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01話 奇妙な婚約破棄
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――古き魔法の国、アルカナ王国。
「モンストル公爵令嬢マリス・ミシェール・モンストル! 君との婚約を破棄する!」
王宮の祝賀会で、黒の学士服をまとった白髪紅目の美貌の王太子リオネル・ゼフィール・アルカナは言い放った。
和やかな歓談のざわめきに満ちていた会場はしんと静まり返った。
「……おたわむれを……」
婚約破棄を告げられた公爵令嬢マリスは、平然としてそう返した。
リオネル王子は白皙の美貌に険しい表情を浮かべた。
「君は王太子妃にふさわしくない!」
この国の始祖と同じ白髪紅目の神々しい美貌のリオネル王子に、黒髪青目にきつい顔立ちの公爵令嬢マリスが糾弾されている様子は、さながら天使が悪魔を糾弾している絵画のようにも見えた。
「卑怯で冷酷な人間に王太子妃は務まらぬ。よってマリス、君との婚約を破棄する!」
リオネル王子は高らかに宣言した。
そして愛しい人を見やるように、熱のある眼差しを傍らに向けた。
「そして私は、ここにいるメルル男爵令嬢アンジェリク・メルルを妃とする!」
「……」
マリスは笑顔を顔に張り付けたまま、リオネル王子の後ろに控えている側近の二人に目をやった。
「……」
リオネル王子の学友であり側近である二人、宰相の息子イシドールも将軍の息子フロランも、何故か得意気にしていた。
(二人とも、このような状況でも、その態度なのね……)
マリスは終わりを悟った。
(これ以上はもう無理……)
「婚約破棄、了承いたします」
マリスは毅然として言った。
「ですが、最後に一つだけ、殿下に伝えたいことがございます」
マリスはリオネル王子を見据えて言った。
リオネル王子は険しい表情でマリスの真っ直ぐな視線を受け、頷いた。
「許す。言ってみるが良い」
「寛大なご配慮に感謝いたします」
リオネル王子の許可を得ると、マリスは静かな面持ちで語った。
「殿下はそこにいるメルル男爵令嬢アンジェリク・メルルを妃になさるとおっしゃいましたが……」
マリスはにっこりと微笑んで真実を口にした。
「殿下の隣には、誰もおりません」
「……?」
マリスの言葉に、リオネル王子は訳が解らないとでも言うように呆けた顔をした。
マリスは更に続けた。
「アンジェリク・メルルという少女は存在いたしません。ずっと、アンジェリクという少女はいませんでした。今も、殿下の隣には誰もおりません」
「馬鹿なことを申すな」
リオネル王子はようやくマリスの言葉を理解したのか反論をした。
「アンジェリクはここにいる。君はまたアンジェリクを無視するのか?!」
傍らに誰かがいるかのように、リオネル王子は空気を抱き寄せた。
「マリス、そういうところだ。そういう陰湿な苛めをするところが妃にはふさわしくないのだ」
「いいえ、これは真実にございます」
マリスは毅然として、リオネル王子に真実を突き付けた。
「そこには誰もおりません」
「モンストル公爵令嬢マリス・ミシェール・モンストル! 君との婚約を破棄する!」
王宮の祝賀会で、黒の学士服をまとった白髪紅目の美貌の王太子リオネル・ゼフィール・アルカナは言い放った。
和やかな歓談のざわめきに満ちていた会場はしんと静まり返った。
「……おたわむれを……」
婚約破棄を告げられた公爵令嬢マリスは、平然としてそう返した。
リオネル王子は白皙の美貌に険しい表情を浮かべた。
「君は王太子妃にふさわしくない!」
この国の始祖と同じ白髪紅目の神々しい美貌のリオネル王子に、黒髪青目にきつい顔立ちの公爵令嬢マリスが糾弾されている様子は、さながら天使が悪魔を糾弾している絵画のようにも見えた。
「卑怯で冷酷な人間に王太子妃は務まらぬ。よってマリス、君との婚約を破棄する!」
リオネル王子は高らかに宣言した。
そして愛しい人を見やるように、熱のある眼差しを傍らに向けた。
「そして私は、ここにいるメルル男爵令嬢アンジェリク・メルルを妃とする!」
「……」
マリスは笑顔を顔に張り付けたまま、リオネル王子の後ろに控えている側近の二人に目をやった。
「……」
リオネル王子の学友であり側近である二人、宰相の息子イシドールも将軍の息子フロランも、何故か得意気にしていた。
(二人とも、このような状況でも、その態度なのね……)
マリスは終わりを悟った。
(これ以上はもう無理……)
「婚約破棄、了承いたします」
マリスは毅然として言った。
「ですが、最後に一つだけ、殿下に伝えたいことがございます」
マリスはリオネル王子を見据えて言った。
リオネル王子は険しい表情でマリスの真っ直ぐな視線を受け、頷いた。
「許す。言ってみるが良い」
「寛大なご配慮に感謝いたします」
リオネル王子の許可を得ると、マリスは静かな面持ちで語った。
「殿下はそこにいるメルル男爵令嬢アンジェリク・メルルを妃になさるとおっしゃいましたが……」
マリスはにっこりと微笑んで真実を口にした。
「殿下の隣には、誰もおりません」
「……?」
マリスの言葉に、リオネル王子は訳が解らないとでも言うように呆けた顔をした。
マリスは更に続けた。
「アンジェリク・メルルという少女は存在いたしません。ずっと、アンジェリクという少女はいませんでした。今も、殿下の隣には誰もおりません」
「馬鹿なことを申すな」
リオネル王子はようやくマリスの言葉を理解したのか反論をした。
「アンジェリクはここにいる。君はまたアンジェリクを無視するのか?!」
傍らに誰かがいるかのように、リオネル王子は空気を抱き寄せた。
「マリス、そういうところだ。そういう陰湿な苛めをするところが妃にはふさわしくないのだ」
「いいえ、これは真実にございます」
マリスは毅然として、リオネル王子に真実を突き付けた。
「そこには誰もおりません」
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