SS集【1話完結型】

仲里トメ子

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タイムマシン

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【1日目】

何気なく過ごす毎日、今日もタイムマシンに揺られて通勤中。


今はスーツ着て乗っている。


ほら、あそこに座ってるのは未来の和田だろ。

和田っていうのは俺の同僚で、受付嬢の菊乃ちゃんのこと狙ってる。

俺も菊乃ちゃんを狙っている。

仕事も一緒で、いわゆる、ライバルってやつ。


タイムマシンで見つけた和田は、禿げててよぼよぼで優先席に座っている。

隣には知らない可愛いおばあちゃんがいる。

ざまあみろ。菊乃ちゃんとは一緒になれなかったんだな。

でも、会社辞めて幸せになったのか。よかった。

『僕、今月末でここ辞める。』

昨日そう言って笑っていた和田のこと、わけわかんね。って思ったけど、

そういうことだったのか。


あ、ちなみにこのタイムマシンには暗黙の了解ってやつが存在する。


未来、過去等、現在の自分の軸と違う人に話しかけない、ということ。


これは絶対だ、守らなくてはいけない。


だから、今の俺は、あの和田にざまあみろって、菊乃ちゃんは俺のモノだって、

言えない。言わない。


ただ、会社で会ったら、いつものようにこう言ってやるのだ。


「早く辞めろよ、菊乃ちゃんは俺のもんだっての。」


上司に文句言われて悔しそうな和田にこう言ってやるのだ。


「そんなに思いつめると禿げるぞ。」


今月末、言ってやるのだ。


「おめでとう。」って。


だって、今見つけた未来の和田は幸せそうなんだ。

幸せが約束されているんだ。


和田、おめでとう。


【2日目】

今日の俺はお気に入りの白いVネックにヴィンテージのジーンズと黒のハットをかぶり、

上機嫌でタイムマシンに揺られていた。


今日は菊乃ちゃんとデート。ほんとは自慢のスポーツカーに乗ってドライヴとでも洒落込みたかったけれど、この前部長にこっぴどく駄目だしされてたし、お気に入りのマグカップが割れちゃったってさみしそうだったし、今日は呑みに行くことにし


「おい、お前次で降りろよ!?」

「すいませんすいません!許してください!」

「…。」


おいおい…いまいい気分だったのに…。

騒ぎの方を見ると、セーラー服の女の子とスーツを着た気の弱そうなサラリーマンと坊主頭の正義感にあふれたおまえが降りて行った。


あーあ。やっちゃった。長年このタイムマシンに乗ってると見かけるんだよね。

暗黙のルールに触れちゃうやつ。

過去の好きな子に会って、抑えられなくなっちゃったんでしょ。どーせ。

そういう気持ちがわからないでもないけど、みんなちゃんと割り切ってんだし、やっぱりルールは必要だよね。


しっかし、おまえに捕まっちまうとは運が悪いなぁ。


さて。俺も降りて、菊乃ちゃんにプレゼントするマグカップを選びに行くかな。


お気に入りのハットを深く被り直して、タイムマシンを降りた。



【最終日】

その日の俺は残業続きで徹夜もして、やっと仕事が片付いて、陽はまだ高く定時前だったけど上司がもう上がっていいと言ってくれたので、タイムマシンに乗り込んだ。


今日も心地よくタイムマシンは揺れていた。

自慢の黒いスーツはぽかぽかと日向の光を集め、気持ちよさは半端なくうたたねしてしまった。



気が付くといつもと違う景色。

どうやら寝過ごしてしまったようだ。

慌てて降りるものの知らない景色で困惑する。


しかしながら、足は自然と風に流されるまま歩き出す。

疲れてたんだ少し散歩でもして帰れということだろう。


そのまま風任せに歩くと、ちょっとした高い丘に出た。

町が見渡せて心が落ち着いて深呼吸していると、ぶわっと強い風が吹き思わず目をつむって、風が一瞬で過ぎ去り目を開けた。


目の前には家があった。白い壁面で二階建て。犬も二匹いた。


また風が吹き瞬きするとなくなっていた。

なんだろうか。でも、既視感があったあの家はなんだったんだろう。

やはり疲れているんだ帰ろう。

来た道を戻り、またタイムマシンに乗り込んだ。


もう帰れる。その安心感からかまたうたたねをしてしまった。

起きるともう夕暮れ。昔よく見た景色だった。


そのままタイムマシンを降りて、おいしいにおいのする町に慣れた足取りで目的地へ向かう。

まずいにおいがする目的地に着くと、何も言わずに中に入る。

「あんらま。来るなら言いね。ほいだらごちそう作るだのに…。」

祖母が台所でまずそうな飯を食べていた。


祖母はよれよれのスーツの俺を見て微笑んだ。

「ほい、たんとお食べ。」


END.
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