スイセイ桜歌

五月萌

文字の大きさ
上 下
32 / 100
第2章 ローリの歩く世界

12 3年前の披露宴で

しおりを挟む

三年前
 ローリとガウカはとある宮殿で披露宴を執り行われていた。
 ガウカの五七歳の誕生日でもある日であった。
 ケーキ入刀のセレモニーまで問題なく行われていた。
 ローリはそのケーキを大きなスプーンで食べさせられた時、窒息死しかけた。
 中座した後、と青いドレスにティアラをつけて黒髪を結った髪のガウカが出てきた。
 ローリも金色の婚礼衣装に身を包んでいた。

「このドレスどうじゃ?」
「可愛いよ」

 ローリは魂を抜かれたかのように生返事した。

「嬉しいの、ローレライの婚礼衣装も似合ってるぞ」

 ガウカの『ローレライ』という言葉に眉根を動かすローリ。

「あ、ありがとう。ガウカさん」

 ローリは式中、ネニュファールのことを考えていた。
 ネニュファールは使用人らしくシャンパンを皆に注いでまわっている。
(また目があった)
 ローリは何度もネニュファールと目を合わせている。いまので六回目だ。
一つの丸くて大きなテーブルに十人ほどゲストが座っており、そのテーブルは十卓ほどある。生花が円卓の中央に飾られている。
  リコヨーテの要人や有名人、著名人、親族、クライスタルの女王と国王、その親族などやフェルニカの王子とその親族が無礼講で騒いでいる。

「ローレライ」

 ルコの声がする。くるぶし丈のベージュの花の刺繍が入ったパーティードレスを着ている。
 ローリは嫌な予感でいっぱいだった。

「何か芸、ないのかしらね?」
「バイオリンでよければ」

 ローリは腹芸をしろと茶化されるのが怖く早口になる。

「そうね、あたしとデュエットしましょ? ウォレスト」
「ウォレ」
「何弾くのかしら?」
「エトピリカにしましょう。僕がファースト弾きます」
(この曲は葉加瀬太郎、作曲だ)
「ふーん、わかったわ」
「今から新郎様と皇太后様で演奏をします。くれぐれもお静かに!」

 ウエディングプランナーの一喝が入り、周囲はシーンと静まり返った。

「いくわよ」
「はい」

 曲は終わる。日々の訓練が実を結んだ。
パチパチパチパチ

「ん?」

 ローリは周りを見た。
 周りの皆が溢れんばかりの拍手している。

「ありがとうございました」
「こちらこそありがとう」

 ローリは胸に手を当てお辞儀をする。
 ルコも上機嫌だ。
 隣に座るラウレスクは怪訝な顔で拍手していた。

「父上、どうかなさいました?」
「なんでもない」

 ラウレスクは車椅子に乗り、肘をついている。
 ローリは不思議そうにするが、ラウレスクは目を閉じたままだ。

「僕の演奏下手でしたか?」
「……興が醒めた。吾輩は帰る」
「ええ? 父上?」

 唖然とするローリ。
 執事のネムサヤが車椅子を弾いて宮殿の部屋の外へ出ていった。

「待ってください」

 ローリは食い下がって、馬車に乗ろうとしているラウレスクに追いつき、声をかける。

「いいか、ローレライ。男は涙を煙に変えて出す生き物なのだぞ」
「は、はい! それは泣きたいほど感動してるってことですか?」
「調子に乗るな。……それでは、また城でな」
「はい。……はあ、良かった」
 
 ローリの緊張が一気にほぐれた。地下を支えている柱が近くにありその影で、小さな白髪の少女が様子を見ていることに気づいた。
「僕、ルフラン♪ 何してるの?」

 七才になったばかりのルフランだった。

「僕は父上をお見送りに。君こそ何してるの。児童養護施設スイレンの子だよね?」

 ローリはネニュファールの入っていた施設の名を出す。

「うん」
「何か困ってることない?」
「僕ね、楽器を弾けるようになりたい! 兄様あにさまのバイオリンかっこよかった!」
「そうかい? 城に戻ればいくつかの武楽器があるはずだから頼んでみるよ、ああ、でも本物も触ってないと楽器は出てこないけどね」
「うん」
「あ、タイガツ君」

