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第一章
21.不思議な事実、魔法のお屋敷にて7
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ちょうど青色のガラスの器に入ったデザートのフルーツがたっぷり運ばれてきた時、テオが「あっ」と声を上げた。
「そうだ、言い忘れるところだった。さっきマテウス様から、マルチナの魔力の気配をかくすのは暫定的にサファイアになったと聞いたんだけど、間違いないかい?」
「ええ。サファイヤが入った懐中時計を身に着けているソニアに触れていると、魔力の気配がかくれるの」
もっと言うならば、懐中時計を持っただけでは魔力は隠れず、懐中時計を持っていないソニアと手を繋ぐだけでも魔力は隠れなかった。
そう話すと、テオは細長い指を口元にあてて「うーん」とうなった。
「それがどうかしたの、先生?」
「いや。俺の記憶が正しければ、芸術鑑賞の時間で、サファイアを使った作品を扱ったことは何度もあるんだ。サファイアは硬度が高い分、短剣の刃先に使われたり、デカンターに使われたりと、用途は多いからね。マルチナも覚えていないかい?」
「……そういえば、サファイアで飾られた宝玉で、気に入ったのがあったわね。確か、昔、魔法使い同士の戦争があったころに、和平の証拠として献上しあったっていう。実際に触らせてもらったし」
テオは「そうそう」と言って、青色の器から三日月型に切られたオレンジを取った。
「それじゃあ、マルチナの魔力をかくすのは、サファイアじゃないかもしれないってことですか?」
マルチナもテオと一緒に口元に手を当てて「うーん」とうなってから、ソニアの方を見てにっこりと笑った。
「やっぱり、ソニアが一緒じゃなきゃだめってことね!」
「……ええっ、そういうことなのかな」
照れくさくなったソニアが顔をそむけると、マルチナはご機嫌にニマニマしながら抱きついてきた。
「それにしても、テオ先生。魔力の気配をかくすのが何なのか、はっきりさせた方がいいと思う? わたしはソニアだったらうれしいけど、『人』じゃなくて『人工物』って言われてるんでしょう」
ソニアから離れたマルチナの声色が真剣になった。オレンジをほおばるテオの顔も、真剣なものに変わる。
「『言われている』と言っても、一つの文献でしか記述がないから、確かなことはわからないけど……」
テオさんはちらっとソニアの方を見た。
「確かに、魔法犯罪が増えている以上、身を護る手段の一つとして、魔力をかくすものを持っておいて損はないだろうね。話を蒸し返すようで悪いけど、実際に子どもを無理やり犯罪組織に取り組む輩もいるんだ。そういう連中に対して、魔力をかくせるようにしておいた方が安心だろう。マテウス様もルシア様も、それを望んでいるはずだよ」
「……まあね。お父様たちはわたしに魔法を教えてくれるって約束してくれたんだから、わたしもお父様たちに危ないことして心配をかけないって約束をしないと、フェアじゃないわよね」
テオは「そういうことだ」と言って、パチンと片目を閉じた。
「それに、今でこそ生きやすくなったけど、マテウス様たちが子供のころは、まだ魔法使いへの差別もあったから」
「「えっ、差別」」
ソニアとマルチナは声をそろえて、顔を見合わせた。
「わたしは差別なんて受けたことないわ」
「今は平和な世の中に近づいているところだからね。でも、今でも魔法使いへの差別はある。特に貧困層の魔法使いは、魔法を使うだけの道具として扱われている事例も少なくないんだ」
魔法使いへの差別など、ソニアは考えたこともなかった。少なくとも、この町では見たことがない。しかし、「見たことがないものは存在しない」とは言いきれない。そのような悲しい出来事は、たいてい簡単に見えないところで起こっているものだ。
ソニアもマルチナもシュンとしてしまうと、テオが優しい声で「でも」と言った。
「差別に対する罰則は年々厳しくなっているよ。それに、差別で苦しむ魔法使い、特に子どもを護るためにも、マテウス様とルシア様は邁進されてるんだ」
マルチナはちょっと誇らしげに笑って、「そっか」とつぶやいた。
「マテウスさんたち、かっこいいね」
ソニアの言葉に、マルチナは胸を張って「ええ!」と答える。その顔は、清々しく見えた。
「話がそれたね。ひとまず、マテウス様に報告しようか、マルチナの魔力の気配をかくすのは、サファイアだと言い切ることはできないって」
「そうね。……でも、それを伝えたら、お父様はまた、外に行っちゃうのかしら。それは、さみしいわね……」
