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I know
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「はぁ……」
「わざとらしいため息だな」
「貴方が面倒なんですよ」
「珍しく余裕がないねぇ」
無表情がデフォルトの男とは、一体誰のことか。嫌そうに顔を顰めるルーカスは、能面とは程遠い。
ふふんと楽しそうに笑う目の前の男から早く逃れたい。そんな気持ちが顔にも表れていた。
「女の落とし方なんて簡単さ。腰を抱いて、赤く染まった頬を撫でながら、甘く見つめて囁くんだ。『君が欲しい、今晩どう?』って。今から俺が実践してやろうか?」
「……汚らわしい」
あまりにも低俗だと、汚いものを見る目でランハートを睨むルーカス。
来るもの拒まず、去るもの追わず?
そんな考えがルーカスには全くもって理解できない。エイミーが来たら全力で迎え入れるし、たとえ地の果てまで逃げようともどこまでも追いかけるしかないだろう。ストーカーの執念は伊達じゃない。
「あーあ、箱入り息子はこれだから……」
「ランハート、しょうもねぇ話に花を咲かせる暇があるなら、訓練場に戻って、俺が直々に鍛えてやろうか?」
「げ、団長……」
人好きのする顔でにいっと笑いながら声をかけてきたレオナードに、さすがのランハートも顔を引き攣らせた。騎士団最強の男からのお誘いは避けた方が吉である。筋肉隆々な体躯から放たれる一撃は、受け止めるだけで腕にピリピリとした痛みが走る。明日のことを考えるなら、ある種拷問のような鍛錬からは逃れたい。
「やだなぁ、今から見回りに行くところだったんですよ。じゃあ、俺はこの辺で。失礼します!」
口を挟む隙も与えないほどの勢いでそう言うと、ランハートは足早にその場を去っていった。その後ろ姿を見送って、レオナードはため息を吐き出した。
「ったく、あいつももう少しお前のような落ち着きを持ってくれたらいいんだけどなぁ。これじゃあ、どっちが年上か分からないじゃないか」
「真面目なランハートは想像できません」
「ははっ、それもそうだな」
明るい笑い声を響かせたレオナードだったが、すぐに笑顔を引っ込める。ルーカスの肩に腕を回し、内緒話をするみたいに顔を近付けた。滅多にない行動にルーカスが面食らっていると、レオナードはニヤリと口角を上げた。
「で、お前の想い人は一体誰なんだ?」
「(いや、あんたもかい)」
結局、貴方もランハートと同類だったのか。そんな呆れた眼差しを向けるも、ニヤニヤと楽しそうに笑っている団長殿はルーカスの答えを待っている。人は等しく、誰だって恋話が好きらしい。
「言いませんよ。まだ本人にも想いを告げていないのに」
「ほう、なんとまぁ殊勝なこった」
レオナードの口が軽いとは思っていないが、人の口に戸は立てられない。そのまま真実が伝わるならまだいいが、変に捻じ曲げられてアメリアに誤解されるのは何よりも嫌だった。
この溢れんばかりの熱い想いは一番にアメリアに伝えたい。今はまだそのときじゃないだけ。
ルーカスのただならぬ恋心を理解したレオナードは「それなら仕方ない」とあっさり身を引いた。自身も奥さんを溺愛しているから、何か思うところがあったのかもしれない。
「ま、悩みならいくらでも聞いてやるよ」
「……では、ひとつだけいいですか?」
「もちろん」
「団長は初めてデートに行くなら、どんなところを選びますか?」
ランハートに聞くよりは団長の方が経験豊富で、茶化してくることもないしマシだろう。恥を忍んで小さな声で問いかければ、顎を擦りながらレオナードは唸る。
「うーん、俺なら自分のお気に入りの場所だな」
「お気に入り……」
「相手にもよるんだろうけど、初めて行く場所よりも詳しい場所の方が落ち着いてエスコートできるだろうし、失敗は少なくなるだろ」
「なるほど……、参考にさせていただきます」
ふむ、と考え込んだルーカスの頭の中にぼんやりと浮かんできたのは、ストーカーをしていない時によく行く場所。あそこなら静かで、アメリアも気に入るかもしれない。
ここ数日の悩みがぱあっと解消されて、ルーカスの気分は上昇する。これであとはアメリアを誘うだけ。珍しく微笑みを浮かべながら感謝を述べるルーカスに、レオナードは「珍しいもんを見たな」と内心驚くのであった。
「わざとらしいため息だな」
「貴方が面倒なんですよ」
「珍しく余裕がないねぇ」
無表情がデフォルトの男とは、一体誰のことか。嫌そうに顔を顰めるルーカスは、能面とは程遠い。
ふふんと楽しそうに笑う目の前の男から早く逃れたい。そんな気持ちが顔にも表れていた。
「女の落とし方なんて簡単さ。腰を抱いて、赤く染まった頬を撫でながら、甘く見つめて囁くんだ。『君が欲しい、今晩どう?』って。今から俺が実践してやろうか?」
「……汚らわしい」
あまりにも低俗だと、汚いものを見る目でランハートを睨むルーカス。
来るもの拒まず、去るもの追わず?