 宮殿での広間に向かう道でローリとルフランはタイガツと会った。

「その子、ルフランだな。どうして二人でいるんだ?」
「ことの成り行きで。それにしてもこの子、ユズキ様とイッヒ様の子供ではないかい?」
「ち、ちがう、誰も船に置き去りにしていない」
「おや、彼女がよく船の中に置き去りにしたって知ってるな?」
「ちがうちがうちがう、あの時クライスタルの船と間違えたんだ」
「タイガツ君がルフランを僕らの乗る船に置き去りにしたんだな!」
「それは…………俺より甘やかしてたから。皆には俺が殺したことになってるんだ」
「あの後、船が半壊するほどの月影の攻撃があったんだよ」
「知らねえよ。結論から言うと、ルフランをどうしたい?」
「君たちに任せたくはないけど、本人の意志が一番だよ」

 ローリは改まって、ルフランと目を合わせた。同じ目の高さまでしゃがんで訊いた。

「ルフラン、王女になりたいかい? 貴族として普通に暮らせることは暮らせるけど」
「僕は、王女になる女だ!」
「それだと、船を渡って遠くの土地にこのタイガツにくどくど言われながら生きなきゃだよ。僕もいないし、児童養護施設じゃなくて城に住むんだよ?」
「僕、は! 王女になりたい」
「俺がくどくど言うわけねえだろ。安心しろ、ルフラン。皆お前が死んだって伝えた時泣いていたからきっと、大事に育てられるよ」
「私達ーお別れなんですねー」
「ルフランの意思を尊重して、フェルニカの人に話してくる。しばらく、ルフランを頼むよ」
「え、ちょ、おい、まて」

 タイガツはルフランを任せられて不平を言おうとするも、すでにローリは走っていて、小さくなっていた。

「タイガツ君、遊ぼー!」

 ルフランは無邪気に微笑んでいる。
 その天使のような顔に、タイガツは一気に体の空気が抜けていった。

「あのなあ、俺のことはタイガツ君と呼ぶんじゃねえ」
「じゃあなんて呼べば良い?」
「えー、お兄さんとか?」
「お兄さん♪」
「そうだ、いま中庭でスイーツビュッフェやってるぞ。行こうぜ、ルフラン」
「うん!」

 おどおどしたタイガツとルフランは広間の横にある中庭に足を踏み入れた。

「高級そうな皿だから、取ってやるよ。どれが良い? ルフラン」
「モンブランとショートケーキとチョコのロールケーキ」
 ルフランの声に耳を傾けながら、皿にケーキをのせていくタイガツ。
 ケーキは成人男性なら三口くらいで食べられそうな大きさだ。
「これって、全部卵不使用なんだな」
 ケーキの乗った大皿の側にpOpが置いてあり、そこに書かれていた。
「兄様が卵食べれないって言ってた」
「へー」

 タイガツは心の中でローリのことを不憫に思った。次にルフランに吹聴されたら困るので口には出さないが、ローリに対する攻撃法を思いついた。

「お兄さん、取ってくれてありがとう」

 ルフランは満面の笑みでお礼を言った。

「おう」

 タイガツは照れながら自分の分のケーキを取る。マスカットのタルト、チーズケーキ、カヌレを皿の上に置いた。



 ローリは会場の隅でタイガツの両親と親戚、そしてルコと喧嘩のように言い合いをしていた。

「あの子はあなた達の子供でしょう」
「確かに似ているし、行方不明になった年と同じくらいの風貌だけど、あの子はタイガツが不注意で海に落としてしまったと言っていたわ」
「そのタイガツ君が、彼女に嫉妬して僕達の船にこっそり忍び込んで置き去りにしたんだ」
「なんですって? 生きてたの?」
「ルフラン……あなた達が名付け親ですね?」
「る、ルフラン、どうしてその名を?」
「僕が訊いているんです」
「ええ、そのとおり、ルフランは私達が名付けました」
「ルフランを育てる気はあるのですか?」
「急に言われても、そんなの」

