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【2-8】「クエストLv5《ウェネヌムの沼地》(その8)」

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《変化(へんげ)》で力を手に入れたオレは、毒に負けじと立ち上がり、自力で清めの泉へと歩く。精神力が切れる前にな。
 そして、清めの泉で毒を浄化し、更には精神力を回復させることに成功した。

「全く、チートなスキルだぜ……」

 だが、それがいい。
 このスキルがあれば、ほんの僅かな時間だが、オレは最強のゴブリンになることができる。他の誰が相手だろうが、圧倒することが可能だ。

 ラビアも、このスキルを持っていた。
 だが、人間に戻る道を選択した。

 人間か、それともモンスターか。
 苦渋の決断には、意外なチート機能が隠されていたってわけだ。

「……あ、やべえっ!」

 呆けている場合ではない。
 ラビアとネロが、ポイズンゾンビと戦っているのだ。

「ッ、遅いわよ!」

 オレが近づく姿が視界に映ったのか、ラビアが声を上げる。
 何度も呪文を唱え、電撃魔法をポイズンゾンビに直撃させている。

 その度に、ポイズンゾンビの体がもげるのだが、ダメージを与えることはできていなかった。

「すまん、遅れた!」

「っていうか、さっきの何よ? あんたからめちゃくちゃ強そうな気配がしたんだけどっ!」

 スキルを発動した時のことか。

「《変化(へんげ)》で、チートなオレになってただけだっ!」

 そう言って、オレは長剣を振り抜く。
 ポイズンゾンビ胴体を真っ二つに斬っ――たと思ったが、すぐにくっついた。
 こいつは、不死のモンスターなのだ。

「くくっ、無駄だよ。きみたちに僕は倒せない」

 人間を喰らったポイズンゾンビは、人語を扱える。
 だからこそ、相手の意思が伝わり、緊迫感も増していく。

「くそっ、どうすれば……ッ」

 と言ったところで、思い出す。
 核を破壊するのだ。

「こいつの核は……」

 胴体を斬った時、核に触れた感じはしなかった。
 だとすれば、やはり脳の部分にあるのだろうか。

「きみたちに、それが分かるはずないさ」

 再度、ポイズンゾンビは風魔法を繰り出した。
 距離の無いところから、風の刃が襲い来る。

「ラビアッ」

「ううっ」

 ラビアの反応が遅れる。
 が、オレがラビアの頭に手を置いて、そのまま勢いよくしゃがんだ。

「きみはもう動きが鈍いね。僕の敵じゃない。でも、そっちのゴブリンは……ポイズンリザードを倒して、更に力をつけたか」

 ポイズンゾンビは、オレと目を合わせる。
 口元を意地悪く緩めて、首の骨を鳴らした。

「先ずは、きみを倒すべきだったかな?」
 
 腕を前に出す。
 それだけのことで、毒の塊が飛んできた。

「ネロ、ラビアを頼むっ」

「あいよ!」

 ラビアを守るように、ネロが前に立つ。
 だが、身長差が激しいので、あまり意味が無い。
 けれども、心強くはあるだろう。

 ポイズンゾンビの標的は、オレへと移っていた。

「さあ、僕の毒で死んでもらおうか」

「それは嫌だな」

 毒で死ぬのは苦しそうだから嫌だ。
 だからといって、別の方法で死ぬのもごめんだ。

 緊張に身を包まれた中、オレは改めて理由を考えてみる。
 とりあえず、思い浮かんだことは一つ。

 オレは、童貞のまま死にたくなかった。
 ただそれだけが、オレの生きる希望となって……とまではいかないが、それでもやはり童貞のままってのは嫌だ。

 いずれは、ハーレムを作る。
 その中に、ラビアも加えて。
 ラビアとあんなことやこんなことを。

「いかんいかん、こんな時に何を考えてんだオレは!」

 いや、考えて何が悪い。
 現実世界では、何もできなかった。彼女なんて作れるはずがなかった。

 だが、ここなら……。
 この世界なら、可能かもしれな……よく考えたら、オレはゴブリンだ。
 人間の姿のラビアが、オレのことを好きになることがあるか?

 所持スキル《変化(へんげ)》のおかげで、オレは少しの間だけ、最強の力を手にすることが可能となった。
 それは、今のところ10秒間だけだ。
 だが、10秒過ぎた後、更に10秒、待つ。
 すると、もう一度所持スキルを発動することが可能となる。

 そう簡単に精神力は回復しないが、このスキルに関していえば、異なる。

 精神力の数値によって発動時間が増加していくが、精神力を使用するわけではないからだ。

 スキルを発動している間、別のスキルを発動することも可能となる。
 これはある意味、無限の可能性を秘めていると言っても過言ではない。

 ……何の話だ。
 今はオレに彼女ができるか否かの話を……じゃなくて、目の前の敵に集中することの方が大事だ。

「行くぜ、ポイズンゾンビ」

 気を取り直して、オレはポイズンゾンビを睨み付けた。
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