目は口ほどに物を言うといいますが 〜筒抜け騎士様は今日も元気に業務(ストーカー)に励みます〜

新羽梅衣

文字の大きさ
27 / 29
I know

しおりを挟む
 「はぁ……」
 「わざとらしいため息だな」
 「貴方が面倒なんですよ」
 「珍しく余裕がないねぇ」


 無表情がデフォルトの男とは、一体誰のことか。嫌そうに顔を顰めるルーカスは、能面とは程遠い。

 ふふんと楽しそうに笑う目の前の男から早く逃れたい。そんな気持ちが顔にも表れていた。


 「女の落とし方なんて簡単さ。腰を抱いて、赤く染まった頬を撫でながら、甘く見つめて囁くんだ。『君が欲しい、今晩どう?』って。今から俺が実践してやろうか?」
 「……汚らわしい」


 あまりにも低俗だと、汚いものを見る目でランハートを睨むルーカス。

 来るもの拒まず、去るもの追わず?
 そんな考えがルーカスには全くもって理解できない。エイミーが来たら全力で迎え入れるし、たとえ地の果てまで逃げようともどこまでも追いかけるしかないだろう。ストーカーの執念は伊達じゃない。


 「あーあ、箱入り息子はこれだから……」
 「ランハート、しょうもねぇ話に花を咲かせる暇があるなら、訓練場に戻って、俺が直々に鍛えてやろうか?」
 「げ、団長……」


 人好きのする顔でにいっと笑いながら声をかけてきたレオナードに、さすがのランハートも顔を引き攣らせた。騎士団最強の男からのお誘いは避けた方が吉である。筋肉隆々な体躯から放たれる一撃は、受け止めるだけで腕にピリピリとした痛みが走る。明日のことを考えるなら、ある種拷問のような鍛錬からは逃れたい。


 「やだなぁ、今から見回りに行くところだったんですよ。じゃあ、俺はこの辺で。失礼します!」


 口を挟む隙も与えないほどの勢いでそう言うと、ランハートは足早にその場を去っていった。その後ろ姿を見送って、レオナードはため息を吐き出した。


 「ったく、あいつももう少しお前のような落ち着きを持ってくれたらいいんだけどなぁ。これじゃあ、どっちが年上か分からないじゃないか」
 「真面目なランハートは想像できません」
 「ははっ、それもそうだな」


 明るい笑い声を響かせたレオナードだったが、すぐに笑顔を引っ込める。ルーカスの肩に腕を回し、内緒話をするみたいに顔を近付けた。滅多にない行動にルーカスが面食らっていると、レオナードはニヤリと口角を上げた。


 「で、お前の想い人は一体誰なんだ?」
 「(いや、あんたもかい)」


 結局、貴方もランハートと同類だったのか。そんな呆れた眼差しを向けるも、ニヤニヤと楽しそうに笑っている団長殿はルーカスの答えを待っている。人は等しく、誰だって恋話が好きらしい。


 「言いませんよ。まだ本人にも想いを告げていないのに」
 「ほう、なんとまぁ殊勝なこった」


 レオナードの口が軽いとは思っていないが、人の口に戸は立てられない。そのまま真実が伝わるならまだいいが、変に捻じ曲げられてアメリアに誤解されるのは何よりも嫌だった。

 この溢れんばかりの熱い想いは一番にアメリアに伝えたい。今はまだそのときじゃないだけ。

 ルーカスのただならぬ恋心を理解したレオナードは「それなら仕方ない」とあっさり身を引いた。自身も奥さんを溺愛しているから、何か思うところがあったのかもしれない。


 「ま、悩みならいくらでも聞いてやるよ」
 「……では、ひとつだけいいですか?」
 「もちろん」
 「団長は初めてデートに行くなら、どんなところを選びますか?」


 ランハートに聞くよりは団長の方が経験豊富で、茶化してくることもないしマシだろう。恥を忍んで小さな声で問いかければ、顎を擦りながらレオナードは唸る。


 「うーん、俺なら自分のお気に入りの場所だな」
 「お気に入り……」
 「相手にもよるんだろうけど、初めて行く場所よりも詳しい場所の方が落ち着いてエスコートできるだろうし、失敗は少なくなるだろ」
 「なるほど……、参考にさせていただきます」


 ふむ、と考え込んだルーカスの頭の中にぼんやりと浮かんできたのは、ストーカーをしていない時によく行く場所。あそこなら静かで、アメリアも気に入るかもしれない。

 ここ数日の悩みがぱあっと解消されて、ルーカスの気分は上昇する。これであとはアメリアを誘うだけ。珍しく微笑みを浮かべながら感謝を述べるルーカスに、レオナードは「珍しいもんを見たな」と内心驚くのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

側近女性は迷わない

中田カナ
恋愛
第二王子殿下の側近の中でただ1人の女性である私は、思いがけず自分の陰口を耳にしてしまった。 ※ 小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

処理中です...