太陽を追いかける月のように

あらんすみし

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世界平和

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2人での幸せな朝食の時間はあっという間に過ぎて、俺たちは一緒に出勤することにした。
「あっ、着替えがなかった。昨日と同じ服じゃ汚いし、一度帰るか」
「でも、もう時間無いですよ」
「そうだなぁ、どうするか?」
「福山さん、これを着てください」 
川口青年は、俺に代わりの服を一式用意してくれた。
「さすがに下着までは・・・」
「何を今さら言ってるんですか?ほら、早く着替えて下さい、遅刻しますよ!」
「今さら・・・って」
一緒に朝まで愛し合った関係とは言え、俺はまだ少し躊躇いがあった。それに、なかなか派手な下着。別に誰かに見せるものでもないのだが、若い男の下着を履くのは少し気が引ける。
しかし、汚れた下着を履いて出勤するのも抵抗があるのも事実。
俺は、やや大きめの川口青年の下着を履いて、彼が用意してくれた服に着替えた。
やはり自分より大きな川口青年の服はブカブカだ。着ていて違和感がある。
「すごい似合ってますよ!」
そう言って、川口青年は親指を立てた。
「そうか?なんか無理が無いか?」
「大丈夫です、俺のコーディネートは完璧ですから」
はたしてそうだっただろうか?
まぁ、せっかく川口青年が俺のためにコーディネートを考えてくれたわけだし、俺は素直に従うことにした。
「さて、行くか」
「あっ、福山さん。忘れ物があります」
「えっ?財布も携帯も持ったぞ?」
川口青年は、俺に軽くキスをしてきた。
「な、何をしてるんだ!」
「いいじゃないですか。さぁ、福山さんもキスしてくださいよ」
やれやれ、すっかり新婚気分だな。しょうがない、急いでいるがキスくらいかまわないか。
俺は川口青年にキスをした。すると、彼は俺の顔を掴んで本気のキスをしてきた。
なかなかキスをやめない川口青年を引き離すのに、俺は少々苦労をした。
「長いんだよ!さあ、行くぞ!」
そんなことを言いながらも、これほどまでに自分が愛されていることを、求められることに、悪い気はしなかった。
職場に着くと、俺たちは入り口で狭山に遭遇した。
「あっ、おはようございます。なんだ、今朝は2人で仲良く出勤か?」
「あっ、あぁ。たまたま近くで会ったからな」
「今日は、いつもと雰囲気違うな」
狭山の指摘に俺は少し戸惑う。
「そうか?何か変か?」
「服装がいつもと全然違う。まるで川口君が着るみたいな若い子の服だ。それに、今流行りのブカブカな服装。川口君の影響か?」
「いや、まぁ、そんなところかな」
「あまり若作りすると、女どもに噂されるぞ」
狭山は言いたいだけ言うと、さっさと事務所の奥へと姿を消した。案外目ざといんだな、あいつ。
「いやぁ、けっこうわかるものなんですね」
川口青年は、それがなぜか嬉しそうにしている。
「バカ!バレたらぞうするんだ?」
「別に、俺はいいですよ。福山さんが一緒なら」
どうしてこうもこいつの口からは、何の躊躇いもなくこういう言葉が出てくるのだろう?嬉しくないわけじゃないが、そのたびにヒヤヒヤして振り回される俺って、いったい何なのだろうか?
事務所に入ると、さっそく女性たちが俺に群がってきた。
やはり狭山が気づくくらいだからか、彼女たちはもっと反応が早いな。
矢継ぎ早に繰り出される質問の数々。少しでも気を緩めると墓穴を掘ってしまいそうになる。
俺は細心の注意をはらいながら彼女たちの質問に答えた。
急にどうしたのか?イメージチェンジをした理由は?川口青年の影響なのか?
まるで警察の尋問のようだ。でも、嬉々として尋問してくる彼女たちの様子を見ていると、俺も自然と笑顔になってくる。
まるで、俺と川口青年の幸せが周りに伝播して広がっていくようだ。
どうしてだろう?これほどまでに恋をすることが嬉しいだなんて。相手が初めて付き合う男だからなのか?それとも川口青年だからなのか?どちらでもいいか。俺たちが幸せなことには、何の疑問も異論も挟む余地など無いのだから。
あぁ、この幸せが世界中に広がって、世界平和に貢献できたら素晴らしいのになぁ。




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