そんな考えがルーカスには全くもって理解できない。エイミーが来たら全力で迎え入れるし、たとえ地の果てまで逃げようともどこまでも追いかけるしかないだろう。ストーカーの執念は伊達じゃない。
「あーあ、箱入り息子はこれだから……」
「ランハート、しょうもねぇ話に花を咲かせる暇があるなら、訓練場に戻って、俺が直々に鍛えてやろうか?」
「げ、団長……」
人好きのする顔でにいっと笑いながら声をかけてきたレオナードに、さすがのランハートも顔を引き攣らせた。騎士団最強の男からのお誘いは避けた方が吉である。筋肉隆々な体躯から放たれる一撃は、受け止めるだけで腕にピリピリとした痛みが走る。明日のことを考えるなら、ある種拷問のような鍛錬からは逃れたい。
「やだなぁ、今から見回りに行くところだったんですよ。じゃあ、俺はこの辺で。失礼します!」
口を挟む隙も与えないほどの勢いでそう言うと、ランハートは足早にその場を去っていった。その後ろ姿を見送って、レオナードはため息を吐き出した。
「ったく、あいつももう少しお前のような落ち着きを持ってくれたらいいんだけどなぁ。これじゃあ、どっちが年上か分からないじゃないか」
「真面目なランハートは想像できません」
「ははっ、それもそうだな」
明るい笑い声を響かせたレオナードだったが、すぐに笑顔を引っ込める。ルーカスの肩に腕を回し、内緒話をするみたいに顔を近付けた。滅多にない行動にルーカスが面食らっていると、レオナードはニヤリと口角を上げた。
「で、お前の想い人は一体誰なんだ?」
「(いや、あんたもかい)」
結局、貴方もランハートと同類だったのか。そんな呆れた眼差しを向けるも、ニヤニヤと楽しそうに笑っている団長殿はルーカスの答えを待っている。人は等しく、誰だって恋話が好きらしい。
「言いませんよ。まだ本人にも想いを告げていないのに」
「ほう、なんとまぁ殊勝なこった」
レオナードの口が軽いとは思っていないが、人の口に戸は立てられない。そのまま真実が伝わるならまだいいが、変に捻じ曲げられてアメリアに誤解されるのは何よりも嫌だった。
この溢れんばかりの熱い想いは一番にアメリアに伝えたい。今はまだそのときじゃないだけ。
ルーカスのただならぬ恋心を理解したレオナードは「それなら仕方ない」とあっさり身を引いた。自身も奥さんを溺愛しているから、何か思うところがあったのかもしれない。
「ま、悩みならいくらでも聞いてやるよ」
「……では、ひとつだけいいですか?」
「もちろん」
「団長は初めてデートに行くなら、どんなところを選びますか?」
ランハートに聞くよりは団長の方が経験豊富で、茶化してくることもないしマシだろう。恥を忍んで小さな声で問いかければ、顎を擦りながらレオナードは唸る。
「うーん、俺なら自分のお気に入りの場所だな」
「お気に入り……」
「相手にもよるんだろうけど、初めて行く場所よりも詳しい場所の方が落ち着いてエスコートできるだろうし、失敗は少なくなるだろ」
「なるほど……、参考にさせていただきます」
ふむ、と考え込んだルーカスの頭の中にぼんやりと浮かんできたのは、ストーカーをしていない時によく行く場所。あそこなら静かで、アメリアも気に入るかもしれない。
ここ数日の悩みがぱあっと解消されて、ルーカスの気分は上昇する。これであとはアメリアを誘うだけ。珍しく微笑みを浮かべながら感謝を述べるルーカスに、レオナードは「珍しいもんを見たな」と内心驚くのであった。
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