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3章 1年2学期

81話 指導教官

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「さて皆さん、改造したダンジョンも騎士たちに喜ばれ、2週間が経ちました」


僕は壇上に上がり演説をしています。ここはエマルが借りた会議室で、僕たちは毎日の様に扱って研究をしてる。
みんなは実力が上がってかなり笑顔で頷いて来て、順風満帆に感じてる。
最初は何をされるのかと怖がられていたけど、今ではそんな事は無く、僕の話を聞いてくれる。


「今日は、一体どんな事をするんですかアレシャス様」
「リリーナ、僕の事は様を付けない様にって言ったでしょ」
「す、すみません、つい」


ついってなんだよっと突っ込みたい衝動を抑えて話を進めます。
僕にとんでもないことを命令されてるみんなだから仕方ないかもだけど、みんなは僕に様を付けて来る。


「みんなも知っての通り、ジャケン君がハイエンダクラスのゴブリンを設置して失敗しています。ケリーさんとエマルのダンジョンが良くなったから焦ってるんだ。そこで、更に上のモンスターが出るようにしたいと思います」
「「「「「え!?」」」」」


みんなから驚きの声を貰い、更にエマルが手を挙げたので、僕は何かな?って当てましたよ。


「あのアレシャス様」
「エマルも、僕のことは様を付けないで呼ぶように言ったでしょ」
「す、すみません。それであの・・・普通は逆に弱くするモノじゃありませんの?」


実力が上がって焦らせているのだから、そんな考えなのは分かります。
でも、レベルを下げるのはジャケン君に失礼だし、何より手加減をされてると思わせて更に焦らせてしまう。


「だから、ここでドカンと上げるんだ」
「ど、ドカンですの?」
「うん、丁度試験も近いし、お披露目にもばっちりだ」


みんなは、そんな事が出来るのかと不安そうです。
だけどね、僕の自信に満ちた表情は変わらないよ。ついにあれを発表する時だと張り切ってしまったよ。


「そ、そんなことが可能なんですか?」
「わ、わたくし知っていますわよアレシャス様、ノーマルクラスからの引き上げは、キングクラスまでが限界で、それを多く出現させるのですわね」
「う~ん、ちょっと違うねエマル」


エマルの言っている方法は、ハイエンダクラスを大部屋に設置する事で、それ以外をキングクラスに出来る方法です。
だけど僕はそうじゃなく、ノーマルクラスからハイエンダを出そうとしてるんだ。


「ハイエンダがノーマルクラスから出るんですね、ボク初めて知りました」
「そんな訳ありませんわよリリーナ!ノーマルクラスから成長するのは、最大でキングまでが常識ですわよ」
「それは僕も知ってる・・・むふふ~実はねぇ~簡単な方法で出現する様になるんだよ」


僕の言葉に、みんながどんな方法なんだろうと唾を飲んで緊張した。
僕も最初にこれに気づいた時は驚きました。まさか、ゲームで定番のあれが使えないとは思わないよね。


「直線通路を繋ぐ?」
「そ、それだけですの?」
「それだけではないけど、まぁそうだねエマル、学園ではポイントばかりを見てるから、中ボスの部屋やボス部屋を使うようには教えない。それはどうしてか?」
「それは使い方が分からないからですわよ」
「そう、使い方を誰も知らないんだ」


1学期のダンジョン大会でも確認済みで、5年生までのダンジョンを見ていましたが、みんな普通にモンスターを強くしていくだけで終わっていたんです。
しかも5年生のトップの人が設置していたのは、ノーマルクラスではなく3つ星のモンスターたちで、どれも上位種にすらなってませんでした。


「つまりね、3つ星を上位にするには壁があると言うことなんだ」
「中ボス部屋がその壁ですか、知らなかったよボク」
「当然ですわよリリーナ、これはダンジョンヒューマンの長年の難問とされ、永遠の研究テーマですわよ」
「「「「「えっ!?」」」」」


