うみと鹿と山犬と

葦原とよ

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第15話 その先へ ※

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「……モレ、ヤぁっ……も、だめぇっ……!」

 腹の上に乗せていたヤシュカが、びくりびくりと痙攣する。それに合わせてモレヤは突き上げを一層早くした。

「や、やあっ! いま、いって、る、からぁ……っ!」

 きついくらいぎちぎちにヤシュカの中が締め付けてくる。それを存分に味わうと、モレヤはヤシュカの最奥へ叩きつけるように激情を流し込んだ。



 池に近い方の巣に何とかヤシュカを連れ込んでから、どれだけの時間こうやってヤシュカを揺さぶっているか分からない。

 ヤシュカの声が少し掠れてきていて、そろそろやめなければと思うのにヤシュカから抜け出る決心がつかず、挿れたままにしているとヤシュカにまた昂ぶらされて、とずっと同じことの繰り返しだ。

 ようやく重なった二人の発情期の効果は、恐ろしいほどだった。普段ならばそろそろヤシュカは音を上げている頃合いなのに、ともすればモレヤを煽ってくる。

 モレヤの発情にあてられたのか、ヤシュカの匂いはいつもよりもずっと強い。
 そしてまたモレヤもそれに酷く興奮して、そんなモレヤにヤシュカは溶かされて、と悪循環のように発情が途切れないでいた。

「……モレ、ヤぁ……どうし、よ……とまん、ない……」

 そろそろ体力的に辛いだろうに、ヤシュカはゆるゆるとまた腰を動かし始めている。水差しから一掬い柄杓で水を掬って口に含み、口移しでヤシュカに与えた。

 初めは大人しく与えられるがままに水を飲んでいたヤシュカが、もっとと催促するようにモレヤに舌を絡ませる。口の端から唾液が溢れるのもお構いなしに、必死で貪るように口づけを交わした。

「…………っ」

 口づけに溺れていたと思っていたヤシュカの手が伸びてきて、モレヤの耳の付け根をさわりと撫でる。普段だったら滅多にそんなことはしないのに、煽るようにゆっくりと細い指がモレヤの耳をなぞった。

「……モレヤも、きもち、いい……?」

 どろりと溶けたように滲む赤い瞳が、蠱惑的に見つめてくる。

「……ああ、すごく、いい……」
「……こっち、は……?」

 そのまま降りていった手がモレヤの尾の付け根をきゅっと掴んで、モレヤは歯を噛み締めて衝動を堪えた。

「……っく…………」
「ふふっ……ねえ、モレヤぁ……?」

 いつもの純情なヤシュカと違って、今日のヤシュカは理性の殻を脱ぎ捨てて脱皮した蝶のように奔放だ。鮮血のように赤い眼差しがモレヤの心へするりと入り込んで、内側から劣情を煽る。

 尾の付け根を触られると、思わず腰を浮かせそうになってしまうほど気持ちが良い。今までヤシュカの尾を触ることはあったけれど、ヤシュカがモレヤの尾を触ることはなかった。

 だから番に触れられるとそこがどんな感覚をもたらすのかモレヤは知らなかった。ただヤシュカがとても気持ち良さそうにしていたから触っていただけだ。

 けれども今、触れられて分かった。尾は危険だ。
 それはまるでモレヤのものを握られているのにも似た感覚だった。ヤシュカの中に挿れたままのものはまだそこまで張り詰めてはいないのに、強制的な射精感に襲われる心地がする。

 このままではヤシュカに抜かされる、そう思ったモレヤは逆転を試みて――つまり同じことをした。

「……ひ、やあああっ!」

 ヤシュカの短い尾全体を右手で包めば、ヤシュカの背がしなって中がぎゅっと締まる。そのまま尾の毛の流れを楽しむようにゆっくりと撫でた。

「や、やめっ……モレ、ヤっ……それっ……」
「なんで? 今、ヤシュカもしてくれた、だろう……だから、おかえし」

 モレヤがヤシュカの尾をきゅっと握ると、それと連動するかのようにヤシュカの中が痛いくらいに締め付けてくる。

 いつの間にかモレヤのものもすっかりと昂ぶりを取り戻し、本格的にヤシュカを突き上げた。もう何度放ったか分からないものがじゅぶじゅぶと卑猥な音を立て、飲み込みきれずにこぼれ落ちたものが掻き混ぜられて白い泡になる。

