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21話 宗教会議
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「兄上は聖女アンジェリクと結婚する気だ……」
教皇リオネル一世は、聖職者の結婚を禁じる教会法の撤廃を宣言した。
その宣言は全ニール教徒を震撼させた。
「結婚を禁止する法を撤廃して、結婚する気だ。絶対そうだ」
げっそりとした顔でそう言ったエルネストに、マリスは同意して頷いた。
「私もそう思います。でもまさか、こういう方向から攻めて来るとは予想外でした」
「兄上なら短絡的に『結婚する』って騒いで、速攻で断罪されそうだものね。まず聖職者の結婚を禁止する法を撤廃して障害を取り除こうなんて、兄上らしくない。知恵者が兄上に知恵を吹き込んでいるんだろうな」
「知恵者が……教皇を結婚させるために尽力するでしょうか?」
「そうなんだよね。教会法の撤廃なんていう反抗的なことをしたら、それを教皇にふさわしくない根拠にされてしまって、反対者たちを勢いづかせてしまうのに……」
「そうですね。反乱分子を炙り出すにしても、教皇自身は戦力を持っていませんから、炙り出したところでどうにもできませんものね」
「聖職者の結婚解禁か。さすがリオネル聖下」
「素晴らしい改革だ」
枢機卿を始めとする聖都テネブラエの聖職者たちは、教皇リオネル一世が宣言した『聖職者の結婚を禁止する教会法の撤廃』を支持した。
特に若い聖職者たちはリオネルの宣言を熱烈に支持した。
しかし諸国の聖職者たちからは異論が噴出した。
「教会法に逆らうリオネル一世は、教皇にふさわしくない」
アルカナ王国出身の教皇リオネル一世をあまり歓迎していない国々は、リオネル一世を退位させる好機とばかりに、国内の大司教や司教たちに次々と反論を提出させた。
そのため宗教会議が開催されることとなった。
――フラウデム宗教会議。
「そもそも神は、聖職者に結婚を禁じていない」
その宗教会議はセニティス王国の都市フラウデムにて行われた。
各国の聖職者たちがフラウデムに集まり、聖職者の結婚を禁止する教会法の撤廃について議論した。
この宗教会議に参加した教皇庁の聖職者たちは、反論者たちを相手に弁舌をふるった。
「聖職者の結婚を禁止したのは後の世の教会の人間たちだ。それは神の教えではないのだ」
「聖職者は神への奉仕に専念すべきであり、結婚は神への奉仕の障害となります。結婚すれば、神より家族を優先するようになる。神への奉仕を第一とするために、聖職者は結婚すべきではないのです」
「だが其方には内縁の妻がいるであろう」
「……っ!」
「すでに調査済みだ」
各国が手駒として教皇庁に送り込んでいる枢機卿たちが、祖国の個人的な伝手を使い、祖国の主だった聖職者たちの素行を調べ上げていた。
教皇庁の聖職者たちは、反論者たちの素行を指摘して揚げ足をとった。
愛人を持つ聖職者は、とくに高位の者ほど多かった。
中には二人、三人、あるいはそれ以上の愛人を持つ者もいる。
愛人を持つことは大っぴらにしない限りは黙認されていたが、厳密には不埒な行いであった。
「愛人を持つ者は神の教えに逆う不埒者だ。神の教えではない教会法を優先させ、神の教えに逆らうのは本末転倒というもの」
宗教会議は、聖職者の結婚禁止の教会法を撤廃するという意見が優勢で終了した。
「私たち、これで結婚できるわね!」
宗教会議でほぼ勝利をおさめると、アンジェリクははしゃいだ。
「そうだね……」
リオネルは虚無の顔で答えた。
「リオネル、嬉しくないの?」
「嬉しいよ。ただ、少し、驚いただけだ。聖職者の結婚禁止は当たり前のことだと思っていたから。こんなふうにひっくり返るなんて思わなかった」
リオネル自身は、反論者たちに少しだけ期待していた。
アンジェリクの指示で行ったリオネルの宣言を、反論者たちは覆してくれるかもしれないと。
反論者たちが勝利すれば、リオネルはアンジェリクとの結婚を回避できる可能性があるかもしれないと思った。
だが反論者たちは、自国出身の枢機卿の裏切りにより足元をすくわれ、一網打尽にされた。
枢機卿たちが各々の伝手を使い反論者たちの素行を調べあげたのは、もちろんアンジェリクの指示によるものだ。
愛人関係を暴露されて敗北した反論者たちに、霊魂に浮気して廃太子となった過去を持つリオネルは、ほんの少しだけ親近感を持ち、同類として哀れんだ。