 イッヒは涙を流した。泣き声を殺そうと嗚咽が聞こえる。

「ちょうど、タイガツ君とルフランさんが中庭にいるから呼んできます」
「待って。本当にルフランなの? 本当なら首に吸血鬼に噛まれたようなほくろがあるはずよ」
「ありますよ、ここに二つ」

 ローリはつぶやきながら首の付け根あたりを指差す

「俺を抜きにごちゃごちゃ言ってるんじゃない。育てる気、あるに決まってるだろう。ルフランを呼んでこい」

 ユズキは頭に血が上っているかのようだ。

「タイガツもな」
「乱闘騒ぎはやめてください」
「うるせー、一発入れとかなきゃ腹の虫が収まらねえ」
「ユズキ、やめて」

 イッヒは強い口調で押し問答をする。
「やめん、城に戻ったら覚悟しとけよ」
「罰は受けるわ、タイガツもね」
「わかったよ。殴らねえから呼んでこい」
 ユズキの言葉に不信感をいだきながら、ローリは口を開いた瞬間だった。
「今」
「陛下。わたくし、ネニュファールが呼んでまいります」

 ネニュファールが話をさり気なく聞いていて、名乗りあげる。そして、中庭に続くガラスのドアを開ける。
 ルフランとタイガツは何やらこそこそ話に興じている。
 ネニュファールが二人に話しかけると、すんなりネニュファールの後に続いて広間に入ってきた。

「ルフラン」
「僕の母さん?」
「そうよ、お母さんよ、今までほったらかしてごめんなさい」
「俺はユズキ。こっちはイッヒ。俺はお前の父親だ、七年前に死んだとタイガツから情報が広がってな、諸々の事情は省略するが、ぜひ我々の城に住んでもらいたい」

 ユズキはまくし立てるように言った。

「お父様、今回のこと、申し訳ありませんでした」
「この大馬鹿者が!」
「まあまあ、帰ってきたから良いじゃないですか」

 ルコは雲行きの怪しい事態にフォローを入れた。

「空気を悪くしてごめんなさい」

 イッヒが小さな声で謝った。

「そうだな、せっかくの結婚式に悪かったな」

 ユズキは眉間のシワをとらないままイッヒと席に戻った。ビールを飲み干す勢いで注いでもらっている。
 タイガツは気まずそうに中庭へ戻った。

「ローレライ。ガウカ様の隣に戻りなさい」
「ルフランは?」
「あたしたちで見るから」
「わかった。そうするよ」

 ローリは憑き物が落ちたように晴れやかな気分になっていた。

「ローレライ」
「ん?」
「わしもケーキ食べに行きたいのじゃ、カヌレが美味しそうじゃ」
「僕が適当に取ってくるよ、余ったら僕が食べるよ」
「すまんの」

 ガウカの声を聞きながら、ローリはタイガツとの会話を目当てに中庭へ出た。

「タイガツ君」
「こうなったのもお前のせいだ、披露宴にルフランを連れてくるだなんて」
「僕は、タイガツ君のことが心配だよ。ルフランを連れてくるのは妹のようなものだから、致し方ないだろう」
「口だけだな」
「そういうふうに他者を否定するのは実に良くないことだよ」
「だったら行動で示せ」
「僕にできることかい?」
「土下座だ」
「そんなことしたら君の地位も危ういと思うよ」
「うるさい、良いから謝れ。俺に歯向かうな」
「僕は一国の王子、いや陛下だ、リコヨーテの指針に関わる事はできない」
「そんなの知るか! 這いつくばれこの野郎」

