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【完結】ふたり
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「それで、そのあとどうなったんですか?」
僕は秋山さんに尋ねた。
「福山さんが命を張って助けた赤ん坊は、幸いかすり傷程度で無事だった。福山さんの死は、新聞やテレビでも大きく取り上げられたよ。勇敢な男性の命を張った行為は、美談としてニュースに取り上げられたよ」
秋山さんは手元のコーヒーカップを取り上げて、冷めたコーヒーを一口すすった。
「そうですか・・・福山さんの死は、決して無駄では無かったんですね」
「そうだね、それが唯一の救いなのかもしれないね。さて、そろそろ話しも終わりだな。他に聞きたいことはあるかな?」
秋山さんが、コーヒーカップの底に残ったコーヒーを、最後の一口飲み込んだ。
「あの、川口さんはその後、どうなったんですか?彼も亡くなったのですよね?
」
「あぁ、彼は福山さんの死がよほどショックだったのか、その後すっかり塞ぎ込んでしまってね。福山さんが亡くなったのは自分のせいだと、自責の念に駆られていたよ。福山さんが亡くなってからは、私は川口君と一緒に暮らすようになったんだ。そうでないと、彼は何をしでかすかわからなかったからね」
「川口さんは、自ら命を・・・?」
そう聞いて僕は、そのことを口にしたことを後悔した。まるで、そんな結末を期待しているのではと秋山さんに思われたのではないかと、内心ドギマギした。
「いや、川口君が選んだのは緩慢な死だったよ。どちらにしても、彼の余命はいくばくも無かったからね。福山さんが亡くなってから、彼は一切の延命治療を拒否したんだ。自ら命を絶たなかったのは、自分が生き続けることが福山さんへの贖罪になると思っていたからなのかもしれないね」
「そうですか。緩慢な死・・・」
僕は、川口さんの心情に想いを馳せてみた。しかし、僕には想像はできても理解することまでは出来そうになかった。
「さて、私から話せることはもう無さそうだな。そろそろ行くよ。ありがとう、2人のことをずっと見守ってくれて」
「いえ、こちらこそ僕の我儘にお付き合いいただいて、お二人の話しを伺うことができて良かったです。2人が最後までお互いを大切に思っていたんだとわかって、それだけでも救われた気がします」
最後に、僕は秋山さんと握手を交わした。
きっと、この人はこれからもずっと、2人のことを大切に想いながら生きていくつもりなのだろう。
僕はカフェの前で秋山さんを見送って、駅の方へと向かって歩き出した。
秋山さんに話しを聞くことができて、本当に良かった。
話しを聞くまでは、2人の死が悲劇的な結末なのではないかと不安もあったが、そうではないと知ることで、不思議な安堵感と嬉しさを感じることができた。
人によっては、2人の物語が悲劇に聞こえるかもしれないが、少なくとも僕の中では2人の恋は本物だったのだと確信が持てる。
もっとずっと一緒にいられれば良かったのかもしれないけど、2人は懸命に生きて、想い合うことができたのだから、他人が勝手に2人のことを悲劇だとか不幸だとか決める権利など無いのだ。
街はすっかりクリスマスの喧騒に包まれている。
周りを見渡せば、そこかしこに幸せそうな恋人同士の姿が見える。
僕は、そんな恋人同士の姿を見ながら、全く関わりのない人たちの幸福を祈っていた。
僕がそんな恋人同士の姿を微笑ましく、ぼんやりと眺めながら歩いていると、すれ違いざまに他の人とぶつかってしまった。
「すいません」
ぼんやりしてちゃんと前を見ないで歩いていた僕が悪いのに、その人は一言謝って会釈して足早に去って行った。
いけない、ぼんやり歩いてちゃいけないな。ちゃんと前を見て歩こう。
僕は前を向き直って再び歩き始めた。
僕の横を、背の高い男の人が人混みを縫うように走り抜けて行った。
「福山さん!」
僕は驚いて振り返った。
するとそこに、人混みに紛れて、さっき僕にぶつかった男の人と、横を駆け抜けていった背の高い男の、2人の後ろ姿が見えた。
僕は、人混みの中に2人の姿を探してみたが、2人の後ろ姿はすぐに雑踏の中に消えてしまった。
あれは、福山さんと川口さんの2人だったのだろうか?
いや、そんなことあるはずがない。2人はすでに亡くなっているのだから。
そうすると、ただの幻?幻聴?見間違え?聞き違い?
