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疑惑の番人
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昇仁と麻谷麗が部屋を出て行った後、俺たちと加藤、小田切、は永瀬医師を交えて今後の捜査について話し合った。その結果、検死の結果からも見て、最後に龍昇に会いに来た愛梨と海人夫妻が部屋を出た後の午後21時50分頃から、昇仁と麻谷麗が部屋を訪れて異変に気づいた、午後22時20分の間の約30分の間の全員のアリバイを確認することにした。
アリバイの確認は小田切に任せることとして、俺たちは再度、藤波綾香に事情聴取をすることにした。
時間もかなり遅くなっていたこともあり、また、龍昇の世話で普段から疲れていたのであるのか、藤波綾香の顔には疲労の色が濃く滲み出ているようだった。
「藤波さん、再度の事情聴取に応じていただき、大変ありがとうごさいます。出来るだけ手短に済ませますので、何卒ご協力をお願いします」
「はい、私にできることなら。でも、先程の事情聴取で話したことが全てだと思うのですが」
藤波綾香の感情を失ったかのような顔からは、彼女の今の心境を読み解くのは難しいようだ。
「実はですね、愛梨夫妻が部屋を出た時に、誰かの足音を聞いたと証言を得ましてね、再度確認のためにお話を伺うことになったのですよ。藤波さんは、特に愛梨海夫妻が帰った後に、何か気づいたことなどないでしょうか?」
「私、お二人がお帰りになった時にも廊下におりましたけど、特に何も気づきませんでした」
藤波綾香の表情には、何の動きも見られなかった。俺は、彼女の表情にどんな微かな揺らぎでもいいから見出そうとしたが、彼女の表情には一点の揺らぎも感じられなかった。もう少し揺さぶってみる必要があるのかもしれない。
「愛梨夫妻が帰った後、本当に他に誰も訪ねてきたりしませんでしたか?もしくは部屋の外を歩く音とか、人の気配とかを感じたりすることもありませんでしたか?」
「ありません。断言してもけっこうです」
先程の事情聴取では少し怯えていた印象もあったのに、今回は堂々としている。
「そうなるとおかしいですね。愛梨夫妻が帰ってから、昇仁さん達が来るまでの約30分、あなたはずっと龍昇ちゃんと部屋に2人きりだということになる。すると、龍昇ちゃんを殺害できるのは、あなただけということになる」
「な!なんてことを言うのですか!?龍昇様が殺されたなんて!しかも私が殺したなんて!何の根拠があってそんなこと言うんですか!?」
それまで冷静そのものだった藤波綾香が、俺からの指摘を受けていきなり取り乱した。
「龍昇ちゃんは、明らかに殺害されたのです。永瀬先生がそれを証明してくれています」
俺の言葉に藤波綾香は救いを求めるように永瀬医師の方を見た。しかし、無常にも永瀬医師は目を伏せ、俺の言葉を肯定するように小さく頷いた。
「そんな・・・私じゃない・・・私じゃありません」
「それでは誰がやったのだと?」
「それは、言えません・・・」
「『それは言えません』。まるで誰がやったのか知っているかのような口振りですね。正直に答えて下さい、いったい誰の仕業なのですか?」
「答えた方がいいですよ。そうでないと、あなたが殺害したことになってしまいかねませんよ」
小川が藤波綾香を優しく諭す。
「弁護士を。弁護士が呼んで下さい。それまで私、何も喋りません!」
藤波綾香はそう言ったきり、俺たちの聴取について貝のように口を閉ざしてしまった。
押し黙ってしまった藤波綾香を帰し、俺達は彼女への事情聴取について振り返ってみることにした。
「彼女が何かを知っているのは間違い無いだろう」
「だが、何を知っているというのだ?犯人を7日?それとも他のことの可能性もあるんじゃないか?」
小川が異論を挟む。
「勿論、その可能性もある。どちらにしても、今日のところは彼女から新しい証言を引き出すのは難しいな」
「彼女が実行犯なのでは?」
加藤が結論を急ぐように聞く。
「いえ、その可能性は低いのではないかと思います。たしかに殺害の可能性は最も高く、チャンスもいくらでもあるでしょうが、あまりにもリスクが高すぎます。衝動的な犯行ならともかく、彼女のような冷静な人物がそのような犯行を犯すとは考えずらいですね」
