不忘探偵2 〜死神〜

あらんすみし

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浜村一について

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はじめまして。私は田中さんの後輩の並木保奈美といいます。よろしくお願いします。
私と田中さんのお付き合いは、まだ2年ほどなのでどの程度お役に立てるかわかりませんが、知っていることはできる限りお話しさせていただきます。
私は今年で入社3年目になるのですが、田中さんには入社以来、業務のことでとてもお世話になっています。
私が聞いたのは、田中さんは中途入社で私より1年早く入社したばかりなのに、すでに大きな案件を任されているほど仕事のできる人でした。
私の憧れる人です。あっ、憧れると言っても恋愛感情とかではなくて、あくまでもお仕事上のことですからね!
そして今年、私たちの部署に新入社員として浜村君が配属されてきました。
浜村君は、配属されて1ヵ月くらいこそ、リクルートスーツに黒縁メガネ、髪型も黒髪で清潔感のある感じでしたが、1ヵ月も過ぎると本来の姿を見せ始めました。
髪を染め、眼鏡も黒縁から赤や白といった個性的なフレームの眼鏡を好み、スーツも派手になっていきました。
でも、誰も、課長でさえそんな浜村君を注意することはありませんでした。
今のご時世、コンプライアンスには厳しいですからね。下手なこと言ってパワハラだと言われたら困りますから。
浜村君の変化は、見た目だけには留まりませんでした。
ろくに仕事もしないのに口だけは達者で、仕事中でも同期の子達と無駄口ばかり叩いたり、ちょくちょく離席していました。いったい何をしていたのやら。
正直、浜村君をはじめとして今年の新入社員は総じて評価が低く、部署の皆んなも諦めかけていたのですが、田中さんだけはそんな子たちを見捨てることなく指導していました。
だけど、こんな結果になってしまいとても残念です。
それは1ヵ月ほど前でした。
私たちの部署が担当しているイベントの会場に、大量の備品が届いたのです。
それは、本来の必要数量の100倍にも及ぶとんでもない量でした。
桁を一桁間違えてしまった、というのはたまに聞く話しですが、さすがに二桁間違えるのは前代未聞でした。
そんな発注ミス、誰が起こしたのか。
犯人は浜村君でした。
そんな重大なミスを犯したのに、浜村君はそんなことどこ吹く風といった感じで、飄々としていてたいして反省もしていませんでした。
たしかに、誤発注をしたのは浜村君ですけど、その後に田中さんのチェックをすり抜けて決裁が通ってしまったことは重大な責任問題です。
当然、田中さんの責任問題を問われることになりました。
でも、私、聞いてしまったんです。
浜村君が他の同期の子に話しているのを。
それは、浜村君が田中さんがいない時に、勝手に印鑑を拝借して書類に押印して決裁に回してしまったということでした。
しかもそれを、浜村君は同期の子に笑いながら話していたのです。
私は彼のあまりの無責任さと怒りで、その場に怒鳴り込んでいました。
私のような一つ上なだけの先輩に怒られて、浜村君もプライドを傷つけられたのか、逆ギレしてきました。
その騒ぎを聞きつけて周りの人が集まってきました。
その後、私と浜村君は呼び出されて事情を聞かれることとなるのですが、私はその場で見聞きしたことを全部ぶちまけてやりました。
それでも浜村君は何とかその場を誤魔化そうと悪足掻きしていましたが、次第に話しの矛盾が大きくなってきて説明がつかなくなり、さすがの彼も観念せざるを得なかったようです。
浜村君は課長に伴われて、直接田中さんに謝罪することになりました。
だけど、私はがっかりしました。
さすがの浜村君でも、自分の起こしたミスで田中さんを巻き込んで濡れ衣を着せたわけです。
真剣に謝罪することを期待していました。
だけど、彼の態度は信じられないものでした。
まるで悪びれることなく、不貞腐れた態度を隠そうともせず、自分のやったことがバレたのはただ運が悪かっただけ、としか思っていないようでした。
そんな謝罪をされた田中さんは、ただ唖然としていてその表情は、一言で言えば"無"といったところでしょうか。
おそらく、そんな告白をされたうえに全く反省の色を窺えないことで、どう反応したらいいのかわからない、といった感じに私は見えました。
どれくらい時間が空いたか、実際には数秒だったのだと思いますが、私には1分くらいの長い時間に感じました。
気がつくと、田中さんが浜村君に掴みかかっていました。
普段から温厚な田中さんが、あんな表情をして明確な怒りを見せるなんて初めてでした。
あまりの剣幕に周りも戸惑って、浜村君から田中さんを引き離すのが大変で、3、4人かかりでした。
とうの浜村君は、田中さんのあまりの剣幕に驚いたのか、すっかり腰を抜かしてしまってその場に座り込み、しばらく立てずに震えていました。
それから3日、浜村君は会社を休みました。
皆んな、あの浜村君もこれで心を入れ替えるだろうと期待していました。
ところがです。
浜村君が再び出勤した日のことでした、田中さんが呼び出されたのは。
浜村君が会社に、田中さんから暴力を振るわれ、皆んなの前で罵倒されたとパワハラで訴えたのです。
もちろん私たちは、田中さんがそんなことする人でないことを訴えました。
でも、浜村君は休んでいる間にあちこちに根回ししたらしく、田中さんや私達の訴えは通じませんでした。
あの時の田中さんの苦悩を考えると、私に何も出来ることが無いことに、無力さに苛まれます。
だけど、間もなく懲罰委員会が開かれる数日前です。浜村君が亡くなったのは。
正直、私は彼が亡くなって田中さんが助かったことに安堵しました。
でも、まさかあの浜村君が薬物常習者だったというのは驚きでした。
派手でチャラい浜村君でしたが、まさか薬物なんて・・・想像もできません。
いえ、それで彼が亡くなったことを惜しむことは無いんですけどね。
個人的に何かされたとか、恨みがあるわけではありませんけど、私としては若いのに可愛そう、というくらいしか思うことはありません。
冷たいとか思われそうですけど、口先だけお悔やみ申し上げても嘘っぽいじゃないですか?
たぶん、私以外の人に浜村君のことを聞いてもそれほど大差無いことしか聞けないと思います。
え?この8人の写真の人達が何か?さぁ、見覚えのある方はいらっしゃらないですけど、この人達が浜村君のことと何か関係でもあるんですか?
とりあえず、私からお話しできることはこの位でしょうか?
何かの参考になりましたら幸いです。

「彼女に話しを聞いてみたが、浜村は職場で相当に嫌われていたようだな。」
「だが、殺されるほど嫌われているほどでもないようには聞こえた。」
探偵はおもむろにタバコを取り出すと火をつけ、深く煙を吸った。
「叔父の俺でさえ、政臣が激昂したところなんて見たことない。よっぽどのことだったんだろうな。」
「人は誰だって全ての顔を周りに見せているわけではないからな。」
「さて、これからどうする?ひと通り話しは聞き終えたが?」
「次は、政臣君のことをもう少し聞きたい。政臣君の関係者から話しを聞けるように手配してもらえないか?」








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