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2章 歩み

33話 元勇者との戦い

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「そ、そんな馬鹿な」


僕とドスモスの戦いが始まった直後、自らの一撃を躱されそのままの勢いを止められずにこけたドスモスは、信じられないって口にして僕を見上げて来た。
開始の合図をされて直ぐだったため、僕が反応できずに隙を突いたと思ったんだろうけど、そんな事は実戦を繰り返している僕たち冒険者にとって当然の対策でした。


「ドスモス、君弱くなり過ぎじゃないかな?」
「な、なんだと」
「だってそうじゃないか、戦いに合図なんてない、それなのに準備もしないなんてありえないよ」


剣を構えるだけが準備ではなく、魔力や闘気を溜めるのは基本で、そんな事もしなくなったのかと指摘しました。
ドスモスはおそらく、奴隷の様に戦う様になったから、自分から先手を取らなくなっていたんだ。


「安全圏からモノを見て、言われたタイミングで攻撃をする、前の僕と同じなのに僕と違うんだね」
「な、何が言いたい」
「君は何も反省して直そうとしない、それがいけないんだよ」


味方の力を合わせる事もしないから、普通の冒険者の域を超えられなかった。
それがこれだけの差になってしまった事を教える為、混合闘気を見せてあげました。


「な、なんだそのオーラは」
「これはねドスモス、君たち元勇者PTで散々トロいとか言われてた中、僕が試行錯誤して導き出した答え【混合闘気】だよ」
「混合闘気?」
「そうだよ、伝承の中で勇者が使っていた虹色の闘気の正体さ」


物語の中だけの技とされていたけど、僕はそれを付与の力でなんとか再現しようとして、限界を超えて死にそうになったんだ。
そのおかげで未来予知なども覚えたので、その点は感謝しているとドスモスにお礼を言いました。


「でもね、君たちはそれを教えても信じないで拒否した、それがいけなかったんだよ」
「そ、そんな事いつあった」
「そんな事も覚えてない、だから君の未来は処刑なんだ」


始まったばかりだけど、僕はもう終わらせる気で剣を抜きました。
ドスモスも最後の抵抗とばかりに闘気を上げてきたけど、レベルもあまり変わってなくて、付与も強化もないドスモスの闘気はとても弱かった。


「ど、どうだこの闘気を受けて見ろ」
「何を言ってるんだいドスモス?」
「ほざいていろクソムシ!剣技【フィニッシュスラスト】」


最強の突き技と呼ばれる戦技を打ってきたドスモスだけど、闘気は足りないし速さも遅くて僕は避けたんだ。
観客はそんな僕の動きを見て驚いて静かになったけど、そもそも勇者が勝つと思っている様で焦っていたよ。


「今更だけど、やっぱり人気ないよね付与魔法士ってさ」


後衛の魔法士が勇者に勝てるわけがないと、賭けの倍率も大変な事になっていて、僕に賭けてるミイシャル様が笑っていた。
僕の横でドスモスはもう動けずにいて、このままちょこっと力を入れて殴りました。


「ぐはっ!」
「防御も弱まってるね」
「こ、これしきで俺が」
「当然だよ、ものすごく手加減したからね」


もうフラフラのドスモスは、何とか立ち上がって剣を振ってきたけど、もう威力は無いから素手で止めてあげました。
もう片方の手で腹に一撃を入れ、その場に倒しました。


「これで終わりだけど、既にあいつの姿が無いね」


未来予知で分かっているけど、ドスモスが勝てないと分かったのか、直ぐに逃げ始めた子爵は、今頃街の門にいた兵士に取り囲まれています。
唖然としてる観客に手を振り、僕の勝利を宣言してもらったけど、終わった事も分かってなくて誰も聞いてません。


「さて、後はミイシャル様たちの方に行って跪いて終わりだね」


言葉の通り、僕は会場のミイシャル様たちの座る方に向き、跪いて勝利を贈りました。
それを見て、伯爵は決闘の結果を観客に説明し、僕たちの勝利が決まりました。


「そして、勝利したアレストには、褒美として爵位を与える事になる」


そうなんだよねぇ~っと、僕はちょっと困ってしまいます。
子爵の領地を管理する貴族が必要だからで、僕はその場で喜んで受けるしかないんだ。


「詳細は後日知らせる、みなアレストの勝利を祝ってくれ」


伯爵がしめくくり、観客から拍手を貰っていたけど、これで僕はミイシャル様と婚約することになるんだ。
屋敷に戻りその話をされて、僕は断る事も出来ずに一緒に帰る事になったよ。


「あの、アレスト」
「ミイシャル様、そんなに緊張しないでください」
「で、でも・・・ワタシたちは婚約したのよ」
「そうですけど、メイドさんも一緒ですし、二人きりではないんですよ」


街に向かっている時も僕は馬車に同席していたし、婚約を言い渡されただけです。
この後、正式に書面が届くけど、そこには一緒に領土を統治しようと言う話になるから、もっと緊張してしまうんだ。


「で、でも・・・ワタシ、こういった事は初めてで」
「それでしたら、まずはお互いを知る事から始めましょうミイシャル様」
「そ、そうねアレスト」


そう言っても、ミイシャル様から何か話題が出る訳もないので、僕から趣味を聞きました。
貴族のご令嬢だからか、ミイシャル様はダンスが好きな様で、今度僕は教わる事になったよ。


「僕にできますかね?」
「アレストはなんでも出来るもの、きっと直ぐに覚える事が出来るわ」
「そうだと良いですけど、僕には既に結婚を約束した人がいますから、そこも分かってくださいね」
「それは勿論よ、ちゃんとお話しないとね」


キョウコには既に話していて大歓迎されているけど、その理由は分かっています。
でも、僕だって理性はあるのでほどほどにするつもりで、ミイシャル様が相手に入るのなら、それこそやり過ぎない様にしようと思っています。


「ですけど、メイドさんが睨んでいる通り、まだミイシャル様とはいたしませんからね」
「分かってるわ、式はお母様の屋敷になるわよ」
「イヤそっちではなく、夜のお話です」
「夜って・・・そそそ、そうよね」


婚約するのだからと、真っ赤になって納得してくれたけど、キョウコが焚きつけるので数日後には一緒になります。
メイドさんもそこは納得するけど、ニコニコしていたよ。


「それで、村の発展の事ですが」
「急にまじめな話ね、道を増やすって事よね?」
「そうです、その為にも手に入れた領地から志願者を募ります」
「その受け入れの手配をすれば良いのね」


それもそうだけど、身元の確認や素行の悪さも調べなくてはなりません。
それでもすべては分からず、すり抜けて入り込んでくるので、僕のお仕事が際立つとにっこりとしました。


「頼りにしてるわアレスト」
「僕もですよミイシャル様、お互い頑張りましょう」
「アレスト、もう様はいらないのよ」
「そうですね、じゃあ計算も出来る様になろうねミイシャル」


嫌がるミイシャルにメイドさんと一緒になって教える事になり、馬車の旅はお勉強とお菓子タイムにつぎ込みました。
そのおかげもあり、婚約者としての緊張は無くなり、親しく話すことが出来る様になって、僕たちは村に無事戻ったんだ。
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