皆と一緒に僕もビックリで、まさか難問になってるとは思いませんでしたよ。
エマルは他にも、ボス部屋の使用とドラゴンの弱体化が難問とされていると教えてくれた。
僕はエマルの話を聞き、それはそうだろうねぇ~っと思って聞いていて、ダンジョンの階層を繋げられないから当然と思っていました。


「エマル様、どうして誰も出来ないのでしょうか?」
「それは分かりませんわリリーナ。ダンジョンに聞いてくださいまし」


エマルの言葉に、どうしてかみんなは僕に視線を持って来た。
僕はダンジョンじゃないよっと突っ込んで話を戻したんだよ。


「リリーナ、出来ないのは誰にも教わらないからさ、みんなが親にすら教われないのもそれが理由だね」


ボクの答えにみんながビックリしてきますが、それはかなりの壁となってる。
長年情報を伝承し研究されていればもしかしたら、そう考えてしまう。


「確かに、お母さまは教えてくださらないですわね」
「そうさ、もし作り方のコツを指導してくれていれば、もしかしたら誰かが気づいたかもしれない。でもスタートはみんな同じで誰も教えてくれない」


学園でも外でも同じで全て独学。基本となる使い方だけでは限界があるから、みんなは同じ失敗をしてそれ以上にはならないんだ。


「で、でも通路を繋げるだけなら誰かが」
「リリーナそれは無理ですわよ、直線通路を3つも繋げるなんて論外ですわ」
「エマルの言う通り、中ボスとボス部屋はそうしないと機能しない。だけど誰もそれを知らないから、基本となる作り方をして挑戦する」


部屋のポイントも余計にかかり、中ボスの部屋は5万Pです。ボスに至っては50万と、実験をするには高すぎるポイントだよ。


「で、でも5万くらいなら誰でも」
「リリーナ、もし何も起きなければ5万が水の泡になるんだよ。それに設置の仕方も重要で、場所を間違うと機能しないし、モンスターも強いのが出現しないで、最悪弱体化する」
「条件が全て揃ってこそなのですわね」


エマルに頷き、中ボス部屋の前は、必ず直線通路にしなくてはいけないと伝えます。
そして3つ以上通路を伸ばした先には、更に小部屋を設置する必要があって、その部屋を中ボス部屋に隣接設置させなければいけない。


「通路を間に入れたら機能しないのですか?」
「そうだよリリーナ。そんな条件下でないといけなくて、更にその部屋は休憩場所になる様、部屋の内装を変更が必須。それを全て揃えないと部屋は機能しないんだ」


ここまで話をして、みんながざわざわと話し始めた。
そのざわつきが終わる前に、エマルが腕を組み納得していました。


「小部屋に中ボス部屋をそのまま繋げるなんて、そんな事絶対しませんわね」
「うんそうだねエマル。しかもその部屋は、寝室の様な内装に変えないとダメで、更に直線通路だって3つも繋げる必要がある」
「こんな条件、誰もクリア出来ませんわよ」
「そうかもねエマル。しかも、設置方法はそれで正解だけど、それは設置しただけのモノで、中ボスの部屋にはモンスターを設置してはいけないんだよ」
「「「「「なっ!?」」」」」



エマルも他のみんなも、口を大きく開け固まってしまいます。でも、それはほんとに大変な事で、今までの常識が崩壊したようなモノなんです。
僕にとっては普通だけど、みんなからしたら信じられないんでしょうね。


「みんなが驚くのも分かるよ、学園に来る前の教育で、ダンジョンヒューマン5箇条の内、3つも当てはまるんだからね。どうかなリリーナ、これでもやろうとする人がいると思う?」


ダンジョンヒューマン5箇条、それはこんな感じで広まっています。
1条・ダンジョンヒューマンはダンジョンに入れない。
2条・ダンジョン玉を壊してはならない。
3条・同じ通路を2つ以上繋げてはならない。
4条・部屋同士を繋げてはならない。
5条・部屋にはモンスターを置くべし。


