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里中洋一の証言
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どうも・・・里中洋一です。
政臣とは、高校生の時からの腐れ縁というか、仲良くしてもらってます。
政臣ですか?一言で言えば、とってもいい奴ですね。いろいろと。
例えば?
そうですね。例えば、俺は高卒なんですよ。本当なら政臣と同じ大学に進学するはずだったんですけど、ちょっと家庭の事情で進学を諦めざるを得なくて、高校卒業と同時に働き始めました。
うちの高校は、ほぼ全員が進学・・・しかもAランクの大学に進学するのが当たり前なので、卒業して働くなんて俺は負け組ですよ。
当然、そんな負け組の俺を誰も相手になんかしてくれません。それまで仲良くしてくれていた連中も、潮が引くように1人、また1人と離れていきました。
でも、政臣だけは変わらず俺と付き合ってくれました。
卒業してからも変わらず遊んでくれたし、合コンにも誘ってくれたし、女の子を紹介してくれたり、政臣が社会人になってからは飯を奢ってくれたり、至れり尽せりでした。
だけど、それは同時に俺を惨めな気持ちにもさせてくれました。
遊んでくれることも、誘ってくれることも、女の子を紹介してくれるのも、奢ってくれるのも、何もかもが政臣からの施しみたいでした。
自分が卑屈になっているというのはよくわかります。
でも、道を外れた奴の気持ちが刑事さん達には分かりますか?
貧しさや、生活レベルによって、人は自分自身を蔑んで卑屈になっていくのは当然だと思うのですよ。
それが卑しいことだということは十分わかりますけど、それを受け入れられるほど俺は器がデカくないので。
だから、どこかで政臣を見返してやりたい。俺だってお前に負けてないところがあるんだって思い知らせてやりたい。
その結果、俺が何をしたと思います?
政臣の女を寝とったんですよ。
政臣の女が言ってました。
政臣のセックスは退屈だって。
だったら俺がその女を満足させてやろうって。
それで実際にどうだったと思いますか?
胸がスッとしましたよ。何かこう・・・俺だってやれば出来るんだって。こんな俺でも政臣により優れていることがあるんだって。
勿論、政臣にはこんなこと大っぴらには言えませんけどね。陰で政臣がこの事を知ったら、どんな顔をするのかを想像して愉しむことしかできませんけどね。たまに激しい自己嫌悪に見舞われもしますけど、今の自分にはこの程度のことしかできなくて、そういう時はさすがに良心の呵責に苛まれはします。しかし、それでもこの気持ち良さは何とも得難いものです。
ところで、なぜ今日は刑事さんたちが政臣の話しなんか聞きにいらしたのですか?
まさか、あの政臣に限って犯罪に手を染めたなんてことあるわけないですよね?
えっ?刑事さんが政臣の叔父?あっ・・・えっと、すいません、つい調子に乗って酷い事を口走ってしまって。
ただ、これだけは言わせてください。
政臣はとてもいい奴でお人好しだけど、間違えても犯罪なんて犯しません。こんな自分なんかが今更何を言ってもフォローにならないと思うけど、これだけは信じてください。
えっ?政臣を恨んでいるような人に心当たりが無いかって、ですか?
そうですね・・・あいつを恨む奴なんていないと思いますよ。
政臣は優しさで出来ているような奴ですから。
ただ、俺はたまにこうも考えるんですよ。
愛と憎しみはコインの裏表みたいに、対になっているんじゃないかって。
俺もそうかもしれないけど、政臣を好きだという気持ちも、ちょっとしたきっかけで憎しみに転換することってあるんじゃないでしょうか?俺が卑屈になって政臣の女を寝とったように、本当にそんな奴がいるなら政臣への想いが何かのきっかけで逆恨みするようになってしまうこともあるのではないでしょうか?
それだったら、全く心当たりが無いわけじゃないです。
俺と政臣の共通の友人で美樹って子がいます。
東海林美樹、政臣にぞっこんです。
でも、政臣は全くその気も無いし気付いてすらいません。
もし、美樹のそういう想いが鬱屈した感情が表面化したら、美樹がストーカーのようになって政臣に何かしでかすこともあるかもしれません。
探偵と小川は、里中洋一との面会を終えてカフェの外へ出た。
小川の表情には、今も抑えきれない怒りが沸々と湧き上がっているのがわかる。
「何なんだ、あの男は!店の中だから何とか耐えたが、そうでなかったら1発・・・いや、ボコボコにブン殴っているところだ!」
「よく耐えた。しかし、あんな男を殴ったとしても何も生み出さない」
「それにしても、政臣の周りには牧野ユミにしても里中にしても、ろくなのがいない!不審死してきた連中にしても、和田くらいしかまともな奴がいないじゃないか!」
小川の憤りは収まるところを知らないようだった。
「おそらく、牧野ユミの男がさっきの里中という男だろう」
「胸糞悪い。あの2人が次に死ねばいいんだ」
「滅多な事を言わない方がいい。ただ、政臣君が事実を知ることがないことを願おう」
「そうだな、あんなことを知って恋人と親友の裏切りを知ったら、それこそ立ち直れないだろうからな」
そうして探偵と小川は車に乗り込み、東海林美樹のもとへと車をすべらせた。
政臣とは、高校生の時からの腐れ縁というか、仲良くしてもらってます。
政臣ですか?一言で言えば、とってもいい奴ですね。いろいろと。
例えば?
