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4章 1年3学期

113話 圧倒的な力

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「ど、どうなってる!援軍はどうした」


同盟国の指揮している長は、未だに攻めようと考えているようだが、もう戦いは終わっている。


「我たちは負けたのだ。それが今でも分からんとは、愚かすぎる」


破壊した壁は一瞬で修復され、命を落としたのはこちらの兵のみ。
切り札だったドラゴンゾンビも暴れていない。城が健在なのだから、やられたと見て良いだろう。


「バナーヅの長よさないか、我たちの負けだ」
「な、何を言うかサロスの長!?まだワシャらは負けてないぞ」
「いや負けたのだよ」


援軍は来ないのではなく、恐らく来れないのだ。
映像でも分かった事で、我らは急ぎ集まっていた部屋から出なくてはならない。


「反乱を起こしたと悟られるわけにはいかんぞ、バナーヅの長」
「弱腰なっ!ワシャらはまだ戦える」
「それなら勝手にするがいい、我らは降りさせてもらう」


バナーヅの長も報告は聞いているのだ。ここからは見えなかったが、火龍が襲来したと報告され、更には鬼神も現れたと聞いた。
そんな者たちが女帝に付いたとなれば、勝てるわけがない。


「他の長もまだやるようだが、どう思うアルト」
「言うまでもないですよタージュ王。自分たちの魔道具を使っているとは言え、性能だけであんなのに勝てるわけない」


当然の答えが返って来て、それはそうだとレッドドラゴンが見える映像に視線が向いた。
後ろで騒いでいるしいつらも見ているはずなのに、どうしてあれに勝てると思えるのか疑問だ。
言うまでもないが、ここに集まる国は、どこも恨みを晴らすために集まった。


「しかし、負ければそれ以上の屈辱と苦しみが待っている。それなら、我は恨みを忘れ共存を選ぶぞ」


反乱国の長たちが頭が悪過ぎて、我が間違っていたことが良く分かった。
今までの女帝だったなら、我も滅ぶまで戦ったかもしれない。
しかし、ここに来るまでの村や街を見て、我の考えも変わっていったのだ。


「強き者が弱き者を守る、それも種族関係なく強き者を集め、ほんとの平等を宣言している」
「前にここを訪れた時は酷かったですからねタージュ王」
「ああ、ダンジョンの無い村は悲惨だった。近くの街だってそれほど裕福でもなく、力ある者だけが裕福で、見ていていい気分じゃなかったな」


しかし、今回訪れた村や街ではそうではなかった。笑顔が溢れる国になっていて驚いたほどだ。
あんな民がいるのならばと、決意して決めた宣戦布告が揺らいだのだ。
退出した部屋の者たちは、それを見ても何も感じなかったのかと、少し寂しく思ったな。


「苦しみを知っているのに、相手に味合わせる事しか考えていない」
「憎しみは憎しみを生むと言う奴ですか?」
「そうだなアルト、悲しいモノだ」


我も人の事は言えないが、武力での攻撃は止め、これからは共存を考えて行動する。
今の女帝ならば、我らの扱いも悪くはならないだろうと期待したんだ。


「さすがですタージュ王、今のうちに力を蓄えると言う事ですね」
「そう言う事だアルト。次の女帝がどうなるか分からんからな、それまでにあれが完成すれば、少しはこちらも力を手に入れる事が出来る」


魔道具の発展に貢献している我の国サロス国、そこでは秘密裏に研究がされている物があるのだ。
他の国も独自に何らかの秘密を持っているだろうが、我の国は一味違う。


「空飛ぶ船が完成すれば、交易は勿論の事、戦争でも多大な成果をもたらすぞ」
「急ぎ過ぎですよタージュ王。必要な魔石がありませんし、そもそも動力の問題が一番の難問です」
「そうだな、我らの国の学生をこちらに留学できないモノかな」


ボソッと言ったそんな提案だったが、良い案だと我は想い、国の代表で城に赴く時にでも進言して見ようと考えた。
まだまだ未完成な魔力タンクをチラつかせればいける、交渉出来るエサも十分にあると我はニヤリとしたんだ。


「そう考えると、あそこに残った国はないのだろうな」


年末のこの祭りは、いつも悔しさを噛みしめるモノで、我たちにとって怒りの対象だった。
今回それを壊す為、我たちの力は凄いのだと知らしめる為に動いたわけだが、逆に力を見せつけられ後戻りが出来ないと思っているのだ。


「毎年招待される我らだが、今回でかなり絞られるかもしれんな」


我たちの借りた宿に戻ったのだが、ほんとに元通りになっていた。
道中もそうだったが、これほどの力を前では、引き入れたダンジョンヒューマン数名如きと思ってしまう。


「学園の教師数名と貴族と言えど、しょせんワイバーン以下だろうな」
「せっかく野生のワイバーンを飼育したのにこれですからね」


アルトもやれやれと言った感じだが、我もそう思って部屋の椅子に力なく座った。
我らの反逆は失敗に終わったのだ、ダンジョンヒューマンを引き入れ次を準備しても、何もかも元通りになったこの国には敵わない。


「今頃、あの部屋の者たちは捕まってるんじゃないですか?」
「嫌、さすがにそれはないだろうアルト。恐らく、泳がしてすべてを殲滅してくるぞ」
「そこまでですか!?」


アルトに頷き、我はお茶を飲みながら魔道具を鞄から取り出し、過去の戦いを映して見せたのだ。
敵は強さを強調させるように突撃の1択、それでもこちらの兵士は紙の様に引き裂かれ全滅した。


「これがこの国の強さだ」
「すごいですね」
「ああ、その兵士よりも強い力を手に入れたと思っていたが、更に敵は強大だったのだ」


本来なら、この後に突撃してくる味方が毒や麻痺の矢を使って戦うはずだった。
この後に用意していた弱点攻撃も、恐らくは意味をなさなかったかもしれないわけなんだ。


「ドラゴンゾンビが時間稼ぎにもなりませんでしたから、仕方ないですよ」
「そうだなアルト・・・しかし、我は諦めたわけではない。この国が間違った道に進んだ時、我は力を振るうのだ」


その為に今回は引き下がり、元の同盟国として力を蓄える。
相手の力を取り入れ、更に強くなって見せると、我は祖国の方角を向き誓ったのだ。


「迅速な判断、さすがです」
「褒める事ではないぞアルト、これは必要な事と言うだけだ」
「では、この国で魔道具を向上させるのですね」
「そうだ、空飛ぶ船を完成させ、更にはあれももっと使えるようにする」


古代魔道具魔法銃。あれをもっと効率よくしなくてはいけない。
その為にアルトに手紙を渡した。そこには、この国で魔道具を開発している者の名が記されていた。


「・・・ですか」
「そうだなアルト、彼は急に現れ色々な魔道具を発展させている」


早急にその者を取り入れ仲間にしたい。報酬も何でも出すとも書かれていて、きっと彼も賛成するだろう。
色々方向は違ったが、これで我の国は救われるだろう。
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