「とにかく、明日には烏丸家の顧問弁護士も来るそうだし、ご家族の方にはとりあえず休んでもらおうじゃないか。俺も疲れたし」
小川は大きく伸びをして提案した。
「そうですね。執事の方に伝えておきましょう」
加藤も小川の意見に同意した。
その時、部屋に家族達からアリバイを聞いてきた小田切が入ってきた。
小田切がスマホを使って集めてきたアリバイを共有した。
「とりあえず、これで全員のアリバイを聞き取りしたわけですが、けっこうな人数ですね。さて、どうやって絞り込むか?」
小川が共有データを眺めながら呟いた。
「まず、この中から除外できそうな人物はいないだろうか。まず、修二君は除外だろう」
「そうだな、彼は依頼主でもあるし、問題の時間はずっと俺たちと一緒にいたからな」
「龍昇の部屋を訪ねた三組はどうだ?」
「犯行の可能性は低いかもしれないが、部屋に戻るフリをして戻ってきたという可能性は排除できないな」
俺は加藤の意見に答える。
「動機で絞るなら、家族以外の関係者は除くことができるかもしれないな。執事とか使用人達とか、殺害してもメリットの無い人物は除いていいんじゃないか?」
「烏丸修二と家族以外の関係者を除いたとして、それでも14人もいる。艶子、陽美、月代、敏樹、星子、礼司、愛梨、海人、静香、暁、茜、環、松崎加奈、美智。家族だからな、互いにアリバイを証言したとしても、肉親の証言は当てにならないしな」
小川の意見に、加藤もウンザリした様子で答える。
証言によると、時間も時間だったので、ほとんどの人物は自らの部屋にいたようだ。
自室にいなかったのは、艶子の部屋で一緒にお喋りしていた陽美。
問題の時間に1人でいたのは、松崎加奈、美智、環、静香の4人だけ。
しかし、アリバイの有無に限らず、いずれにしても藤波綾香がいる限り、部屋の中には一歩も入ることはできないだろう。
「藤波綾香が共犯で、誰かを招き入れたとかは?」
小川が自らの閃きに顔を輝かせてみせた。
「なるほど!それなら可能性はあるな!」
加藤も小川の推察に同意した。それは俺も考えた。だが・・・。
「しかし、そうなるとなぜ藤波綾香は犯人に協力したのだろうか?彼女が加担する動機は何なのだろうか?」
「それは・・・明日になればわかるさ」
「まぁ・・・十中八九、金目当てだろう」
果たしてそんな単純なことなのだろうか?俺にはまだ何か、見落としているようなことがある気がして仕方なかった。
だが、それが何なのか、この時はまだ気付けずにいた。
アリバイの確認は小田切に任せることとして、俺たちは再度、藤波綾香に事情聴取をすることにした。
時間もかなり遅くなっていたこともあり、また、龍昇の世話で普段から疲れていたのであるのか、藤波綾香の顔には疲労の色が濃く滲み出ているようだった。
「藤波さん、再度の事情聴取に応じていただき、大変ありがとうごさいます。出来るだけ手短に済ませますので、何卒ご協力をお願いします」
「はい、私にできることなら。でも、先程の事情聴取で話したことが全てだと思うのですが」
藤波綾香の感情を失ったかのような顔からは、彼女の今の心境を読み解くのは難しいようだ。
「実はですね、愛梨夫妻が部屋を出た時に、誰かの足音を聞いたと証言を得ましてね、再度確認のためにお話を伺うことになったのですよ。藤波さんは、特に愛梨海夫妻が帰った後に、何か気づいたことなどないでしょうか?」
「私、お二人がお帰りになった時にも廊下におりましたけど、特に何も気づきませんでした」
藤波綾香の表情には、何の動きも見られなかった。俺は、彼女の表情にどんな微かな揺らぎでもいいから見出そうとしたが、彼女の表情には一点の揺らぎも感じられなかった。もう少し揺さぶってみる必要があるのかもしれない。
「愛梨夫妻が帰った後、本当に他に誰も訪ねてきたりしませんでしたか?もしくは部屋の外を歩く音とか、人の気配とかを感じたりすることもありませんでしたか?」
「ありません。断言してもけっこうです」
先程の事情聴取では少し怯えていた印象もあったのに、今回は堂々としている。
「そうなるとおかしいですね。愛梨夫妻が帰ってから、昇仁さん達が来るまでの約30分、あなたはずっと龍昇ちゃんと部屋に2人きりだということになる。すると、龍昇ちゃんを殺害できるのは、あなただけということになる」
「な!なんてことを言うのですか!?龍昇様が殺されたなんて!しかも私が殺したなんて!何の根拠があってそんなこと言うんですか!?」