(フェザント鳥も鳴かずば撃たれまいに)
教皇リオネル一世は、聖職者の結婚を禁じる教会法の撤廃を宣言した。
その宣言は全ニール教徒を震撼させた。
「結婚を禁止する法を撤廃して、結婚する気だ。絶対そうだ」
げっそりとした顔でそう言ったエルネストに、マリスは同意して頷いた。
「私もそう思います。でもまさか、こういう方向から攻めて来るとは予想外でした」
「兄上なら短絡的に『結婚する』って騒いで、速攻で断罪されそうだものね。まず聖職者の結婚を禁止する法を撤廃して障害を取り除こうなんて、兄上らしくない。知恵者が兄上に知恵を吹き込んでいるんだろうな」
「知恵者が……教皇を結婚させるために尽力するでしょうか?」
「そうなんだよね。教会法の撤廃なんていう反抗的なことをしたら、それを教皇にふさわしくない根拠にされてしまって、反対者たちを勢いづかせてしまうのに……」
「そうですね。反乱分子を炙り出すにしても、教皇自身は戦力を持っていませんから、炙り出したところでどうにもできませんものね」
「聖職者の結婚解禁か。さすがリオネル聖下」
「素晴らしい改革だ」
枢機卿を始めとする聖都テネブラエの聖職者たちは、教皇リオネル一世が宣言した『聖職者の結婚を禁止する教会法の撤廃』を支持した。
特に若い聖職者たちはリオネルの宣言を熱烈に支持した。
しかし諸国の聖職者たちからは異論が噴出した。
「教会法に逆らうリオネル一世は、教皇にふさわしくない」
アルカナ王国出身の教皇リオネル一世をあまり歓迎していない国々は、リオネル一世を退位させる好機とばかりに、国内の大司教や司教たちに次々と反論を提出させた。
そのため宗教会議が開催されることとなった。
――フラウデム宗教会議。
「そもそも神は、聖職者に結婚を禁じていない」
その宗教会議はセニティス王国の都市フラウデムにて行われた。
各国の聖職者たちがフラウデムに集まり、聖職者の結婚を禁止する教会法の撤廃について議論した。
この宗教会議に参加した教皇庁の聖職者たちは、反論者たちを相手に弁舌をふるった。
「聖職者の結婚を禁止したのは後の世の教会の人間たちだ。それは神の教えではないのだ」
「聖職者は神への奉仕に専念すべきであり、結婚は神への奉仕の障害となります。結婚すれば、神より家族を優先するようになる。神への奉仕を第一とするために、聖職者は結婚すべきではないのです」
「だが其方には内縁の妻がいるであろう」
「……っ!」
「すでに調査済みだ」
各国が手駒として教皇庁に送り込んでいる枢機卿たちが、祖国の個人的な伝手を使い、祖国の主だった聖職者たちの素行を調べ上げていた。
教皇庁の聖職者たちは、反論者たちの素行を指摘して揚げ足をとった。
愛人を持つ聖職者は、とくに高位の者ほど多かった。
中には二人、三人、あるいはそれ以上の愛人を持つ者もいる。
愛人を持つことは大っぴらにしない限りは黙認されていたが、厳密には不埒な行いであった。
「愛人を持つ者は神の教えに逆う不埒者だ。神の教えではない教会法を優先させ、神の教えに逆らうのは本末転倒というもの」
宗教会議は、聖職者の結婚禁止の教会法を撤廃するという意見が優勢で終了した。
「私たち、これで結婚できるわね!」
宗教会議でほぼ勝利をおさめると、アンジェリクははしゃいだ。
「そうだね……」
リオネルは虚無の顔で答えた。
「リオネル、嬉しくないの?」
「嬉しいよ。ただ、少し、驚いただけだ。聖職者の結婚禁止は当たり前のことだと思っていたから。こんなふうにひっくり返るなんて思わなかった」
リオネル自身は、反論者たちに少しだけ期待していた。
アンジェリクの指示で行ったリオネルの宣言を、反論者たちは覆してくれるかもしれないと。
反論者たちが勝利すれば、リオネルはアンジェリクとの結婚を回避できる可能性があるかもしれないと思った。
だが反論者たちは、自国出身の枢機卿の裏切りにより足元をすくわれ、一網打尽にされた。
枢機卿たちが各々の伝手を使い反論者たちの素行を調べあげたのは、もちろんアンジェリクの指示によるものだ。
愛人関係を暴露されて敗北した反論者たちに、霊魂に浮気して廃太子となった過去を持つリオネルは、ほんの少しだけ親近感を持ち、同類として哀れんだ。
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