 タイガツは渾身のパンチを放つ。
 ローリはそれをよけながら、タイガツのみぞおち辺りを殴った。続けざまにアッパーを食わせる。

「はっ……しまった」

 ローリは気絶するタイガツを支えながら、顔には出ないが焦った。
 タイガツに余裕で勝ってしまったローリは、ネニュファールの証言で過失はタイガツとおあいこである事となった。
 ネムサヤがタイガツを別の部屋まで救護し、運んでいった。
(人を殴ると手が痛むな)
 ローリは今頃来る、手のしびれに唖然としていた。少し高揚感もあった。

「陛下、お強いんですね。ですが、暴力で支配してはやり返されることもあります」

 ネニュファールが本音をさらけ出したように、慌てて口を抑えた。

「僕は普段から、自主鍛錬を怠らないからね。狡い手を使われない限り大丈夫さ」
「フェルニカ兵を敵に回していないか心配です」
「大丈夫、ちょっと喧嘩しただけだよ」
「ローレライ、あなたさあ、もうちょっとかわいい反応しておけば皆守ってくれたのに」

 ルコはローリの握りこぶしを片手で掴んだ。

「僕は守られる側ではありません」

 ローリは手を振りほどく。

「いいえあなたは守られる側よ。目が覚めたらタイガツ様に謝っておきなさいよ」
「はあ」
「ローレライ! お主、ボクシングでも習っておるのじゃろう? かっこよかったのじゃ」
「はあ、父上との決闘で鍛えているからね」

 ローレライは取ってきたケーキがのった皿とデザートフォークをガウカに手渡した。

「この事明日の新聞の一面に飾るね。ペンは剣よりも強しだよ、そんなに戦いたいのならギルドマスターにでもなればいい」

 この中年のおばさんはガウカの母親のベウカだ。

「はあ」
(もうローリの名でA級やS級のクエストをギルドメンバーとともに受けているけど。なんかモヤモヤするな、なんだこのおばさん)

 ローリは心のなかで毒づく。しかし何も言えない。

「兄様、大丈夫?」

 ルフランが声をかけた。

「なんともないよ、ルフラン」

 ローリはルフランが怖がらないように笑ってみせた。

「陛下」

 ルナナの声が聞こえる。

「なんだい?」
「そろそろ、謝辞を述べるようです」
「皆様席にお戻りください」

 ウエディングプランナーの司会が皆を誘導する。

「新郎から謝辞を申し上げます」

 司会者がマイクスタンドに付いているマイクをローリに促した。ライトアップされていた。

「本日は、私達のためにお集まりいただきありがとうございました。また皇太子妃となるガウカ=パスレル様のご両者様、今日からはスターリングシルバー姓を名乗らせていただくのですが、ガウカ様を私の住むスターリング城まで連れて行くことをお許しいただき、心より感謝しています。様々な困難が立ちふさがると思いますが、夫婦で乗り切りたいと誓います。今後とも未熟な二人ですがよろしくお願いします。本日は誠にありがとうございました」
 
 ローリは一番無難な謝辞を述べた。
 壮大な拍手喝采があがった。
 スタッフと城の使用人が円卓にあった生花を回収していく。そしてミニブーケのように花屋が加工して紙袋に入れる。
「只今のご挨拶をもちまして、お二人の結婚ご披露宴をお開きとさせていただきます陛下さま、皇太子妃様、本日はおめでとうございます、お二人にとっての大切な一日です。皆様どうぞ大きな祝福でお見送りください」

