太陽を追いかける月のように

愛の巣を探して

天高く馬肥ゆる秋、とはよく言ったもので、今日も弁当が美味い。ただのコンビニ弁当だが、毎日こんなに美味しくいただけるのも、恋という隠し味がプラスされているからかもしれないな。
隣で持参した弁当を食べている川口青年も、いつもどおり美味そうに弁当を頬張っている。
俺たちの交際は順調で、あれから3週間経つが、少しずつ色々なことがしっくりとし始めている。
初めは、初の男同士の付き合いということで、お互いにどうしたらいいものか試行錯誤の連続だったが、そんな新しい発見の連続を今は楽しめてもきている。
きっとこれからも、川口青年のことについても多くの新しい発見があって、さらに想いが深まっていくものなのだろうと思う。
そして明日は、付き合ってから初めての、待望の2人揃っての休みの日だ。
付き合い始めた時に約束していた、2人で共に暮らす愛の巣を探しに行くことになっている。
今からどんな物件にするか、2人で話し合ってだいたいの希望は固まっている。
お互いのプライバシーは大切にしたいとのことで、部屋は別々にすることに決まった。
川口青年は少し不服そうだったが、ここは少し大人で経験値も高い俺がどうにか説得した。
川口青年の希望で、台所はシステムキッチンを探すことにした。
今から毎日俺に手料理を振る舞うのだと意気込んでいる。
お風呂は一緒に入りたいと言う川口青年の希望を尊重して、なるべく広い物件を探すことにした。
部屋を別々にしてもらったぶん、他の条件はできるだけ彼の意思を尊重して叶えてあげたい。
今から明日が楽しみだ。
「そうですね」
「えっ？今、俺声に出してた？」
「出してましたよ、思いっきり」
どうやら楽しみすぎて声に出してしまったらしい。川口青年のことをとやかく言えないな。

翌朝、俺たちは駅前の不動産屋に入った。
「いらっしゃいませ、福山様。本日はご来店いただきありがとうございます。本日担当いたします、木崎と申します。理想の物件に辿り着けるまで、誠心誠意励みますのでよろしくお願いします」
「よろしくお願いします！」
川口青年はテンションも高めに挨拶を返す。
「それで、どちらさまがお部屋をお探しでいらっしゃいますか？」
「2人です」
瞬間、木崎の笑顔が顔に張り付くのがわかった。
「失礼ですが、お二人はどのようなご関係で？」
「親戚です」
「恋人です！」
おい！それは打ち合わせと違うだろ！
「そうですかぁ、いや～、何ですかねぇ。男性同士のカップルの方となりますと、ご案内できる物件も限られてきますよ」
「やっぱりそうですか？」
「オーナーの方の中には、やはり今の価値観を受け入れられない方も多くて」
うーむ。覚悟はしていたが、やはりそうだよな。
「まさか、こんな田舎町で男性カップルのお客様がいらっしゃるとは・・・でも、ご安心下さい！こんなこともあろうかと、当店では地域に先駆けてLGBTQフレンドリーの物件もいくつかご用意しています」
「本当ですか！？」
「例えば、この物件などはいかがでしょう？お二人で住めますし、家賃もお値打ちですよ」
「あっ、これは違います。駅から遠いし、システムキッチンじゃないので」
「では、こちらは？」
「うーん。なんかさっきより狭いですね。鉄筋でもないし」
「まぁ、駅近なので」
それからしばらく、担当と川口青年は、あぁでもない、こうでもない、と白熱したやりとりを展開していた。
俺はすっかり蚊帳の外に追いやられて、2人の攻防を隣から眺めているしか出来なかった。
「お客様、いっそのこと一戸建てはいかがでしょうか？」
「一戸建て？」
「ここまでのお話で、ほぼ全ての条件を兼ね備えた物件が一つあります」
そう言うと、木崎は一枚の間取り図を持ってきた。
「築年数は25年と割と古めですが、駅徒歩5分、お互いのお部屋も確保でき、システムキッチン、追い焚き機能付きお風呂、狭いながらも庭があります。一戸建てなので隣近所の生活音も気になりません」
「たしかに、全て満たしている。どう思う？」
「うーん。俺の生まれる前に建てられたのがなぁ」
「実際の物件をご覧になってはいかがでしょう？見たらきっとお気に召すと思いますよ」
たしかにそうかもしれない。いつまでもここで議論していても何も決まらない。
「せっかく来たんだし、他にこれといったのも無いし、見るだけ見てみないか？」
「うーん。じゃあ、とりあえず見るだけなら」
渋々ながらも川口青年を説得した俺と木崎は、彼の気が変わらないうちに手早く支度を整えて、問題の物件へと向かった。