それまで冷静そのものだった藤波綾香が、俺からの指摘を受けていきなり取り乱した。
「龍昇ちゃんは、明らかに殺害されたのです。永瀬先生がそれを証明してくれています」
俺の言葉に藤波綾香は救いを求めるように永瀬医師の方を見た。しかし、無常にも永瀬医師は目を伏せ、俺の言葉を肯定するように小さく頷いた。
「そんな・・・私じゃない・・・私じゃありません」
「それでは誰がやったのだと?」
「それは、言えません・・・」
「『それは言えません』。まるで誰がやったのか知っているかのような口振りですね。正直に答えて下さい、いったい誰の仕業なのですか?」
「答えた方がいいですよ。そうでないと、あなたが殺害したことになってしまいかねませんよ」
小川が藤波綾香を優しく諭す。
「弁護士を。弁護士が呼んで下さい。それまで私、何も喋りません!」
藤波綾香はそう言ったきり、俺たちの聴取について貝のように口を閉ざしてしまった。
押し黙ってしまった藤波綾香を帰し、俺達は彼女への事情聴取について振り返ってみることにした。
「彼女が何かを知っているのは間違い無いだろう」
「だが、何を知っているというのだ?犯人を7日?それとも他のことの可能性もあるんじゃないか?」
小川が異論を挟む。
「勿論、その可能性もある。どちらにしても、今日のところは彼女から新しい証言を引き出すのは難しいな」
「彼女が実行犯なのでは?」
加藤が結論を急ぐように聞く。
「いえ、その可能性は低いのではないかと思います。たしかに殺害の可能性は最も高く、チャンスもいくらでもあるでしょうが、あまりにもリスクが高すぎます。衝動的な犯行ならともかく、彼女のような冷静な人物がそのような犯行を犯すとは考えずらいですね」
「とにかく、明日には烏丸家の顧問弁護士も来るそうだし、ご家族の方にはとりあえず休んでもらおうじゃないか。俺も疲れたし」
小川は大きく伸びをして提案した。
「そうですね。執事の方に伝えておきましょう」
加藤も小川の意見に同意した。
その時、部屋に家族達からアリバイを聞いてきた小田切が入ってきた。
小田切がスマホを使って集めてきたアリバイを共有した。
「とりあえず、これで全員のアリバイを聞き取りしたわけですが、けっこうな人数ですね。さて、どうやって絞り込むか?」
小川が共有データを眺めながら呟いた。
「まず、この中から除外できそうな人物はいないだろうか。まず、修二君は除外だろう」
「そうだな、彼は依頼主でもあるし、問題の時間はずっと俺たちと一緒にいたからな」
「龍昇の部屋を訪ねた三組はどうだ?」
「犯行の可能性は低いかもしれないが、部屋に戻るフリをして戻ってきたという可能性は排除できないな」
俺は加藤の意見に答える。
「動機で絞るなら、家族以外の関係者は除くことができるかもしれないな。執事とか使用人達とか、殺害してもメリットの無い人物は除いていいんじゃないか?」
「烏丸修二と家族以外の関係者を除いたとして、それでも14人もいる。艶子、陽美、月代、敏樹、星子、礼司、愛梨、海人、静香、暁、茜、環、松崎加奈、美智。家族だからな、互いにアリバイを証言したとしても、肉親の証言は当てにならないしな」
小川の意見に、加藤もウンザリした様子で答える。
証言によると、時間も時間だったので、ほとんどの人物は自らの部屋にいたようだ。
自室にいなかったのは、艶子の部屋で一緒にお喋りしていた陽美。
問題の時間に1人でいたのは、松崎加奈、美智、環、静香の4人だけ。
しかし、アリバイの有無に限らず、いずれにしても藤波綾香がいる限り、部屋の中には一歩も入ることはできないだろう。
「藤波綾香が共犯で、誰かを招き入れたとかは?」
小川が自らの閃きに顔を輝かせてみせた。
「なるほど!それなら可能性はあるな!」
加藤も小川の推察に同意した。それは俺も考えた。だが・・・。
「しかし、そうなるとなぜ藤波綾香は犯人に協力したのだろうか?彼女が加担する動機は何なのだろうか?」
「それは・・・明日になればわかるさ」
「まぁ・・・十中八九、金目当てだろう」
果たしてそんな単純なことなのだろうか?俺にはまだ何か、見落としているようなことがある気がして仕方なかった。
だが、それが何なのか、この時はまだ気付けずにいた。
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