 ローリはガウカの手を取り、会場の外へ一直線に歩いていく。
 送賓をローリとガウカ、コック、使用人がする。小さな生花のブーケを一人ひとりに渡していった。

 メンデルスゾーンの結婚行進曲が流れている。
 皆引き出物とブーケを持って帰っている。
 二次会はスターリング城で行われる。

「わしは先に外で待ってるぞ」

 ガウカはそう言って外へ出向いた。

「ローレライ、期待してるわよ」
「僕に言われても、正直自信ないし、お酒強いのは知っているけど」

 ルコはローレライの頭を撫でる。

「やめていただきたい」
「チェスしない? 勝ったら腹芸しなくてもいいけど負けたら腹芸ね」
「望むところです」

 ローリは頭を触っているルコの手を掴み、握手する。

「陛下、一旦、帰りましょう」

 ネニュファールがローリに声をかけた。

「うん」
「僕が勝ったらどうしますか?」
「ないと思うけど、なにか言うことをきいてあげるわ」

 ルコは言い放つとすたすた歩いて広間を出ていった。
 ローリは追いかけるように外に出た。
 高級感あふれる馬車が用意されていた。
 後ろに護衛用の馬車があり、使いのものが今か今かと待っている。
 ローリは前を見ると同じく高級そうな馬車が走り去っていくのを見た。

「そういえばタイガツ君は目を覚ましたのかい?」
「今度あったらボコボコにしてやると。歯に衣着せぬ物言いで帰られましたよ」

 ネムサヤはさも恐ろしそうに言った。

「はっはっは。それは怖いね」
「全く怖がっているように見えませんけど」
「ところで城にチェス盤あったかな?」
「プラチナとホワイトゴールドのチェス盤があります」
「どっちが勝つと思う?」
「わしはプラチナじゃな。プラチナのほうが希少価値が高いのじゃ」

 馬車にすでに乗っていたガウカの声が響いた。

「ガウカさんの感にかけるかな」
「まともにチェスやったことないのに勝てるわけ無いのでは?」

 ネニュファールが姿を現した。

「説明書読めば大丈夫だよ」
「二十分で全部読み込めるのですか?」
「ネニュファールもこの馬車に乗って、ガウカの相手をしてくれないかい?」
「わかりました」

 三人を乗せた馬車は駆け足で揺れ動く。

「ガウカ様はそのような美しさでどうして今になってご結婚なさったのですか?」
「寄ってくる男はいたんじゃが、身の程知らずで生意気だから縁談を断ってやったのじゃ……、それもこれも、ローレライと結婚すると昔から決めていたわけじゃがの」
「陛下とは幼馴染ってことですか?」
「町で襲われそうになっていたのを助けてもらったのじゃ」
「なぜ、良いところのお嬢様が町で護衛もつけずにいたのでしょうか?」
「わしは一人旅が好きなのじゃ。流石にテイアの外界(月影のいる地帯)には行かないがの」
「陛下もよく抜け出していたけど、ガウカ様も豪邸から抜け出していたのですね」
「まあな、ローレライを探すのに一年はかかった」
「え? いつ頃知り合ったのですか?」
「ローレライが十才でわしが五十歳の頃じゃったな」
「怒られなかったんですか?」
「ローレライは怒られつつも褒められたそうじゃ。わしは大目玉を食らったのじゃが、そのかわり、 
 婚約者としてローレライを探したのじゃ」
「言っておくけど、僕の一存じゃなくて、両親に決められたことだよ」

 ローリは本を読みつつ、会話に混ざる。

「それはすごいです、かなりの資産家なんですね」
「わしに媚びを売るつもりじゃな?」
「いえいえ、そういうわけでは」
「わしは六十年くらい生きてきて大体の人が何を考えているのかがわかる」
「わたくしが悪人だとおっしゃりたいのですか?」
「違うわい、……ローレライに熱っぽい目線を送るのはやめてもらえんかの」
「べ、別にロー、いや、陛下に熱っぽい目線なんて」
「ローレライはわしのものじゃ」
「僕は、別に誰かのものじゃないんだけれど」
「ローレライは口を挟まないでほしいのじゃ」
 