僕の質問にリリーナは無言で頭を左右に振るだけでした。
後ろでは、他の子も同じように頭を振っていましたね。


「アレシャス様、あなたは天才ですの?」
「天才なんて大げさだよエマル、1階を有効に使ってるだけさ。それにこれは1つ星モンスターがハイエンダに出来るってだけの話で、ノーマルクラスの2つ星から始まるモンスターをキングクラスにするには、他の方法がいるんだ」
「ボアやコボルトやトレントですわね」



エマルは、当然と思っているのか納得したような顔をしています。
1つ星のモンスターたちは物質・獣・植物・虫の中で最弱とされているモンスターたちで、だからそこ余計発見されてない。


「みんなは1年で設置するものばかりだから不思議だろうけど、今ジャケン君がやってる様に、直ぐに上のモンスターを設置する様になる。2年からはその上の2つ星モンスターを設置するかもしれない」


上位モンスター設置を試みる為、普通は誰も気づかない。それは親や伝統などがないせいでもあるんだ。
誰かに教わっていれば、1年の時にもしかしてと試す子が現れたかもしれない、それが一切ないから進まないんだよ。


「僕はそこに疑問を持ち、冒険者を使ってポイントが沢山あったから試した。だから思いついたわけだよ・・・っと長々と話したけど、さぁみんな、中ボス部屋を作ってハイエンダクラスが出現するのを見よう」


無言でダンジョンを作り始めるみんなは、半信半疑なようで僕をチラチラ見てきます。
1つ星なら、どんなモンスターでも可能だけど、実は2つ星をそこまでに上げる方法はある、それはまだまだ言えないので先に取っておきます。


「さて、これでみんなのダンジョンはジャケン君やケリーさんと同じか、それ以上になった」
「まだ信じられないよボク」
「気持ちは分かりますわリリーナ、わたくしもそうですわよ」
「ケリーさんはともかくとして、ハイエンダやキングクラスの設置に比べ、こちらは中部屋中心の20万と少し、向こうと消費の差は月とすっぽんだからね」


モンスターの費用は設置した人しか分かりません。当然ですけど設置した時点でモンスターが変化してしまうからだね。
なので、キングばかりのダンジョンに変わっても、費用を沢山使っただけと見るのが普通です。
目立たない様に行動している僕が使う必勝法、これで僕の隠れ蓑は出来上がるよ。


「アレシャス様、いいのですか?」


僕が腕を組んで頷いていると、今まで何も言わなかったシャンティが、後ろから顔を出し聞いてきました。
みんながダンジョンに集中し始めたから声を掛けてきたんだね。


「何の事?」
「今アレシャス様が教えたことは、剣技などで言うところの奥義みたいな物です。発表すれば多大な功績になるほどですよ、それをタダで教えるなんて」
「シャンティも大げさだね、僕は制約のネックレスを鞭として着けたんだ、次はアメをあげないとみんなの心が保たないよ」
「それはそうですが・・・それにしても与えすぎです」


シャンティが難しい顔をしてきますが、僕が教えたことは確かにそう言った類のモノである事は分かります。
でも、狭いダンジョンしか作らない学園では、中ボス部屋設置は必須で、そうしないと費用がどんどん膨れ上がり、やがてダンジョンヒューマンが悩まされてる弱体化にぶつかる。


「そうなる前に教えてるんだよ」
「だからと言って」
「それにねシャンティ、この先にはまだ何個も壁があるんだ、それはシャンティも知ってるでしょ?こんなの奥義なんて言えないさ」
「まぁ、確かにそうですけど」


そう言ってシャンティは黙ってしまいます。まだ納得してない感じだけど、今言ったように、この先にはまだまだ色々あります。
大部屋に小部屋をくっつけると宝箱の部屋になるとか、通路を設置した後で上から小部屋を作ろうと重ねると、中二階の様な変わった小部屋を作る事が出来るとかですね。


「シャンティ、難しい顔は止めておやつを作ってよ、みんな頭を使ったからさ」


シャンティが渋々といった感じで、バックパックからホットプレートを出しクレープを作り始めました。
それをみんなで最後に食べ、僕の改善講習は終了したんです。
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