かわいそうな欲しがり妹のその後は ~ 王子様とは結婚しません!

柚屋志宇

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24話 葡萄酒事件(2)

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「会場に戻れるものなら戻ってごらんなさい! その惨めな姿で戻れるものならね!」

 私とデイジーに葡萄酒を浴びせたダリアさんは、威勢良く言いました。

 葡萄酒を浴びた私たちの姿を見て、ダリアさんの連れの令嬢たちは優勢を感じたのか、息を吹き返してニヤニヤ笑いを浮かべ悪口を言い始めました。

「あらあら、素敵なお姿!」
「デイジー嬢は葡萄色が良くお似合いになるのねえ!」
「そのドレスとても似合っていらっしゃるわよ!」

 ニタニタ笑いながら囃し立てる彼女らの皮肉を理解して、デイジーは眉を吊り上げました。

「よくもやってくれたわね……っ!」
「デイジー、駄目!」

 ダリアさんたちに飛びかかろうとしたデイジーの体を、私はとっさに両手で抱えて押さえました。

「お姉様、止めないで! 卑しいゴブリン女どもめ! 片っ端からぶん殴って黙らせてやるわ!」
「デイジー! お言葉!」
「ゴブリン女たちを可愛がってやりますわ!!」
「自分の手を汚しては駄目よ!」
「じゃあ! 葡萄酒でも果実水でも、片っ端から味見させてやります! 頭からね!」

 拳を振り上げてイキリ立っているデイジーにめつけられ、ゴブリン女と呼ばれたダリアさんたちが顔色を変えました。

「な……」

 ダリアさんたちの顔からは優越の色が消え、戸惑いがにじんでいます。

 もしや?
 ダリアさんたちは、ドレスを台無しにされたデイジーがしくしく泣き出すとでも思っていたのでしょうか?

 私が丹精込めて淑女に調教いたしましたが、ほんの一年前までは、デイジーは恥知らずなたくましい平民で、図太い欲しがり妹でしたのよ。
 葡萄酒で水浴びした程度で折れてしまうか弱い子ではないのです。

 むしろこれは火に油。
 付け焼刃で、貴族の常識をまだしっかり把握していない未熟なデイジーに、ここまでのことをやっても良いのだと、手本を見せてしまったのです。

 淡い空色のドレスを纏い儚い水の精霊のようだったデイジーは、葡萄酒を浴びせかけられてイキリ立ち、今や血染めの暴れ馬のよう。
 たがが外れたように、攻撃的な気迫を漲らせています。

 そう、デイジーが夜会で、私に側に居て欲しいと願う理由は、手本として、そして抑止力として私を頼りにしているからでした。
 虐められたくらいでメソメソするデイジーではありませんが、どこまで反撃して良いのか、どんな反撃ならして良いのかという、加減や勝手が解っていないのです。

「お姉様! 平民だってまともな人はこんな野蛮なことしないです! あれはきっとゴブリンの取り替えっ子チェンジリングです! 群れてニヤニヤしてて卑しいんですもの! ゴブリンに間違いありません! 下等生物に葡萄酒の味を教えてあげますわ!」
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