリスも人前ではちゃんと私の反応を待てるようになってきた。
「お手紙が…あのう…クロード皇太子様からです」
言葉をえらべたのはえらいと思うけど、二人だけだったら『はやくあけなさいよ!』くらい言ってるな、と分かる表情だ。
受け取って、何気ないかおで食事をしていると、トリスはひじで私の脇をつついてきた。
「トリスタン」
またバートに見咎められている。わたしはそのまま食後のお茶を飲み、おばさまと少し話をしてから部屋へ戻った。
「なに、なんてかいてあった?」
私が手紙を読み終わるかどうかの頃に、使用人用の出入口の戸を音をたてて入ってきたトリスは、やっぱりというか、目を輝かせて言った。
「会いたいーとか、書いてあった?」
「まさか!ただ、人を探してるってだけよ。10才くらいの、天使のように清らかで優しい少女で、この間のお茶会に出ていた子って」
なんだそれ、とトリスは鼻で笑い、あんたの婚約者なんでしょ、わたしならホウキで尻を叩いてやるけどね、と言う。
「え、男のひとのおしりを叩くの?」
つい聞き返すと、
「え、見たことない?そういや、あんたも親いないんだもんね…」
と、妙に同情された。いやいや、普通の貴族の夫婦は、ホウキでご主人を叩いたりはしないんじゃないかしら?いや、私もよく知らないんだけど。
「まあ、とにかくあんたは婚約者の王子様に馬鹿にされてんだから、怒っていいはずだってこと!」
と背中を叩かれた。トリスの言うことは私の住む世界とあまりに差がありすぎて、よくわからない。
最近では流星号が疲れない程度にだけど、屋敷の近隣を散策できるようになった。
厩で鞍をつけてもらい、私とルーファスは屋敷から少し離れたところにある湖水まで出掛けることにした。屋敷からさほど離れてはいないけれど、少し高地になるのか涼しいし、流星号とルーファスの馬を待たせておく低木もたくさんあるから最近よく来ているところだ。
「市井のものが皆そのように荒っぽいわけではありませんよ」
ルーファスは困惑しきりといった様子で私に冷たいお茶を差し出した。
「あら、わかっていてよ。でも、ご夫婦となるとやっぱり、そんなにも遠慮がなくなるものかしらと思って」
お礼を言ってお茶をうけとり、ひと口飲んでから首をかしげた。
「そうですね、何でも話せる友人であり、同じ目標に向かう信頼できる相手であることが、必要でしょうから」
そんな風に言われて、ため息が出た。
クロードさまと私の間に、そんな絆はなかった。私はひたすら、どこに出しても恥ずかしくない立派な夫に庇護されて安心したいと願っていて、的外れだった?私はあのとき、本当はどうすべきだったんだろう。
「レディ・レイノルズ!!」
音がするほどの勢いで、手をとられ、ルーファスの顔が目の前に来た。
「どうか気を落とさないでください!僕が言ったのはたんにそうだといい、というだけで、そうでなくてはならないわけではないですから!」
私が昔の思い出を辿っていたのが、落ち込んでみえたのかもしれない。必死の形相で慰められて、ちょっと困って笑いかけてみた。
「大丈夫です、私にはトリスもあなたもいますものね」
そう、見せかけの味方しかいなかったあの頃の私とはちがう、別の生き方もできそうだ。と頷くと、ルーファスは突然赤くなって、はげしく頷いた。
「そう!そうです!ぼくが」
「おまえがなんだって?」
唐突に頭の上から、聞き覚えのあるこえが降ってきた。
「……クロード皇太子!?」
ルーファスのことばに振り向くと、木陰に腕を組んで立っている、クロード少年。
私はあまりにも驚いたので、飛び退いてへたりこんだ。ルーファスも瞬間的に固まったみたいに、地面に伏せて土下座の姿勢になっている。
「やあ、『レミ』」
つかつかと近寄ってきたクロード少年は、私の腕をつかんでルーファスから引き離した。
「それともアイリスと呼ぶかい?」
これには本当に驚いた。だって手紙では、天使を探すよう要請してきていたのに、ほんの2日ほどでいったいどうしてこんな…
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