そうですね。例えば、俺は高卒なんですよ。本当なら政臣と同じ大学に進学するはずだったんですけど、ちょっと家庭の事情で進学を諦めざるを得なくて、高校卒業と同時に働き始めました。
うちの高校は、ほぼ全員が進学・・・しかもAランクの大学に進学するのが当たり前なので、卒業して働くなんて俺は負け組ですよ。
当然、そんな負け組の俺を誰も相手になんかしてくれません。それまで仲良くしてくれていた連中も、潮が引くように1人、また1人と離れていきました。
でも、政臣だけは変わらず俺と付き合ってくれました。
卒業してからも変わらず遊んでくれたし、合コンにも誘ってくれたし、女の子を紹介してくれたり、政臣が社会人になってからは飯を奢ってくれたり、至れり尽せりでした。
だけど、それは同時に俺を惨めな気持ちにもさせてくれました。
遊んでくれることも、誘ってくれることも、女の子を紹介してくれるのも、奢ってくれるのも、何もかもが政臣からの施しみたいでした。
自分が卑屈になっているというのはよくわかります。
でも、道を外れた奴の気持ちが刑事さん達には分かりますか?
貧しさや、生活レベルによって、人は自分自身を蔑んで卑屈になっていくのは当然だと思うのですよ。
それが卑しいことだということは十分わかりますけど、それを受け入れられるほど俺は器がデカくないので。
だから、どこかで政臣を見返してやりたい。俺だってお前に負けてないところがあるんだって思い知らせてやりたい。
その結果、俺が何をしたと思います?
政臣の女を寝とったんですよ。
政臣の女が言ってました。
政臣のセックスは退屈だって。
だったら俺がその女を満足させてやろうって。
それで実際にどうだったと思いますか?
胸がスッとしましたよ。何かこう・・・俺だってやれば出来るんだって。こんな俺でも政臣により優れていることがあるんだって。
勿論、政臣にはこんなこと大っぴらには言えませんけどね。陰で政臣がこの事を知ったら、どんな顔をするのかを想像して愉しむことしかできませんけどね。たまに激しい自己嫌悪に見舞われもしますけど、今の自分にはこの程度のことしかできなくて、そういう時はさすがに良心の呵責に苛まれはします。しかし、それでもこの気持ち良さは何とも得難いものです。
ところで、なぜ今日は刑事さんたちが政臣の話しなんか聞きにいらしたのですか?
まさか、あの政臣に限って犯罪に手を染めたなんてことあるわけないですよね?
えっ?刑事さんが政臣の叔父?あっ・・・えっと、すいません、つい調子に乗って酷い事を口走ってしまって。
ただ、これだけは言わせてください。
政臣はとてもいい奴でお人好しだけど、間違えても犯罪なんて犯しません。こんな自分なんかが今更何を言ってもフォローにならないと思うけど、これだけは信じてください。
えっ?政臣を恨んでいるような人に心当たりが無いかって、ですか?
そうですね・・・あいつを恨む奴なんていないと思いますよ。
政臣は優しさで出来ているような奴ですから。
ただ、俺はたまにこうも考えるんですよ。
愛と憎しみはコインの裏表みたいに、対になっているんじゃないかって。
俺もそうかもしれないけど、政臣を好きだという気持ちも、ちょっとしたきっかけで憎しみに転換することってあるんじゃないでしょうか?俺が卑屈になって政臣の女を寝とったように、本当にそんな奴がいるなら政臣への想いが何かのきっかけで逆恨みするようになってしまうこともあるのではないでしょうか?
それだったら、全く心当たりが無いわけじゃないです。
俺と政臣の共通の友人で美樹って子がいます。
東海林美樹、政臣にぞっこんです。
でも、政臣は全くその気も無いし気付いてすらいません。
もし、美樹のそういう想いが鬱屈した感情が表面化したら、美樹がストーカーのようになって政臣に何かしでかすこともあるかもしれません。
探偵と小川は、里中洋一との面会を終えてカフェの外へ出た。
小川の表情には、今も抑えきれない怒りが沸々と湧き上がっているのがわかる。
「何なんだ、あの男は!店の中だから何とか耐えたが、そうでなかったら1発・・・いや、ボコボコにブン殴っているところだ!」
「よく耐えた。しかし、あんな男を殴ったとしても何も生み出さない」
「それにしても、政臣の周りには牧野ユミにしても里中にしても、ろくなのがいない!不審死してきた連中にしても、和田くらいしかまともな奴がいないじゃないか!」
小川の憤りは収まるところを知らないようだった。
「おそらく、牧野ユミの男がさっきの里中という男だろう」
「胸糞悪い。あの2人が次に死ねばいいんだ」
「滅多な事を言わない方がいい。ただ、政臣君が事実を知ることがないことを願おう」
「そうだな、あんなことを知って恋人と親友の裏切りを知ったら、それこそ立ち直れないだろうからな」
そうして探偵と小川は車に乗り込み、東海林美樹のもとへと車をすべらせた。
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