「っあ、ああぁ……や、やだぁ……っ……」

 目の前でふるふると揺れる赤い果実に貪りつく。ヤシュカの白い谷間にはモレヤのつけた痕が点々と散らばっていて、雪の上に紅梅を散らしたようになっていた。

「なあ、ヤシュカ……どれが一番気持ち良い……?」

 一度揺さぶりを止めるとモレヤは左手を伸ばし、ヤシュカの震える耳を弄ぶ。それから胸の果実を食み、右手で短い尾を包み込んだ。

「やっ……わかん、なっ……」
「……どこがいい?」
「ん、ふっ……っあ、あ、ぁ、っ……モレ、ヤの……っ」
「うん?」
「なかっ……はいっ、てる……モレヤのが、いちばん、きもち、いい……っ」

 その瞬間にヤシュカの奥がモレヤに抱きつくように締まって、モレヤは思わず息を止めて衝撃に耐えた。

「ね、モレヤぁ……うご、いてっ……も、じぶん、で、うごけな……っ」

 切なげな表情をしたヤシュカは、もう自分で体を持ち上げて気持ち良いところに擦り付けられるほど体力が残っていないようだ。ゆるゆると小さく腰を動かして尾を振るわせるのが精一杯、といった風情だった。

「……どういう風に、動いたら、いい?」

 モレヤの中でじわじわと悪戯心が芽生える。いつものヤシュカは絶対にこんなことは言わない。それどころか恥じらいが強くて、自らねだってくることさえほぼない。だから、いつもは口にしてくれないことを言わせたくなったのだ。

「……んっ……おく、ぐりぐり、して……っ」

 言われるがままにぐっと奥まで挿し込み、先端で行き止まりを抉じ開けるように押し潰すとヤシュカの口から悲鳴が上がった。

「……や、あああんっ! ひ、うっ……っあ、ああっ!」
「ここ?」
「ふ、ああっ! それ、それっ……きも、ち、いっ……よぉ……っ!」
「じゃあ、これは?」

 奥を抉りながらヤシュカの尾をぐっと握り込むと、ヤシュカは白い喉を晒すように仰け反る。

「きゃああああっ‼︎ モレヤっ、それっ、だめ、だめぇっ!」
「ヤシュカの中、すっごい、締めつけ……」
「やああっ! いっしょ、だめぇっ、しんじゃうっ……!」

 ヤシュカはがくがくと身を震わせ、モレヤにしがみついた。柔らかな乳房がモレヤの顔に押し付けられて、一瞬精神的にも物理的にも呼吸が出来なくなる。
 死んでしまうのはこちらだ、とモレヤは密かに思った。

「モレ、モレヤぁっ……も、ゆる、してぇっ……」
「じゃあ、どうして欲しいか、言って?」

 涙でぐしょぐしょのヤシュカの顔を舐めとりながらも、モレヤは腰の動きと尾を握る手を止めないでいた。いや、止められなかった。

「ひ、うっ……!」
「言わないと、ずっとこのままだ」
「やぁっ! いうっ、いう、からぁっ!」
「ヤシュカ、どうしたい……?」

 涙と激情と色々なもので滲み切ったヤシュカの赤い眼差しがモレヤの心を絡め取る。瞳と同じくらい赤く染まった小さな唇から吐息がこぼれた。

「モレヤの、モレヤのこども、うませて……っ」

 モレヤが想像していたのとはだいぶ違う答えが返ってきて――モレヤは我を忘れた。

 ヤシュカに恥ずかしいことを言わせたい、という先程までの悪戯心は吹っ飛んで、代わりに新しい欲望がむくむくと頭をもたげた。

 それは本能的なものだったのかもしれない。
 この雌に、自分の子を孕んで欲しい、という獣人じゅうじんさがのようなものが。

「ひっ、やっ! あっ、ああああっ! モレ、ヤぁっ!」
「ヤシュカ、ヤシュカっ……」
「んっ、ああっ! モ、レヤっ……も、だ、め、っ……!」
「ヤシュカっ……俺の子、うんで……っ!」
「――――っああああああ‼︎」

 ヤシュカの中がモレヤを迎え入れるように蠢いて、モレヤはヤシュカの中へ未来への希望を託した。

 白く明滅するモレヤの視界の中で、子供の笑い声が微かに聞こえた。
 小さな鹿が楽しそうに跳ね回る未来の声が。



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