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59話 兄弟の確執
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「兄上はデイジー嬢に嫌われているのに! 父上の権力を使ってデイジー嬢と結婚しようなんて卑怯です! 親に甘えるのはいい加減にしてください!」
シスル王子殿下が糾弾すると、アイヴィー王子殿下は怒気を露わにして反論しました。
「黙れ! これは政略だ!」
「ウィード公爵令嬢との婚約も政略だったではありませんか!」
「貴様もドラセナ侯爵令嬢との政略をぶち壊しただろうが!」
「ふ、二人とも……落ち着きなさい……」
兄弟喧嘩を始めたアイヴィー王子殿下とシスル王子殿下の醜態に、王妃殿下がおろおろとしていらっしゃいます。
「二人ともやめんか!」
国王陛下が一喝なさいましたが、シスル王子殿下は険しい視線でそれに言い返しました。
「父上はどうして兄上の肩ばかり持つのですか!」
ふふふ……。
争え、争え。
争い合って、潰し合え。
エンフィールドを駒にしようとした身の程知らずが。
「おい、国王」
私たちの父エンフィールド公爵が、ひどく真面目な顔で、国王陛下に気さくすぎる呼びかけをしました。
「王太子の決め直しで揉めているようだな。時間がかかるだろうから、私たちはもう帰っても良いか? ちゃんと決まったらまた知らせてくれ」
「王太子はアイヴィーだ。決め直しなどせん」
「いや、揉めているだろう」
父の失礼な指が、兄弟喧嘩をしている王子殿下たちを指しました。
「王太子を決めるのは国王である私だ」
国王陛下が厳しい表情でそう言うと、父は眉を下げて可哀想なものを見るような目を国王陛下に向けました。
「ちゃんと話し合ったほうが良いぞ。位の継承のことで家族が揉めると、急に体の具合が悪くなって逝ってしまうことがあるからな」
「……っ!」
国王陛下がギョッとして顔色を変えました。
王妃殿下の顔からもさっと血の気が失せました。
父はしかつめらしい顔で国王陛下にお説教をしました。
「我々のように地位を持つ者は、常に家族が仲良くあれるよう気配りが必要だ。健やかに暮らすためには大切なことだ」
父は実弟ガジュマル・エンフィールドを恐れていて、命の危険を感じているらしいので、親切心から国王陛下に助言したのでしょう。
しかし惨劇を仄めかされた国王陛下と王妃殿下は顔を引きつらせました。
「はっはっはっ……!」
この様子を眺めていた王弟殿下が笑い出しました。
「兄上、いや国王陛下、王命で強引にデイジー嬢を得るのは諦めたほうが賢明です。もし嫌がるデイジー嬢を無理やりアイヴィーの妃にしたら、国内はますます混乱しましょう。デイジー嬢にどれだけの子息が求婚しているかご存知か? デイジー嬢を救うため反乱が起こるかもしれません。国が傾きますぞ」
王弟殿下は皮肉っぽい笑みを浮かべて言いました。
「いっそ、デイジー嬢の『真実の愛』を得た者を、王太子にしては?」
王弟殿下のその言葉に、今までずっと黙っていたバジル様がうっすらと微笑を浮かべました。
アイヴィー王子殿下と言い争っていたシスル王子殿下も振り向きました。
「叔父上、それは名案です」
シスル王子殿下は、まるで優位に立ったかのように喜色を浮かべました。
シスル王子殿下も婚約者を放置してデイジーに言い寄っていたので、デイジーには嫌われています。
ですからここはシスル王子殿下が喜ぶところではないのですが。
無知は幸福ですね。
アイヴィー王子殿下といい、シスル王子殿下といい、どうしてこうもデイジーに好かれていると勘違いをしているのでしょうか。
私のデイジーの笑顔の仮面がそれだけ完璧だったということなのでしょうけれど。
笑顔や美辞麗句が信用できるものではないことは社交界の常識でしょうに。
「巫山戯たことを申すな!」
苛立たし気にそう言った国王陛下に、王弟殿下は穏やかな笑顔で進言しました。
「デイジー嬢に王太子を決めてもらうというのは冗談ですが……。しかし、陛下、嫌がる娘を妃にするために王命を使ったとあれば、貴族たちのみならず民の反感をも買うことも必至。アイヴィーがデイジー嬢に嫌われている以上、無理強いはできますまい」
「……」
顔を歪めて口を噤んた国王陛下に、王弟殿下は余裕の表情で言いました。