マルチナは、眉をハの字にして、またシュンと肩を落とした。
やっと本音で気持ちを伝えあって、お互いが大切だってわかったんだから、離れたくないに決まってるよね。
「……変装する魔法より、探し物を見つけてくれる魔法があればいいのにね」
ソニアがぽつりとつぶやくと、マルチナはパッと顔を上げた。
「フフッ、本当ね。でもね、ソニア。わたしがさみしい時に、ソニアがうちに遊びに来てくれるっていうなら、お父様たちがいないのも我慢できるのよ」
マルチナは魅力的な大きな目で、ソニアを下から見つめてきた。
「……またそんな、断れない言い方してえ」
「本当だもの!」
マルチナはにっこりと笑って、もう一度ソニアに抱きついてきた。
どうやらソニアはこれからも、マルチナにふり回されるようだ。
「そうだ、言い忘れるところだった。さっきマテウス様から、マルチナの魔力の気配をかくすのは暫定的にサファイアになったと聞いたんだけど、間違いないかい?」
「ええ。サファイヤが入った懐中時計を身に着けているソニアに触れていると、魔力の気配がかくれるの」
もっと言うならば、懐中時計を持っただけでは魔力は隠れず、懐中時計を持っていないソニアと手を繋ぐだけでも魔力は隠れなかった。
そう話すと、テオは細長い指を口元にあてて「うーん」とうなった。
「それがどうかしたの、先生?」
「いや。俺の記憶が正しければ、芸術鑑賞の時間で、サファイアを使った作品を扱ったことは何度もあるんだ。サファイアは硬度が高い分、短剣の刃先に使われたり、デカンターに使われたりと、用途は多いからね。マルチナも覚えていないかい?」
「……そういえば、サファイアで飾られた宝玉で、気に入ったのがあったわね。確か、昔、魔法使い同士の戦争があったころに、和平の証拠として献上しあったっていう。実際に触らせてもらったし」
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「それじゃあ、マルチナの魔力をかくすのは、サファイアじゃないかもしれないってことですか?」
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「やっぱり、ソニアが一緒じゃなきゃだめってことね!」
「……ええっ、そういうことなのかな」
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「それにしても、テオ先生。魔力の気配をかくすのが何なのか、はっきりさせた方がいいと思う? わたしはソニアだったらうれしいけど、『人』じゃなくて『人工物』って言われてるんでしょう」
ソニアから離れたマルチナの声色が真剣になった。オレンジをほおばるテオの顔も、真剣なものに変わる。
「『言われている』と言っても、一つの文献でしか記述がないから、確かなことはわからないけど……」
テオさんはちらっとソニアの方を見た。
「確かに、魔法犯罪が増えている以上、身を護る手段の一つとして、魔力をかくすものを持っておいて損はないだろうね。話を蒸し返すようで悪いけど、実際に子どもを無理やり犯罪組織に取り組む輩もいるんだ。そういう連中に対して、魔力をかくせるようにしておいた方が安心だろう。マテウス様もルシア様も、それを望んでいるはずだよ」
「……まあね。お父様たちはわたしに魔法を教えてくれるって約束してくれたんだから、わたしもお父様たちに危ないことして心配をかけないって約束をしないと、フェアじゃないわよね」
テオは「そういうことだ」と言って、パチンと片目を閉じた。
「それに、今でこそ生きやすくなったけど、マテウス様たちが子供のころは、まだ魔法使いへの差別もあったから」
「「えっ、差別」」
ソニアとマルチナは声をそろえて、顔を見合わせた。
「わたしは差別なんて受けたことないわ」
「今は平和な世の中に近づいているところだからね。でも、今でも魔法使いへの差別はある。特に貧困層の魔法使いは、魔法を使うだけの道具として扱われている事例も少なくないんだ」
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ソニアもマルチナもシュンとしてしまうと、テオが優しい声で「でも」と言った。
「差別に対する罰則は年々厳しくなっているよ。それに、差別で苦しむ魔法使い、特に子どもを護るためにも、マテウス様とルシア様は邁進されてるんだ」
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