春とともに君は去りゆく

あらんすみし

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まちがえさがし

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翌朝、目を覚ますと、隣に彼はいなかった。
彼は朝ごはんを作り、自分のワイシャツにアイロンをかけてくれていた。
「俺、アイロンがけが得意なんだよ」
そう言って、彼は手際よくアイロンをかけてくれた。
彼が朝食に何を作ってくれたのか、それは残念ながら覚えていない。トーストに目玉焼きだったのか、和食だったか、彼との思い出は何一つ忘れたくなかったのに、長い年月を経るとどうしても忘れてしまうものだな。残念。
彼の職場が遠い都合で、自分達は早めに部屋を出ることになった。
彼がアイロンをかけてくれたワイシャツに袖を通して、いざ出かけるというとき、彼は玄関でキスをしてくれた。
朝日に照らされた街並みは、いつもの通勤風景と何ら変わらない風景なのだろうけど、自分には特別に輝いて見えた。
途中駅で自分達は別れて、お互いの勤務先へと向かった。
M駅で電車を待っている時、彼からメールが届いた。
『俺のこと好き?』
自分は、ただストレートに好きだと返事するのはつまらないと思って、ちょっと捻って返事をすることにした。
『ミスチルの新曲のタイトルと同じ』
と返信した。
「君が好き」ってメッセージ、伝わってくれたかな?伝わってくれていたら嬉しいな。少し…ほんのちょっとでもいいから、笑ってもらえたらよかったんだけどな。
それとも、ちゃんと素直に好きだと返事しておけば良かったのかなぁ。今になっては、もっと好きだと言っておけば良かったと、少し後悔している。
いつもの出勤時間より、1時間以上も早く着いてしまった自分は、駅前のマックでポテトをつまみながらコーヒーを飲んで時間を潰した。
その間も、彼からはいくつもメールが届いた。
自分も、ただただ嬉しくて、ポテトを摘みながら顔がにやけていたと思う。幸せが溢れているように感じられた。
仕事も順調だった。
自分は経理の仕事をしていた。
正直、仕事について、やる気は全く無い。なにしろ高校生の時に、数学の成績が10段階で1だったのだから、経理の仕事が苦痛で仕方なかった。
でも、彼と付き合ってから、経理の仕事も、うざかった電話対応も、煩わしい人間関係も、全てが前向きに取り組めるようになった。
我ながら単純だなぁ、と笑ってしまう。
その日は、とにかく頻繁にメールのやり取りをした。もう、何通やりとりしたかわからないほど。内容も、今にしてみれば他愛もないことで、でも、どんな些細なやりとりも嬉しくて楽しかった。
気がつけば、メールの履歴は彼からのメールで、瞬く間に埋まっていった。
それまで自分は、自分のことが大嫌いだった。
今まで、自分は間違えて生まれてきたのだと、人生を呪っていた。
だけど、これで良かったんだ。
現在は、過去の積み重ねだから。
もし、どこかでちょっとでも何か違っていたら、自分は彼に出逢えなかったのだから。
間違えて生まれてきたと思ってきたけど、間違えて生まれてきて良かったんだ。
彼に出逢えたのだから。
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