それとも、実は2人はどこかで生きていたりして。
そうだといいな。
僕はしばらくの間、2人組の消えた方を見ていた。
どうか、あの2人にも幸せが多くありますように。
僕は秋山さんに尋ねた。
「福山さんが命を張って助けた赤ん坊は、幸いかすり傷程度で無事だった。福山さんの死は、新聞やテレビでも大きく取り上げられたよ。勇敢な男性の命を張った行為は、美談としてニュースに取り上げられたよ」
秋山さんは手元のコーヒーカップを取り上げて、冷めたコーヒーを一口すすった。
「そうですか・・・福山さんの死は、決して無駄では無かったんですね」
「そうだね、それが唯一の救いなのかもしれないね。さて、そろそろ話しも終わりだな。他に聞きたいことはあるかな?」
秋山さんが、コーヒーカップの底に残ったコーヒーを、最後の一口飲み込んだ。
「あの、川口さんはその後、どうなったんですか?彼も亡くなったのですよね?
」
「あぁ、彼は福山さんの死がよほどショックだったのか、その後すっかり塞ぎ込んでしまってね。福山さんが亡くなったのは自分のせいだと、自責の念に駆られていたよ。福山さんが亡くなってからは、私は川口君と一緒に暮らすようになったんだ。そうでないと、彼は何をしでかすかわからなかったからね」
「川口さんは、自ら命を・・・?」
そう聞いて僕は、そのことを口にしたことを後悔した。まるで、そんな結末を期待しているのではと秋山さんに思われたのではないかと、内心ドギマギした。
「いや、川口君が選んだのは緩慢な死だったよ。どちらにしても、彼の余命はいくばくも無かったからね。福山さんが亡くなってから、彼は一切の延命治療を拒否したんだ。自ら命を絶たなかったのは、自分が生き続けることが福山さんへの贖罪になると思っていたからなのかもしれないね」
「そうですか。緩慢な死・・・」
僕は、川口さんの心情に想いを馳せてみた。しかし、僕には想像はできても理解することまでは出来そうになかった。
「さて、私から話せることはもう無さそうだな。そろそろ行くよ。ありがとう、2人のことをずっと見守ってくれて」
「いえ、こちらこそ僕の我儘にお付き合いいただいて、お二人の話しを伺うことができて良かったです。2人が最後までお互いを大切に思っていたんだとわかって、それだけでも救われた気がします」
最後に、僕は秋山さんと握手を交わした。
きっと、この人はこれからもずっと、2人のことを大切に想いながら生きていくつもりなのだろう。
僕はカフェの前で秋山さんを見送って、駅の方へと向かって歩き出した。
秋山さんに話しを聞くことができて、本当に良かった。
話しを聞くまでは、2人の死が悲劇的な結末なのではないかと不安もあったが、そうではないと知ることで、不思議な安堵感と嬉しさを感じることができた。
人によっては、2人の物語が悲劇に聞こえるかもしれないが、少なくとも僕の中では2人の恋は本物だったのだと確信が持てる。
もっとずっと一緒にいられれば良かったのかもしれないけど、2人は懸命に生きて、想い合うことができたのだから、他人が勝手に2人のことを悲劇だとか不幸だとか決める権利など無いのだ。
街はすっかりクリスマスの喧騒に包まれている。
周りを見渡せば、そこかしこに幸せそうな恋人同士の姿が見える。
僕は、そんな恋人同士の姿を見ながら、全く関わりのない人たちの幸福を祈っていた。
僕がそんな恋人同士の姿を微笑ましく、ぼんやりと眺めながら歩いていると、すれ違いざまに他の人とぶつかってしまった。
「すいません」
ぼんやりしてちゃんと前を見ないで歩いていた僕が悪いのに、その人は一言謝って会釈して足早に去って行った。
いけない、ぼんやり歩いてちゃいけないな。ちゃんと前を見て歩こう。
僕は前を向き直って再び歩き始めた。
僕の横を、背の高い男の人が人混みを縫うように走り抜けて行った。
「福山さん!」
僕は驚いて振り返った。
するとそこに、人混みに紛れて、さっき僕にぶつかった男の人と、横を駆け抜けていった背の高い男の、2人の後ろ姿が見えた。
僕は、人混みの中に2人の姿を探してみたが、2人の後ろ姿はすぐに雑踏の中に消えてしまった。
あれは、福山さんと川口さんの2人だったのだろうか?
いや、そんなことあるはずがない。2人はすでに亡くなっているのだから。
そうすると、ただの幻?幻聴?見間違え?聞き違い?
それとも、実は2人はどこかで生きていたりして。
そうだといいな。
僕はしばらくの間、2人組の消えた方を見ていた。
どうか、あの2人にも幸せが多くありますように。
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