春とともに君は去りゆく

あらんすみし

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SPY

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彼の仕事が忙しいこともあって、自分達が会うのは、金曜日の夜に自分が彼の部屋に行ってお泊まりし、翌朝、彼の休日出勤に同伴して、彼の職場の近くで降ろしてもらう、というパターンだった。
しかし、一回だけ、彼の仕事終わりに待ち合わせて一緒に帰ることになった。
その日、彼からメールで、仕事が終わったら一緒に帰ろうと連絡があった。
自分は嬉しくて、職場の近くの三越でキャビアと、ちょっとお高いワインを買って、喜んで出かけた。
そして、彼の職場の最寄駅で彼が来るのを待っていると。
彼が来た。自分が彼に駆け寄ると、彼は少し周囲を窺いながら「少し離れて」と、小声で言った。
どうやら職場の人に見られたくないようだ、と悟った自分は、彼と一定の距離を保ちながら、彼の姿を見失わないようにあとを尾けた。
電車を乗り換えたあとも、自分は彼と一定の距離を保ちながら、少し離れた席に座った。
車内はガラガラだったが、どこで彼の同僚が見ているかわからない。
何しろ、彼が帰る先は社宅なのだから、同じ社宅に帰る人がいてもおかしくはない。
だけど、自分はその雰囲気がスパイになったようで、けっこう楽しんでいた。
自分達の関係は、絶対に他人には知られてはいけない関係。
もし、周りに知られるようなことがあれば、身の破滅になりかねない。
そんなことを考えながら、自分は楽しく彼のあとをついていった。
無事、誰にも見られず帰り着いた彼。
自分は、少し間を置いてから彼の部屋の番号を押して入れてもらう。
これは、一緒に帰ったと言えるのだろうか?と疑問に思いつつも、楽しかったし、これがゲイの事情というものか、と自分を納得させることにした。
そして、自分は買ってきたキャビアとワインを取り出した。
奮発したから、彼が喜んでくれるかなぁ、とにかく彼の笑顔が見たかった。
でも彼は「キャビアなら前にパーティで食べたことある」と言った。
まぁ、そりゃそうだろうね。キャビアくらい、何処かで食べていたとしても不思議はないよな。
逆に自分みたいにキャビアを一回も食べたことが無い方が、マイノリティなのかもしれない。
彼の反応はちょっとだけ残念なものだったけど、それでも自分は彼と一緒にいられるだけで幸せだった。


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