「デイジー嬢との婚姻を望むなら、まずはデイジー嬢の心を得ることから始めるべきでしょう」
シスル王子殿下が糾弾すると、アイヴィー王子殿下は怒気を露わにして反論しました。
「黙れ! これは政略だ!」
「ウィード公爵令嬢との婚約も政略だったではありませんか!」
「貴様もドラセナ侯爵令嬢との政略をぶち壊しただろうが!」
「ふ、二人とも……落ち着きなさい……」
兄弟喧嘩を始めたアイヴィー王子殿下とシスル王子殿下の醜態に、王妃殿下がおろおろとしていらっしゃいます。
「二人ともやめんか!」
国王陛下が一喝なさいましたが、シスル王子殿下は険しい視線でそれに言い返しました。
「父上はどうして兄上の肩ばかり持つのですか!」
ふふふ……。
争え、争え。
争い合って、潰し合え。
エンフィールドを駒にしようとした身の程知らずが。
「おい、国王」
私たちの父エンフィールド公爵が、ひどく真面目な顔で、国王陛下に気さくすぎる呼びかけをしました。
「王太子の決め直しで揉めているようだな。時間がかかるだろうから、私たちはもう帰っても良いか? ちゃんと決まったらまた知らせてくれ」
「王太子はアイヴィーだ。決め直しなどせん」
「いや、揉めているだろう」
父の失礼な指が、兄弟喧嘩をしている王子殿下たちを指しました。
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国王陛下が厳しい表情でそう言うと、父は眉を下げて可哀想なものを見るような目を国王陛下に向けました。
「ちゃんと話し合ったほうが良いぞ。位の継承のことで家族が揉めると、急に体の具合が悪くなって逝ってしまうことがあるからな」
「……っ!」
国王陛下がギョッとして顔色を変えました。
王妃殿下の顔からもさっと血の気が失せました。
父はしかつめらしい顔で国王陛下にお説教をしました。
「我々のように地位を持つ者は、常に家族が仲良くあれるよう気配りが必要だ。健やかに暮らすためには大切なことだ」
父は実弟ガジュマル・エンフィールドを恐れていて、命の危険を感じているらしいので、親切心から国王陛下に助言したのでしょう。
しかし惨劇を仄めかされた国王陛下と王妃殿下は顔を引きつらせました。
「はっはっはっ……!」
この様子を眺めていた王弟殿下が笑い出しました。
「兄上、いや国王陛下、王命で強引にデイジー嬢を得るのは諦めたほうが賢明です。もし嫌がるデイジー嬢を無理やりアイヴィーの妃にしたら、国内はますます混乱しましょう。デイジー嬢にどれだけの子息が求婚しているかご存知か? デイジー嬢を救うため反乱が起こるかもしれません。国が傾きますぞ」
王弟殿下は皮肉っぽい笑みを浮かべて言いました。
「いっそ、デイジー嬢の『真実の愛』を得た者を、王太子にしては?」
王弟殿下のその言葉に、今までずっと黙っていたバジル様がうっすらと微笑を浮かべました。
アイヴィー王子殿下と言い争っていたシスル王子殿下も振り向きました。
「叔父上、それは名案です」
シスル王子殿下は、まるで優位に立ったかのように喜色を浮かべました。
シスル王子殿下も婚約者を放置してデイジーに言い寄っていたので、デイジーには嫌われています。
ですからここはシスル王子殿下が喜ぶところではないのですが。
無知は幸福ですね。
アイヴィー王子殿下といい、シスル王子殿下といい、どうしてこうもデイジーに好かれていると勘違いをしているのでしょうか。
私のデイジーの笑顔の仮面がそれだけ完璧だったということなのでしょうけれど。
笑顔や美辞麗句が信用できるものではないことは社交界の常識でしょうに。
「巫山戯たことを申すな!」
苛立たし気にそう言った国王陛下に、王弟殿下は穏やかな笑顔で進言しました。
「デイジー嬢に王太子を決めてもらうというのは冗談ですが……。しかし、陛下、嫌がる娘を妃にするために王命を使ったとあれば、貴族たちのみならず民の反感をも買うことも必至。アイヴィーがデイジー嬢に嫌われている以上、無理強いはできますまい」
「……」
顔を歪めて口を噤んた国王陛下に、王弟殿下は余裕の表情で言いました。
「デイジー嬢との婚姻を望むなら、まずはデイジー嬢の心を得ることから始めるべきでしょう」
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