ガウカは鋭く言ってのけた。

「…………たとえ誰と結婚しようとも、陛下には幸せでいてもらいたいのです」
 ネニュファールはしくしく泣き始めた。
「あーあー、何を泣くんじゃ」
「僕は隣にネニュファールがいると幸せに感じられるよ」
「ローレライ」
「もちろん君もだ、ガウカさん」
「なんじゃ」
 ガウカがローリの読んでいる本を奪った。
「読んでいる最中にやめてもらいたい」
「ガウカ様、愛してます、は?」
「そんなふうに言わせたとして何になるんだい?」
「なんじゃ、言わないのなら投げ捨てるぞ」
「わかったわかった、ガウカ様愛してます」
「わかれば良いのじゃ」

 ガウカはローリに本を突き返した。

「それは無理やり言わせたのでは?」

ガタン!
ヒヒーン!
 大きな音と馬のいななきが聞こえた。馬車の動きが止まった。
「なにかあったのじゃな」
「「ウォレスト」」

 ローリとネニュファールは刃物を出した。
 ネニュファールはカーテンを開ける。
 馬に乗り、ボウガンを持った男が狙いをネニュファールに定めて、撃ってきた。

「パース」

 ネニュファールは長方形の箱を出し、間一髪ボウガンの矢に当たらなかったが、ガラスが割られてしまった。そして、鍵をかけても無駄であった。
 ネニュファールはそれならこちらだと馬車のドアを蹴り開ける。
 その男はびっくりした様子だった。慌ててリロードしている。
 ネニュファールは冷静に小剣を投げた。

「うぎゃあ」

 相手は小剣が肩に刺さり、落馬した。

「ウォレスト」

 ネニュファールはもう一度武楽器を出した。
 ローリはドアを開けていた。レイピアのようなものを操る痩せた男と戦っていた。

「護衛の馬車はどうなってるのじゃ!?」

 ガウカの声にネニュファールは後ろが気になり、馬車から降りる。
 護衛の馬車はいなくなっており、代わりにならず者が馬に乗って馬車を囲んでいた。四人、ローリと戦っている者も数えると五人いた。ボウガンを持っている者が二人。弓矢を持っている者が一人。 剣を持っている者が一人。
 ネニュファールはニッケルハルパをライフルに変えた。
ドン、ドン!
 ネニュファールは馬にめがけてライフルを撃った。
ヒヒヒーーン
 当たったのは二頭の馬だった。
「強いねえお嬢ちゃん」
「捕獲しますか?」
「いや、女王だけでいい」

 無精髭を生やした男はぶっきらぼうに言った。

「前にも!」

 ネニュファールは真後ろにいる敵にも気づかなかった。御者が成り代わって出発しようとしている様子だった。

「ルナナ!」

 後ろの方からルナナ一人が近づいてきた。

「ルナナ、馬を貸してくれたまえ」

 ローリはレイピア使いを傷つけて地面に降り立った。

「残念だったね」

 ルナナはローリに寄っていくと、無言でヴィオラの剣を出してローリを突き刺した。

「がっ」

 ローリは崩れ落ちた。

「ルナナさん!」
「裏切って悪いね」
「え?」

 ネニュファールは目の前の出来事を受け入れる事以外できなかった。
ドス!
 弓矢がネニュファールのお腹に突き刺さった。そして反動で地面に叩きつけられた。
「進行でいいわ」
「へい」

 馬車に乗り込む者と馬に相乗りする者がいた。

「誰かおらんのか? 来てくれ!」

 ガウカは一人で叫んでいる。
 馬車は遠ざかっていく。

「待って……ください……」

 ネニュファールは患部にある矢を抜く。すると血がたくさん出た。

「大丈夫かい?」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

恋人は午前三時に会いに来る

ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

トゥモロウ・スピーチ

BL / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:34

愛が重い!がデフォルトの世界で、僕は愛を知る

BL / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:174

赤緑“まめ”合戦

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

白いウマのペガ

児童書・童話 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

蒼き航路

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

落ちた花 - 豪華から路上へ

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

惚酔

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

平凡次男は平和主義に非ず

BL / 連載中 24h.ポイント:1,093pt お気に入り:3,119

処理中です...